におい・かおり環境学会誌
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41 巻, 3 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集 (バラの香り)
  • 岩橋 尊嗣
    2010 年 41 巻 3 号 p. 149
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    巻頭に掲載したさまざまなバラの写真,印象はいかがですか? 印刷インクにバラの香りのマイクロカプセルを使用すれば,臨場感は増したのですが,それは次の機会に取っておきます.
    2009年11月,「青いバラ」が満を持して市場に出され,クリスマス商戦に花を添えた.開発に着手してから,およそ20年の歳月が流れたという.2004年,青いバラが出来たというプレス発表を記憶されている方も多いのではないでしょうか.同年4月から10月に静岡県浜松市で開催された“浜名湖花博”に,この青いバラは展示された.私事で恐縮であるが「百聞は一見に如かず」生来の野次馬根性も手伝って,さっそく花博会場を訪れた.「青いバラ」はガラス製のケースに収められており,風で揺らぐこともなく,勿論香りは全く伝わってこない.言葉は悪いが,一瞬目の前に造花が現れたように感じたことを記憶している.青いバラの開発については,開発中のさまざまな苦労話も含めて,中村氏ら(サントリーホールディング(株)他)に執筆していただいた.研究開発は粘り強く,そして継続性が大切であることを思い知らされる.
    “花の女王(香りの女王)”とも呼ばれるバラ,古代エジプトの女王クレオパトラは,バラを浮かべた湯船につかっていたとか.当時もバラは最高級の花の一つであったに違いない.日本の有史以前,ギリシャ,エジプト,ローマ時代に,すでにバラは珍重されていたのである.上田氏(岐阜県立国際園芸アカデミー)には人類とバラとのかかわりを歴史的な背景を織り交ぜて執筆していただいた.
    紀元前の時代から親しまれてきたバラは,品種も膨大で,系譜図もかなり複雑である.バラの香りは花弁から発散される.しかし,バラの長い歴史の中で,香りは勿論であるが,それよりも視覚にうったえる品種の開発が優先されてきた経緯がある.蓬田氏ら((株)蓬田バラの香り研究所)は,バラの香りを詳細に解析し,香気特徴を9つのノートに分類することを試みている.執筆内容から並々ならぬ努力の結実であることがうかがえる.そして今,より芳香の優れたバラの開発に傾注されている.
    バラの香りの主成分として重要なフェニルエチルアルコールは,嗅覚検査に使用されるT & Tオルファクトメーターのにおい物質の一つである.臭気分野に携わっている者にとって,ある意味最も身近な香りの一つであるかもしれない.それともう一つ,バラの香りで重要な成分がダマセノンである.現在最高級の精油といわれる “ブルガリアローズ油”,その主成分の一つがダマセノンで,バラ様の強い芳香を有している.小林氏ら(メルシャン(株)他)は,このバラ様香気であるダマセノン成分量を促進させた甲州ワインの醸造法を確立した.本論では,醸造の実用化に至る研究過程の詳細について執筆していただいた.
    前述したとおり,バラの花は香りよりも視覚にうったえる華やかさが優先されてきた.事実,市場に出回るバラの内,香りの良いバラは2割程度に過ぎないという.理由は,長時間の流通に耐え,花持ち・花色が良いこと,生産性が良いことなどを必須条件に,数多くの品種が作り出された結果であるといわれる.花き業界で活躍されている宍戸氏((株)大田花き)は,バラを含めて花の香りの重要性を主張されている.本論では,それらの活動の一端を紹介していただいた.
    以上,5編の組み立てで“バラの香り”を特集した.是非,本論をご熟読願いたい.ご多忙中にもかかわらず,ご執筆を快諾していただいた著者の方々には,本紙面を借りて厚く御礼申し上げる次第です.最後に一提案です.次の休日に一度バラ園(植物園)などに足を運んでみてはいかがでしょうか.にわか知識になるかもしれませんが,本誌からの若干のバラ情報を詰め込み,華やかさを観るだけではなく,鼻を近づけて香りのするバラ,しないバラ,そしてさまざまなバラの香りと歴史にふれてみて下さい.
  • 中村 典子, 城市 篤, 寺嶋 有史, 田中 良和
    2010 年 41 巻 3 号 p. 150-156
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    バラにはdelphinidinという多くの青い花に含まれる色素を合成する能力がなかったため青い品種がなかった.パンジーから得たdelphinidinを合成するために必要な遺伝子をバラで発現させると,delphinidinの含有率が95〜100%になり,花色が青く変化したバラを得ることができた.その中から選抜した系統について生物多様性影響評価をおこない,カルタヘナ法に基づく生産・販売の認可を取得した.アプローズ(花言葉「夢かなう」)として販売中である.アプローズは,香りがよく,その主成分はgeraniolであり,従来のバラの中では交雑で作出された紫色のバラの香りに近い.
  • 上田 善弘
    2010 年 41 巻 3 号 p. 157-163
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    バラと人の付き合いは花の香りを利用することから始まった.それは古くは古代ペルシャにさかのぼり,その後,ローマ人はバラを多用し,小アジアやエジプトから輸入した.香料用に利用されていたバラは,その花のはなやかさにより観賞用植物として大発展することになる.ところが,これまでのバラ育種では,バラ本来の重要な形質である香りよりも花の色や形に視点がおかれていた.最近では,香りが再認識され,新たな香りバラの育種が世界各国で行われるようになってきた.
  • 蓬田 勝之, 黒澤 早穂
    2010 年 41 巻 3 号 p. 164-174
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    現代バラは,西洋のバラと東洋のバラが人のひらめきや知恵によって交配され誕生した.より美しいものを創り出したいとする人間の代わらぬ情熱が,いつの時代にも見えてくる.そして現代にあっても,美しいバラの神秘さは人を惑わせるほどの「香り」にあることに異論はないであろう.現代バラのハイブリット・ティー(HT)ローズは,ティー・ローズとハイブリット・パペチュアルローズの交配により誕生した.現在,園芸種の約70%はHTローズと言われている.古代から現代バラおよび原種や原種間交雑種などの嗅覚評価とヘッドスペースGC/MS分析を行うことで,現代バラの香りの系譜およびタイプ分類について言及した.
  • 宍戸 純
    2010 年 41 巻 3 号 p. 175-180
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    市場に流通するバラのうち,香りの良いバラは2割程度にとどまっている.これは,輸入品が増加する傾向のなか,「香り」よりも長期輸送に耐えられる「丈夫さ」とあらゆる国で受け入れられる「見た目」が重視されていることにもよる.国内花き産業の振興を図るためにも,流通の過程で変化しやすい「香り」に価値を持たせた品種の安定供給をめざした取り組みが必要である.花き業界の方に香りへの理解を持ってもらうため,香りの種類や強さを記号化した取り組みを行っており,その一端を紹介する.
  • 小林 弘憲, 勝野 泰朗
    2010 年 41 巻 3 号 p. 181-187
    発行日: 2010/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    「ブルガリアン(オールド)ローズ,リンゴのコンポート」などのニュアンスを持ち,植物,果物などに幅広く存在するβ-ダマセノンは,いくつかの脂肪酸エステルとともにワインのフルーティーさに寄与する物質である.酸素の介在,低pH, 高温処理は,甲州果汁におけるβ-ダマセノン量の増強に有効な因子であった.また,プレス区分の果汁は,フリーラン区分の果汁に比べ,より多くのβ-ダマセノンを含んでいた.甲州ブドウの各器官におけるβ-ダマセノン量は,重量比として果汁 : 果皮=1 : 3であった(種子は検出されず).これらの知見を基に,プレス果汁を用いたスキンコンタクト法を採用した実用化規模のワイン醸造を試みた結果,通常の甲州ワインと比較して最大7倍程度のβ-ダマセノン濃度を含有する甲州ワインが得られた.
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