におい・かおり環境学会誌
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38 巻 , 3 号
MAY
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特集(「食」を通してにおい・かおりを考える)
  • 岩橋 尊嗣
    2007 年 38 巻 3 号 p. 150
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    これまで,当協会が重点的に係わってきた“におい”分野は,おもに工場・事業所,畜産,食品関連などに代表されるアウトドアを主体とした臭気対策である.最近ではホテル,病院,介護関連などのインドア臭気問題に対しても積極的な取り組みを始めている.
    本特集は,これまで協会が係わってきている臭気対策分野とは,いささか趣を異にする内容である.これまでも,本誌2005年(No. 5)と2006年(No. 2)において,“においと健康”というテーマで人体に関連する“におい”についての特集企画を組んでいる.本号では“「食」を通してにおい・かおりを考える”というテーマを企画した.ヒトを含む動物は,その生命を維持し,伝承していくために食物として栄養素を摂取し続けなければならない.動物が摂食という行動に出る場合,重要な役割を果たすのが嗅覚,すなわち“におい”である.多くの動物は,まず“におい”によって対象物が摂食可能であるか否かを判断する.また,人類のように視覚による情報入手が優れていても,腐敗などの識別を,まず“におい”によって判断する.“におい”で摂食可能と判断すると,食物を口腔内に入れ,さらに味覚でも摂食の可能性を判断する.不適であれば即座に吐き出す行動を起こすであろう.このように考えると,食物に対する嗅覚と味覚の働きは生命体の維持にとって極めて重要な関係にあることが解る.
    人類の祖先は,太古の時代に“火”というものを手に入れ,その活用法の一つとして食物に“火“を通し加工することを学習した.祖先達はドラステックに変貌する食物の“味(あじ,旨味)”と,さらに“においとかおり“に驚嘆したに違いない.特に“におい成分”はオリジナルの食材には含まれず,熱によって全く新しいものとして発生してくる場合が多い.
    上述したように,生命の維持と摂食は切り離す事ができない.人類は歴史の中で,食材のさまざまな加工法を編み出してきた.“火”を使うことに始まり,発酵させること,塩漬けにして保存することなど,国,地域,民族などの違いによって数限りない“食”が,まさしく文化・伝統として脈々と受け継がれてきている.さらに,そこには特徴ある“においとかおり”が脇役として,あるいは主役として存在しているのである.
    本特集は,全7編からなっており,最初の2編は日本の伝統的な食材である“納豆”と“醤油”にまつわる話題である.3編目は,地域性豊かな食物として有名な滋賀県琵琶湖周辺に伝承されている“ナレズシ”(特に鮒とご飯から作られるものをフナズシと言う)についての記述である.4編目は,日本において最もポピュラーな飲み物の一つになった“お茶”について,5編目では,世界共通の飲み物となっている“ワイン”についての記述である.6編目は,食材を加熱調理・加工したときの“におい”の発生について嗅覚に関わる話題も含めての記述である.最後の7編目は,食物に対する“やみつき”のメカニズムについての記述となっている.以上の7編を,それぞれの分野を専門とされている先生方に執筆していただいた.
    目まぐるしく変動する現代社会,手軽なレトルト食品,ファーストフード,ファミリーレストランなるものが重宝され,“食”のことを考え,じっくり味わうことがめっきり少なくなっているような気がする.さまざまな冷茶が市販されている中,茶葉にお湯を注ぎ,湯気立つ“かおり”を楽しむことを忘れたくないものである.ひょっとして,今の10代,20代の人達は“お茶は冷たくペットボトルから飲むものだ”と思っているのではないだろうか,そんな危惧が頭をよぎる.“食を味わう”,これはまさしく嗅覚と味覚の絶妙なるハーモニーにより成り立っているといっても過言ではない.私達の時代で絶やすことなく,後世へ継承していかなければならない食の文化・伝統について,これを機会に是非とも考えてみたい.本特集の7編は,私たちにそのきっかけを与えてくれる.
    最後に,ご多忙中にも拘らず本特集への執筆をご快諾いただいた多くの先生方に,この紙面を借り,厚く御礼申し上げる次第です.
  • 三星 沙織, 木内 幹
    2007 年 38 巻 3 号 p. 151-162
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    我が国の納豆菌は,現在ではオートメーション化に適する菌3種のみが市販されているだけで,種々の菌株がないために新規の糸引納豆の開発が困難になっている.一方,東南アジアには,中国の豆し,韓国の清国醤(戦国醤)など納豆類が広く分布している.筆者らは,東南アジアの納豆類の現地調査と新しい納豆菌の探索のために試料採集を行ってきた.その一環として我が国の新しい糸引納豆を開発するために,中国の豆しの採集を行った.豆しから細菌を分離して,新しい糸引納豆の製造を行い,軟らかい納豆を製造しうる納豆菌,Bacillus subtilisnatto)KFP843を見つけた.それは,そしゃく困難なまたはそしゃく・えん下困難な高齢者向けの食品の一つとなりうるであろう.また,キャピラリーガスクロマトグラフィーとGC-MSで市販納豆と清国醤のにおい成分を分析して,112種のピークを検出し,GC-スニッフィング法で納豆の主要なにおい成分として10種の化合物を同定した.さらに,軟らかい納豆のにおいにはそのうち7種の成分のみであること,固相マイクロ抽出法で市販納豆には主要成分の濃度に差があることをみつけた.
  • 中台 忠信
    2007 年 38 巻 3 号 p. 163-172
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    醤油は古く中国から伝来したといわれているが,日本において小麦を等量使用し,発酵させることが発明され,香りの優れた日本醤油へと発展した.和食に欠かせない調味料である醤油は,長年日本の食文化を支えてきたが,今や「世界の調味料」となり,全世界へ日本の食文化の紹介に大いに役立っている.醤油は初めは肉に一番合う調味料として,世界に広がったが,最近は健康志向から魚にも合う調味料として,世界に広がることが期待できる.
  • 久保 加織, 西 恭兵, 堀越 昌子
    2007 年 38 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    琵琶湖周辺には,湖魚を御飯で発酵させて作る多くのナレズシがある.最も有名なナレズシがフナズシで,フナと御飯から作られる.発酵後,ナレズシは強い臭みと香り,酸味を持つようになる.発酵過程で,各種の有機酸,アルコール,エステル類が産生され,乳酸は2%くらいまで高まる.
    フナズシの揮発性成分として,酢酸,n-酪酸,エタノール,2-フェニールエタノール,乳酸エチルなど22成分を検出した.発酵後のフナズシ飯は抗菌力を示し,その揮発性成分だけでもバレイショ菌,大腸菌に対して増殖を抑制し,抗菌力を示した.
  • 澤井 祐典
    2007 年 38 巻 3 号 p. 179-186
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    茶の香気は主に3つの要素から成り立っている.(Z)-3-ヘキセノール,(E)-2-ヘキセノール,ノナナール,(Z)-3-ヘキセニルヘキサノエートなどは若葉の青臭の原因成分であり,2,5-ジメチルピラジン(ピラジン類)などは香ばしい焙煎香の原因成分である.紅茶やウーロン茶に多く含まれるリナロール,ゲラニオール(テルペンアルコール)は花や果実の香りの成分である.
    このほか,玉露やてん茶には特別にジメチルスルフィドが多く含まれており,おおい香(葭簀などで遮光して育成することにより発生する)の海苔様の香りの原因成分である.
  • 小阪田 嘉昭
    2007 年 38 巻 3 号 p. 187-192
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    ワインの特徴を説明するためにさまざまな利き酒用語を用いてワインの香味を表現している.ワインの香りをブドウに由来する香り(第1アロマ),発酵過程で発現する香り(第2アロマ),熟成中に現れる香り(ブケー)に分類して,醸造方法に踏み込んだ香りの由来と発生に言及している.ソムリエの利き酒表現をエノログ(ワイン醸造技術管理士)の醸造知識を背景にしたワインの香りの解説である.甲州ブドウからのワインに新しい香り(3MH)の存在が確認された最近の研究やコルク臭の原因についても紹介している.
  • 三宅 紀子, 倉田 忠男
    2007 年 38 巻 3 号 p. 193-199
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    人間の生命を支える食の営みの基礎は食嗜好にあるが,それは生物として生活環境に適応する過程で形成される.人間は他の動物と同様に食物の探索を五感により行うが,化学感覚ともいわれる味覚,嗅覚は好ましい味と香りにより食べ物のおいしさに関与するため特に重要である.進化の過程で火を生活に利用し,加熱調理・加工した食べ物に対する嗜好性を獲得することで人間は地球上の食物連鎖の頂点に立つことができた.加熱過程では各種の食品成分から化学反応により低分子の揮発性成分を生じ,それが焼肉やご飯のにおいの形成に寄与する.
  • 山本 隆
    2007 年 38 巻 3 号 p. 200-205
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    おいしさが高じて特定の食べ物に対する嗜好性がとりわけ強くなった状態をやみつきという.代表的な脳内物質の面からみれば,おいしいと思うときβ-エンドルフィンが,もっと欲しいと思うときにはドーパミンが,そして実際に食べるときにはオレキシンが放出される.このとき,ドーパミンは脳内報酬系を賦活し,摂食欲を高める働きをする.より強力な摂取欲を示すコカインなどの薬物依存症の場合とそのしくみは共通である.やみつきとはある食べ物を想起したり,見たり,実際に口に入れたとき,これら脳内物質が容易にかつ過剰に分泌されるようになった状況とも考えられる.
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