“食”と“におい・かおり”の関わりについては,本年協会設立20周年記念号(Vol. 38, No. 3)座談会の中での一話題として,さらに同号特集“食を通してにおい・かおりを考える”というテーマの中で7編を紹介している.その中で納豆,醤油,お茶,ワイン,発酵食品(ナレズシ)など私達の日常生活と深い関わりをもってきた食について,歴史的な背景も含め,主に,におい・かおり成分などに視点を置いた内容として掲載されている.
近年,ヒトの五感によって物質(製品)の特性を評価・測定する官能評価すなわち,感性というものが,食品,日用品をはじめとして,自動車産業界など多くの分野での基礎研究や新製品開発において重要な手法として注目されている.特に,食に関わる味やかおりを評価する場合,機器による分析・測定とともに官能評価は欠くことのできない重要な一手段となっている.本特集では“食の官能評価と感性”というテーマで,5名の専門の方々に執筆していただいた.
1編目は,食感品質についての記述である.食感品質(eating quality)とは,食物を手にし(この時点で,におい・かおり情報の一報を得る),口に入れ咀嚼し(この時点で,におい・かおり,味,口中での触感の情報を得る),そして飲み込むまでの一連の感覚性と捉えることもできる.そこには,個人個人の生活背景も大きく関与するとされる.本編では,実例としてソーセージに添加されたかおり効果を,官能評価用語を用いて行った結果について記載されている.次の2編は,アルコール発酵法によって生産される「清酒(日本酒)」と「ビール」についてである.清酒の研究・製品分析には,古くから官能評価が用いられている.日本の風土において,そしてそれぞれの地域において独特の発展を遂げてきた日本酒.しかし,その裏には並々ならぬ努力がはらわれ,嗅覚・味覚を駆使した品質評価法を作り上げてきた歴史がある.ビールは,周知のとおり欧米において発展してきた飲料物である.ビールは清酒と違い炭酸が入り,喉の渇きを癒すため一気に飲みほすという一面をもつ.したがって,ビールには「喉越し」という独特の感覚表現法がある.さらに,これらアルコール飲料物は酸化を受け易く,品質は変化し易い.これらも,においやかおりによって品質評価・管理がなされる.4編目は「コーヒー」についてである.コーヒーの香味を保持するために,原料検査から焙煎などの加工工程でカップテストと呼ばれる官能評価が実施される.また,原料である生豆の段階でもカップテストが行われ,製品の評価がなされるという.なお,国際規格である「ISO6668」には,すでにコーヒーの官能評価の指針規格が設定されている.さすがに国際的商品である.最終編では,消費者の食嗜好を定量化しようとする食感性工学について述べられている.ここで提案されたものが,今後の新商品開発へのさまざまな情報として役立つようになることを目的とし,現在,着実にその成果を出し続けている.
これらの食品の官能評価方法で最大の課題が,言葉での表現法をどうするかであろう.たとえ,言葉としての表現法が定義され統一化されても,実務として評価・検査などをする側はヒトである.すなわち,評価・判定する側(ヒト)のスキル,標準化を,どう成すべきなのか.解決の難しい問題の一つであろう.また,機器分析と官能評価のクロスオーバーをどのようにしたら良いのかも,今後検討しなければならない重要課題の一つであるような気がする.最後に,ご多忙中にも拘らず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
抄録全体を表示