工場等からのVOCの排出抑制を目的とした大気汚染防止法の一部が改正され,平成18年4月1日,VOCの排出の規制等に係る規定として施行された.固定発生源に関しては,法と自主的取組のベストミックスで,平成22年までに平成12年度比で3割削減することを目標として進められてきた.しかし,排出事業者側の抑制対策技術の具体的検討および用地や資金問題などを考慮するとかなりの期間を要することを配慮し,排出基準の適用については平成22年3月31日までの猶予期間が設けられることとなった.このようにVOCの排出抑制対策は,まさに「待ったなし」の状況にある.
これまで,法規制の対象となる事業者の工程の改善や低VOC原材料への代替などのいわゆる工程内対策(インプラント)と排出を防止する対策技術(エンドオブパイプ)を実施する努力でVOCの削減が確実に進んでいる.大部分のVOCは臭気問題として発生することが多く,有効なVOC抑制対策が臭気問題の解決になっていることも多い.
環境省水・大気環境局大気環境課 勝亦政幸氏には,このように大気汚染防止法に基づくVOCの排出抑制対策が導入された経緯や法制度の解説,VOC排出インベントリー(目録)の見直しによる最新の排出量や推移の調査結果,広報活動や実証試験および表彰制度等に関して分かりやすく解説いただいた.
独立行政法人国立環境研究所大気圏環境研究領域 今村隆史氏には,光化学オキシダントや粒子状物質の生成とVOCがどのように係わっているか,最新の理論やメカニズムを詳しく解説いただいた.
近年,VOCの排出抑制対策が進んでいるにもかかわらず,光化学オキシダントの注意報発令数が増加している傾向が発表され,多くの研究機関による大圏レベルでの観測データやシミュレーション結果から,光化学オキシダントの発生メカニズムに大陸からの越境汚染も影響しているのではないかと議論されている.
また,地球規模でのCO
2削減対策が叫ばれている現在,VOCを削減のためCO
2の発生を増大できないという矛盾を解決しなければならないという,非常に難しい現実に直面しているのも事実である.今回の特集における対策技術は,このような現状を踏まえて,いかに消費エネルギーを抑制し高い効率でVOCを削減するか,最新技術を紹介する.
中外炉株式会社大気浄化グループ技術課 渡辺球夫氏には,高効率蓄熱燃焼装置を用いたVOC処理の導入事例と蓄熱燃焼装置の解決された問題点や事例および省エネ効果に関して紹介いただいた.
株式会社西部技研 田中康弘氏には,ゼオライト濃縮ローターによるシステムで蓄積される高沸点成分など,脱離(賦活)が難しい成分をさまざまな技術で改良された実例や,パッケージ型の標準装置における有効性や省エネ効果を紹介いただいた.
北炭化成工業株式会社 環境技術本部 直田真一氏には,活性炭吸着によるVOC処理装置は燃焼によるCO
2の排出が基本的に発生しない長所があるが,活性炭の交換にかかわるさまざまな問題点がある.本稿では,活性炭の充填法や再生し再利用するシステムの事例を交えて紹介いただいた.
VOC排出抑制対策技術は,今回執筆いただいた技術の他にもさまざま発表されているが,本特集がVOC排出抑制に係わるさまざまな解決の一助となれば幸いである.
抄録全体を表示