におい・かおり環境学会誌
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38 巻, 6 号
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特集(自然のかおり)
  • 大平 辰朗
    2007 年 38 巻 6 号 p. 405
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    人間は1日に20kgの空気を吸っている.この量は私たちが毎日食べたり,飲んだりしている食べ物や水の10倍にもなる.空気は,窒素,二酸化炭素,酸素でほとんどが占められ,残りのわずかな部分にさまざまな物質が含まれている.それらの一部には,花などの「かおり」がある.かおりを吸った人間は,その量が微量であっても,さまざまな反応が起きる.
    私たちの周りには,さまざまなかおりとにおいの発生源がある.工場の排煙,車の排気ガスなど人間が人工的に作り出したものの他,海,草原,森林などの「自然のかおり」も存在する.かおりとにおいによる悪影響は古くから悪臭問題などがあるが,最近ではさらに深刻なシックハウス症候群,大気環境汚染など社会問題化しいるものもある.そのような背景の中,昨今では自然のよさが再考されており,「自然のかおり」の特徴や機能についても注目されるようになった.
    そこで,本号では「自然のかおり」について特集を企画することにした.「自然のかおり」と一言で表現しても,その種類は多岐にわたる.ここでは代表的なものとして海,植物,花のかおりについて,その分野の第一人者の方に概説していただいた.
    最初に,地球上で生命が最初に誕生したとされる海について取り上げる.太古の地球で最初に生命が誕生したのは,海の中である.そこで生育する生物が発散するかおりとはどのようなものだろうか.「海のかおり」は人それぞれ感じ方や連想するかおりが異なり,一言で表現することが難しい海洋系のかおりである.それらを構成している代表的な物質の種類や機能性などについて解説いただいた.懐の深い「海のかおり」の世界をお楽しみ下さい.
    海で誕生した生命は,大気の状態が安定するにつれて,それまで海の中でしか生息できなかった植物の一種が陸上に進出し始める.陸にあがった植物は長い時間をかけて劇的な進化をとげ,やがて花という巧妙な手段を手に入れる.そこで次に「植物のかおり」を取り上げる.一言で植物といっても,草本類から木本類まで多種類あるが,まず草本類の「緑のかおり」について取り上げる.新緑の時期になると実にすがすがしい「緑のかおり」がするのを経験された方も多いことでしょう.ここでは「緑のかおり」の正体とは何か,それらの生成するメカニズム,人への影響など,著者が世界に先駆けて取り組んできた50年にも及ぶ研究の一端を紹介していただく.緑のかおりの巧妙な仕組みを知ると,自然の奥深さの一部にふれた思いがすることでしょう.
    植物はやがて,草本類から木本類へ進化をとげる.日本は国土の67%が森林で構成されている森林国である.森林には種々の樹木から多くの物質が発散されており,独特なかおりがする.それらのかおりを胸いっぱい呼吸すると実にすがすがしく感じる.また,森林で育まれるものに木材があるが,それらは主として住宅の建材として利用される.新築の住宅に入るとぷーんと木材のかおりがし,何とも落ちついたなじみのあるかおりを体験した方も多いことでしょう.このような「森林のかおり,木材のかおり」とはどのようなものだろうか,それらの特徴などについて概説いただいた.
    最後に,「花のかおり」である.花は古くから,香料原料としても用いられており,その香りの種類も多様である.地球上の土地それぞれの気候風土にあった植物が,その命の輝きの頂点で花を咲かせ,さまざまなかおりを放っている.人は古くから花の快いかおりを求め,それらを愛でてきた.花にまつわる話は膨大な量になるため,ここでは長年の研究例の中から,一部ではあるが紹介いただくことにした.花にまつわるさまざまなエピソードも交えて,興味深い内容になっている.
    「自然のかおり」は幅広い.今回は紙面の関係で代表的なものの概略しか紹介できなかったが,本特集を機に,多くの読者が「自然のかおり」について認識を深めていただければ幸いである.
    最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
  • 梶原 忠彦
    2007 年 38 巻 6 号 p. 406-414
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    特異なC11炭化水素およびそのアルコール体とアセテート体であるディクティヨプテレン類,ディクティヨプロレノール類,ディクティヨプロレン類,ならびに環状ラクトンが,それぞれヘラヤハズ,シワヤハズ,ヤハズなどのヤハズグサ属褐藻およびイシゲなどイシゲ属褐藻から海を想起させるかおり成分として同定されている.キュベノールのようなセスキテルペン類および長鎖アルデヒド類や短鎖アルデヒド,アルコール類などオキシリピン類が,海藻を想起するかおり成分として明らかになっている.これらオキシリピンかおり成分は,C11かおり成分を含めて,C20高度不飽和脂肪酸から生合成され,海水に放散される.それらのかおり成分は海洋生態系で種族の維持・拡大のための役割を担っている.
  • 畑中 顯和
    2007 年 38 巻 6 号 p. 415-427
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    いわゆる,“みどりの香り”の成分は青葉アルコールおよび青葉アルデヒドをはじめとする,炭素の数が6個の飽和,不飽和化合物,8種のから成り立っている“複合の香り”である.ここでは,これらの香りの生態系での役割をはじめ,どのような経路で生合成され,どのような酵素反応を呈するのか,その妙技を紹介する.そして,森の中での,このみどりの香りとテルペン類,植物の2次代謝産物,生理活性化合物との相関関係,植物と害虫との攻防の見事な構図について披露する.さらに,みどりの香りのヒトへの生理的影響,これらの構造とヒトの官能,心理・疲労回復・ストレス解消・免疫などとの相関について述べ,その神秘性にせまる.
  • 谷田貝 光克
    2007 年 38 巻 6 号 p. 428-434
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    樹木はそれぞれに特有な香り成分を放出する.その香りの正体はイソプレン,揮発性テルペン類,青葉アルデヒドなどのC6化合物などである.香り成分の濃縮された液体である精油は50~100種類の成分を含み,樹種によってその個々の構成成分含量は大きく異なる.
    本稿では,木の香り成分の持つ抗菌作用,消臭・VOC除去作用,害虫防除作用,快適性増進作用などの多様な生物活性について具体例を挙げながらご紹介する.
  • 中村 祥二
    2007 年 38 巻 6 号 p. 435-443
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    花の香りは極めて多様である.各地の気候風土の中で,人はいつも花の快い香りを求め,愛でてきた.
    本稿では花の香りの典型例について歴史や文化を交えながら記述する.筆者が実際に研究したり経験したりした興味ある花香の中から,バラ(ブルガリアローズと現代バラ),ラン(カトレアと東洋ラン),香料産業における花,夜間香りを強める花,クローブとマドンナリリー,日本の園芸文化における花,悪臭の花について紹介する.また,何処でこれらの花香に出会えるかについても触れた.
研究論文
  • 小林 剛史, 小早川 達, 秋山 幸代, 戸田 英樹, 斉藤 幸子
    2007 年 38 巻 6 号 p. 444-452
    発行日: 2007/11/25
    公開日: 2008/09/19
    ジャーナル フリー
    我々は,においの知覚におよぼす認知的要因の効果について検討している.先の研究1)において,ある同一のにおい刺激に対して異なる教示(ポジティブおよびネガティブ教示)を与えた場合,同一の実験参加者が両方の教示条件を経験する実験計画だと(被験者内計画),順序効果(学習要因)が有意で,教示による感覚強度の差は有意ではないことを報告した.そこで本研究では,実験参加者が一方の教示(ポジティブあるいはネガティブ教示)のみ経験する実験計画(被験者間計画)のもとで教示の効果を検討した.装置はKobal式オルファクトメーターを使用した.実験参加者は,実験で使用されるにおい刺激(アネトール)に関する説明(ポジティブ,ネガティブな内容のいずれか)を受け,その後におい刺激が断続的に計60回呼吸非同期で鼻腔に提示される間,リアルタイムに強度評定を行った.15回のにおい刺激提示を1セッションとし,計4セッション行い,1セッション終了毎に3分間の休憩を挿入した.におい刺激は14.8秒ごとに200ミリ秒提示した.その結果,ネガティブな教示を受けた参加者は,ポジティブな教示を受けた参加者と比べて有意に高い感覚強度を示した.さらに,ポジティブ教示群は第3,4セッションでは感覚強度が低下したが,ネガティブ教示群では高いまま維持された.以上のように,被験者間計画のもとで短時間のにおい刺激を断続的に提示した場合,感覚強度に対する教示の影響(認知的要因の効果)が顕著に見られるという結果を得た.
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