今年で,当協会は社団法人化されて25周年の節目を迎えた.また,2011年4月からは内閣府より公益社団法人としての認可を受け,法人としての公益性を重視した活動が益々重要になってきている.これまでの協会の活動は,屋外における臭気対策に関わる案件が圧倒的に多い.しかし,近年,私達の日常生活にまつわる“においトラブル”の事例が非常に多くなってきており,毎年梅雨時にはTV,雑誌などで一斉に居住空間内の臭気対策に関わる特集が組まれ注目されている.当協会でも臭気判定士や臭気対策アドバイザーを紹介しマスコミへの対応を図っている.本誌の特集記事でも,ここ数年日常生活に関連する臭気問題を取り上げる機会を多くしてきた.本年8月には,これらの特集内容を主としてまとめた「食とにおい」を発刊しており,興味のある方は是非ご一読いただきたい.
臭気対策で最も重要なことは,問題が生起している場所での的確な状況把握である.すなわち,客観的かつ根拠を有する手段で臭気を測定し,そして判断しなければならない.これらの根拠になっているものが昭和46年に制定された悪臭防止法である.臭気を測定(判定)する場合,機器分析装置を使用する方法と,人の嗅覚による方法に分けられる.複合臭という概念が取り入れられてから,嗅覚測定法が重要な位置を占めるようになっている.
本特集では,“臭気測定に関わるアーカイブス”と題して,4編の記事を掲載する.まず始めに,諸井氏(本誌編集委員会事務局)には,「悪臭防止法改正の経緯—臭気指数規制導入を中心に—」という題目で執筆していただいた.悪臭防止法に関わる事項が年を追って的確にまとめられている.日本で制定され世界でも類を見ない臭気に関する法律ができ,施行され,さらに見直され改訂されていった変遷が理解できる.
第2編では,岩崎氏(本協会会長)に「三点比較式臭袋法はどのようにして作られたか」という題目で執筆していただいた.臭気関連の仕事に携わった人達であれば,だれもが認知しているのが三点比較式臭袋法である.臭袋法を確立するまでに持ち上がったさまざまな問題点を明確にし,解決していった歴史が述べられている.あらためて,著者の嗅覚測定法を根拠のある普遍的なものに仕上げるという信念・情熱には敬服するばかりである.
第3編では,永田氏(元財団法人日本環境衛生センター)に「臭気物質の嗅覚閾値の測定について」という題目で情報をご提供していただいた.現在公表されている223物質の閾値(検知閾値)データは,臭気関連の仕事をしている者にとってはバイブル的存在になっている.これらのデータは三点比較式臭袋法によって求められたもので,12年間という長きにわたって測定され得られたものである.文面からは測定時の多くのご苦労が伝わってくる.今後は,これらのデータの精度管理という意味合いからも,さらなる複数機関で検証する必要性を強調されている.
第4編では,藤倉氏(桜美林大)に「悪臭防止政策の変遷—臭気判定士制度制定に至る経緯—」という題目で執筆していただいた.当初は物質濃度規制であった悪臭防止法に,官能評価法である臭気指数規制を組み入れるという大きな仕事すすめられたのが藤倉氏で,臭気判定士という国家資格の制定にも大変なご尽力をされた.これらの経緯について解り易く述べられており,法律を変えていくときのご苦労も是非感じ取っていただきたい.
最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず多くの情報・データを取り揃えご執筆いただいた著者の方々に対し,本紙面を借り深く感謝申し上げます.
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