国土の約7割が森林である世界有数の森林国の日本では昔から木材への愛着が高く,西欧の「石の文化」に対し,「木の文化」と呼ばれてもおり,住宅の柱材,内装材などへの木材の利用率が高い.そのため木材を加工する様々な工場が多く存在しており,それらに適した技術開発も盛んである.住宅で使用される建材には,柱材,構造部材,天井板,フローリング材,壁材,合板など多種類のものが開発されている.それらには乾燥,塗装,接着など様々な処理が施されている.その中で最も重要な処理の一つとして“乾燥”がある.伐採直後の木材は含水率が高く,その状態で使用すると,時間の経過とともに,水分がなくなり,やがては“割れ”,“そり”などの問題が生じる.そのため木材中の水分を一定の割合まで低減させる乾燥処理が必要である.乾燥法としては,年単位の時間をかけて屋外で自然に乾燥させる「天然乾燥法」が昔から用いられてきた.しかし近年の需要の拡大とそれに伴う製造コストの削減の観点から,乾燥時間のスピードアップ,乾燥効率の向上等の技術,いわゆる「人工乾燥法」が用いられることが多くなっている.この方法では材中の水分をいかに効率的に低減するかがポイントであり,そのためには水分が蒸発するのに必要な温度で材を加熱することが求められる.急激な加熱処理は乾燥時間の短縮になるわけだが,柱や板材のような厚みのある材料の場合,熱が素材に与える影響が大きく,乾燥割れや表面材色の濃色化など利用上問題が生じてしまう.そこでなるべく処理温度を上げずに処理する“低温乾燥法”が開発され,現在の主流となっている.一方,薄い板を貼り合わせた合板などの製造工程でも単板を乾燥させる工程が重要である.乾燥が不十分であると,接着不良になったり,割れやそりといった問題が起きるためである.大量生産が必要であること,単板が薄いため熱による影響が現れにくいことなどの理由で柱や板材よりも高温で処理されることが多い.
木材を加熱すると,その温度にもよるが,含まれる水分といっしょに木材由来の様々な物質が排出する.建材の原料はコストの関係上,これまで海外から輸入される材が多く用いられてきたが,近年の原木事情の変化により,スギ,ヒノキなど国産の針葉樹に変わりつつある.そのため,乾燥工程で排出される成分も変化してきている.輸入材は広葉樹が多く,それらの場合,排出される成分は水分以外,有機酸等わずかな有機物にすぎなかった.しかし,針葉樹の場合,水分以外にテルペン類,有機酸類,炭化水素類など多種類の物質が存在し,中でもテルペン類の割合が高いのが特徴となっている.これらの物質は,濃度が高い場合,悪臭の原因となる可能性もあり,現在の製造工程では直接放散させずに,排出する成分量を低減化させる対策が講じられていることが多い.最近では大気汚染防止法改正の一環として排出量の規制も取りざたされている.
これらの対策の結果,乾燥排気中に含まれる成分が凝縮液として得られることになる.それらは紛れもない木材由来の物質であり,原料から水蒸気蒸留などにより採取し,利用されている香り成分と同じであり,利用価値が高い物質でもある.環境への負荷という点で,排出成分の低減化策が構築され,その過程で一見不要物であるように見える成分が,実は機能性の高い付加価値の高い成分となっているわけである.工場の規模にもよるが,低減化策には膨大な予算が必要であるので,排出・回収される成分が利用できれば,総合的にはコスト削減につながると考えられます.
本特集では日本人にとって愛着のある木質建材が,製品としてできるまでの過程での重要な処理である乾燥工程で排出される成分の特徴やそれらの利用の可能性を主として取り上げた.この機会に多くの読者が「木質建材」について認識を深めていただければ幸いである.
最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆をご快諾いただいた方々に,本紙面を借りて厚く御礼申し上げます.
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