におい・かおり環境学会誌
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38 巻, 4 号
JULY
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特集(生物脱臭の現状と新たな展開)
  • 金川 貴博
    2007 年 38 巻 4 号 p. 249
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    生物脱臭技術,特に,下水処理場などから発生する硫化水素を主体とした臭気の処理技術において,日本が世界最高レベルにあることを私が認識したのは,2003年のことである.この年の9月に,シンガポールで「臭気とVOCに関する第2回国際水協会国際会議」が開催された.その席で米国から参加した研究者が最先端の研究成果として発表した内容が,日本では周知の事柄で,下水処理場などですでに利用されている内容であった.日本で当たり前になっている話が,海外では新発見になっていて,非常に驚いた.
    しかし,考えてみれば,日本の優秀な生物脱臭技術については,本誌をはじめとして日本語でしか紹介されていない.私自身は,生物脱臭に関して4つの論文を海外の学術雑誌に書いているが,それは私自身が研究を行って得た成果を発表したものであり,また,他の日本人研究者たちが英文で書いた論文にしても,自分の研究内容の発表とか,概論の紹介だけであって,海外の研究者や技術者に日本の高度な生物脱臭技術を知らせるようなものがない.このために,日本の生物脱臭技術が海外の研究者に伝わっていないと思われる.
    高効率型の生物脱臭について日本でさかんに研究が行われたのは,1990-95年ごろのことであり,その後,その技術が実用段階に移行し,最近は生物脱臭の話題が学術誌に登場することが少なくなった.とはいえ,この間にも,悪臭処理の現場では技術の進歩やノウハウの蓄積があったのである.しかし,これが学術誌にはほとんど紹介されておらず,現在の技術レベルが一般には伝わっていない.そこで,今回,生物脱臭の特集を企画し,生物脱臭装置の第一線におられる方々に技術の現状をご紹介いただくことにした.この現状を英文にして全世界へ向けて発信したいところである.
    ところで,生物脱臭装置の中で,脱臭の主役として活躍しているのは,細菌である.細菌の性質を詳細に調べるためには,細菌を純粋培養することが必要であるが,現状は,自然界の細菌の99%以上が純粋培養不可能であり,詳しい研究ができない.1990年ごろから,細菌の研究に分子生物学的な解析方法が導入され,DNA解析などを駆使して自然界の細菌を研究するようになったので,細菌を培養できなくても少しだけわかるようになったが,それでも,肝心のところは,純粋培養をしないと解明できない.たとえば,下水処理場で下水処理に利用されている活性汚泥の場合,DNA解析を用いると,どのような種類の細菌がおよそどれくらいの数いるのかという質問への回答を出すことができるが,回答には大きな偏りや誤差が含まれている可能性が高く,信頼性は薄い.さらにこれが,土壌中の細菌となると,土壌粒子がDNA解析を大きく阻害して,研究のやりようがない.
    活性汚泥や土壌のように複数種の細菌が混在する集団を解析することの困難さは,最先端技術を駆使した解析の結果が次々に報告されるようになって,1995年ごろからようやく,多くの研究者に認識されるようになった.生物脱臭装置についても,複数種の細菌が活躍している装置であり,実際にどんな細菌がどんな働きをしているのかを解明するのは難しいと考えられる.しかしながら,生物脱臭装置全体での物質収支を調べることや,純粋培養可能な細菌に基づいた研究から,生物脱臭装置で何が起こっているかは推定可能である.そういう知見をうまく利用し,また,細菌の解析が難しいという事実も頭に置いた上で装置の開発が進んだ成果として,気がついてみれば,すでに日本の生物脱臭装置の水準は世界最高レベルに達していたのである.
    さて,今回の特集では,各論文で記述が重複する部分について,その一部を著者にお願いして削除していただいたが,各論文が独立に読まれるということを考慮して,そのまま残していただいた部分もある.このため,重複する記述が出てくるが,お許しを願いたい.
  • 白石 皓二
    2007 年 38 巻 4 号 p. 250-255
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    生活環境の中で微生物を用いた脱臭装置が認知されて50年,この間,環境上,臭気の問題はあらゆるところで発生し,対策が必要となってきた.薬品による化学処理,活性炭などによる物理処理,そして生物処理.その中でも生物処理は生活環境の中であらゆるところで利用され活躍している.土壌脱臭,活性汚泥を用いた脱臭装置を経て固定床方式が下水道を中心に効果を上げているが,産業界では廃水処理とともに活性汚泥を用いた方式が効果を発揮している.ここでは鋳造工場の例を中心に生物脱臭の流れを紹介した.
  • 日名 清也
    2007 年 38 巻 4 号 p. 256-262
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    充填塔式生物脱臭法は,生物学的脱臭法の一つに位置し,1990年代以降,主に下水やし尿処理などの汚泥系臭気対策として国内で広く普及してきた.本報では,充填塔式生物脱臭法の概略の説明を述べると共に方式別に分類して特徴を整理した.また近年派生方式として応用されている嫌気性バイオガスの脱硫例を述べた.
  • 米久 滋, 宮下 才知, 塚本 敏男
    2007 年 38 巻 4 号 p. 263-268
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    近年,下水処理施設などから発生する臭気処理に対応するため,充填塔式生物脱臭法が実用化されている.従来,本法は,後段に活性炭吸着法を組み合わせて採用されることが多く,吸着剤の交換頻度を減らし,維持管理費を低減させることが目的であった.しかし,さらなるランニングコストの削減および環境負荷低減の要望が強くなり,高性能な充填塔式生物脱臭法の開発が必要とされている.本稿では,充填塔式生物脱臭法の原理,特徴,構成例などを述べるとともに,具体的な適用事例として,下水の汚泥処理設備や水処理設備から発生する臭気を対象とした充填塔式生物脱臭装置の運転条件,処理成績などを紹介した.
  • 上原 喜四郎
    2007 年 38 巻 4 号 p. 269-272
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    「寒冷地型ロックウール脱臭装置」は,平成5年度から農業機械等緊急開発事業の委託研究として,4年間の研究開発期間を経て開発された生物脱臭設備である.
    ロックウール脱臭装置は,土壌脱臭装置を改良・開発した脱臭装置で,土壌脱臭装置と同様,脱臭材料中に生息する微生物群により,悪臭ガスであるアンモニアを,効率的に無臭のガスとして大気に放散させる装置である.
  • 樋口 能士
    2007 年 38 巻 4 号 p. 273-279
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    VOC(揮発性有機化合物)を処理対象とした生物脱臭装置について,その社会的および技術的背景,また最近の動向について解説した.従来より,基礎的な研究開発によってガス状VOCの生物処理の有用性は数多く指摘されてきたが,現実には広く普及するには至っていない.悪臭防止および大気汚染防止に係る近年の我が国における行政施策により,今後,生物脱臭装置がVOC処理装置として益々注目されることが予想される.
研究速報
  • 森北 浩通, 奥本 佐登志, 光田 恵, 佐々木 寛篤
    2007 年 38 巻 4 号 p. 280-286
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/03/22
    ジャーナル フリー
    タバコ臭を付着させたカーテン生地から揮発するガスを吸着剤に濃縮し,ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析することにより,タバコ付着臭を簡易的かつ定量的に評価でき,臭気強度を予測できるタバコ付着臭の成分分析法を開発した.タバコ付着臭にはアルデヒド,オレフィン,複素環化合物,芳香族化合物が多いことを確認した.その中でビニルピリジンの濃度の対数と6段階臭気強度との間に直線関係があることを確認し,ビニルピリジンの濃度から簡易的にタバコ付着臭の臭気強度を予測することが可能になった.
研究速報
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