におい・かおり環境学会誌
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42 巻, 2 号
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特集(最近の花き・果物のかおりに関して)
  • 岩橋 尊嗣
    2011 年 42 巻 2 号 p. 101
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    花き類の魅力と言えば,やはり鮮やかさを眼で見,香りを鼻で嗅いで楽しみ,癒され,そして元気付けられることであろうか.私事で恐縮であるが,先日(2月27日)「世界らん展日本大賞2011」の最終日,東京ドームへ足を運んだ.最終日とあってかなりの混雑ぶりであった.ドーム内は人混みのせいもあり汗ばむ感じであったが,蘭は見た目の華やかさとは違い,花の香りはどちらかというと控え目である.展示の中で興味をそそられたのが“フレグランス審査部門”であった.洋蘭,東洋蘭,日本の蘭などさまざまな香りを放つ蘭が一堂に会し,見事に咲き誇っていた.しかし,香りとなると花に顔を近づけて初めてはっきりと認識できる程度であり,あくまでも控え目であった.
    香りの強い花の代表の一つとしてユリ(百合)が挙げられる.本特集の一番目は,ユリの中の代表ともいえる「カサブランカ」について,大久保氏((独)農業・食品産業技術総合機構 花き研究所)に“ユリ「カサブランカ」の強い香りの抑制”という題目で執筆していただいた.通常,花き類の場合,バラなどに代表されるようにいかにして香りを強くするかという研究は盛んに行われている.しかし,カサブランカの場合は全く逆で,香りが強すぎるため室内に飾るには抵抗を持つ人も多い.本内容は香りを抑制するための研究成果についての情報で,切り花のつぼみ状態のときにフェニルアラニンアンモニアリアーゼを含有する水に生けると,開花した時に大幅に香りが抑制される事を見出し,現在実用に向けたさらなる研究が進められている.
    次は,石坂氏(埼玉県農林総合研究センター園芸研究所)に“種間交雑による芳香シクラメンの開発”という題目で執筆していただいた.シクラメンは,歌謡曲の題目に取りあげられたり,12月にはクリスマスの時期に合わせて花屋の店頭に数多くの鉢植えが並び,日本人にとって非常に馴染みの深い花になっている.しかし,あれだけの数が店先に並べられていても,シクラメンの香りをイメージ出来る人はそう多くはないと思う.園芸品種のシクラメンは,華やかさに優れているが香りは弱く,ウッディー・パウダー調であり好ましいとは言い難い.これに対し,野生種には花としての価値は低いがフローラル系の強い香りを持つ種が存在するらしい.著者の所属する研究所ではこれらの品種の掛け合わせを長年にわたり研究し続け芳香シクラメンの育成に成功した.本文からは新品種を作り出す時の並々ならぬ努力の積み重ねの結果である事がうかがえる.
    次は,津田氏(中部電力株式会社),大西氏(日本メナード化粧品株式会社)らに“甘い香りのキク「アロマム」の開発について”という題目での執筆である.キクから抱くイメージはと問われると,殆どの人は仏事(お葬式)と答えるだろう.一方,秋には菊人形や社寺境内などで大輪を咲かせる菊展覧会などのイメージも付きまとう.しかし,キクの香りとなるとしばし考え込む.著者らは「誰も見たこともないキクを作る」という大目標をかかげ,栽培種と野生種を交配するという研究に着手し,平成22年にいままでには存在しないフローラルでフルーテイ感のあるフレッシュな香りを放つキクの新種の開発に成功している.
    最終の4編目は,野口氏に((独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所野菜育種研究チーム)“野生種から新しい香りを導入したイチゴ種間雑種品種「桃薫」”という題目で執筆していただいた.前3編は花き類に関する情報であったが,ここでは日本人に最も好まれている果物の代表であるいちごの香りについての記述である.「とよのか」,「とちおとめ」などの名前を聞いて多くの人はイチゴを思い浮かべる.ここでは,市場に無い新しい切り口となるいちごを作り出すという目標に向かい種々研究されたことが述べられている.本文中の表−7に記載されているいちごの品種間の香気成分の相違は非常に興味深い.
    以上,特集を掲載するにあたり,僅かばかりの紹介文を書かせていただいた.今後も花き類,果物類の分野では飽くなき香り・味への挑戦が繰り広げられるであろう.本誌でも新しい情報が得られれば遂次紹介していきたい.最後になったが,本特集を掲載するにあたって,執筆依頼をさせていただいた先生方に深く感謝申し上げる次第である.
  • 大久保 直美
    2011 年 42 巻 2 号 p. 102-106
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    強い芳香を持つユリは,狭い空間に置くとにおいが充満するため,不快に感じられることがある.強い香りを持つ花の利用を広げるため,ユリ「カサブランカ」を用いて花の香りの抑制方法を検討した.
    「カサブランカ」の香気成分を分析した結果,不快臭を有する成分は芳香族化合物と考えられたことから,香気成分生成抑制剤としてフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL : phenylalanine ammonia-lyase)阻害剤を選択した. PAL阻害剤処理区において,香気成分量はコントロールの10〜20%程度となった.官能的にも,PAL阻害剤処理を行ったユリの香りは,無処理区に比べ弱まった.以上のことからPAL阻害剤は,「カサブランカ」の香りの抑制に利用できると考えられる.
  • 石坂 宏
    2011 年 42 巻 2 号 p. 107-113
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    シクラメンの園芸品種はCyclamen persicumの野生種の花の色,形,大きさを改良することにより育成されてきたが,C. persicumの育種において香りは改良されてこなかった.そこで,シクラメンの香りの育種を開始した.C. persicumの園芸品種とC. purpurascensの芳香性野生種の種間交雑によりC. purpurascensと同様の香りを発散する芳香シクラメン,‘麗しの香り’, ‘香りの舞い’および‘孤高の香り’を育成した.芳香シクラメンの香りはC. persicumの園芸品種に比較して大きく改善されたが,それらの花色の多様性は少なくなった.これまでに,芳香シクラメンの花色の多様性を増やすためにイオンビーム照射技術による突然変異育種を実施してきた.
  • 津田 その子, 大西 美和子
    2011 年 42 巻 2 号 p. 114-121
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    中部電力は広島大学と共同で,甘い香りのするキクの新品種「アロマム」を開発した.一番の特徴は,青りんごや濃い蜂蜜などと表現されている甘い香りであり,香りを表す「アロマ」とキクを表す「マム」から命名した.花や葉の形も従来の一般的なキクとは大きく異なっているほか,シックハウス症候群や大気汚染の原因物質であるホルムアルデヒドや二酸化窒素の吸収能力も優れており,生産者とともに販売拡大に取り組んでいるところである.寄稿の機会をいただき,ぜひアロマムについて紹介させていただきたい.
  • 野口 裕司
    2011 年 42 巻 2 号 p. 122-128
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    イチゴに新しい香気特性を導入するために野生種との交雑が試みられ,F. nilgerrensisとの交雑により,モモ様香気を有する「久留米IH1号」が育成されているが,果実の外観,収量性に問題があり,広い普及には至っていない.そこで,新たな10倍体種間雑種品種「桃薫(とうくん)」を育成した.「桃薫」の果皮は淡黄橙色で光沢があり,外観が優れる.香気成分は,カラメル様,ココナッツ様およびモモ様の香気成分が多く,官能的にもモモ様の香りを強く感じる.香りの特徴を生かし,地域特産品用,贈答用,業務用,観光農園および家庭園芸用に利用できる.
総説
研究論文
  • 森田 康敬, 港 良介, 樋口 能士, 中島 淳
    2011 年 42 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2011/03/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    VOCの排出規制が施行され,VOC削減対策として処理装置のさらなる普及が期待されている.本研究ではVOC発生源として自動車塗装工場を取り上げ,流路可変機構を有する4塔直列の生物脱臭装置(Switch-Feed Multi-Column Biofiltration, SFMC)を用いて6種VOC混合ガスの処理特性を検討した.VOC除去を一次反応とした速度係数(kd)は,酢酸3-メトキシブチル,酢酸ブチル,メチルエチルケトン(MEK),エチルベンゼン,トルエン,キシレンの順に大きく,親水性VOCと疎水性VOCの差違が明らかであった.担体の乾燥による親水性VOC除去の低下が顕著であり,乾燥傾向にある入口側の担体含水率を維持する必要が指摘された.また高負荷運転で生じた担体目詰まりと圧力損失の増大は,酸化剤洗浄により低減することができた.
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