におい・かおり環境学会誌
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43 巻, 3 号
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特集(カビによる環境汚染問題)
  • 岩橋 尊嗣
    2012 年 43 巻 3 号 p. 183
    発行日: 2012/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    日本では,これからの季節,温度と湿度の高い生活環境を迎える.そして,梅雨どきのジメジメ感は不快指数を一気に押し上げる.においと湿度の関係の定義は未だ確立されていないが,一般的には,湿度が高くなると,においに対しても敏感になりがちである.これは,高湿度によりもたらされる身体的な不快感との相乗効果も考慮する必要がありそうだ.また,高湿度になると空気の循環性が悪くなり,におい物質は滞留し易くなる.このような現象によっても,人はにおいをより強く,不快に感じるようになる.
    さらにこの時期,気温・湿度の上昇にともない微生物の働きが活発化する.この時に問題になるのがカビ・バクテリア(細菌)によって作りだされるにおい物質である.本特集では,微生物分野の研究で活躍されている専門の方々に,以下に示すテーマについてご執筆いただいた.いずれのテーマも,読者の方々に有益な情報となり興味深く読んでいただける事を確信している.
    鍵氏(東工大大学院)には「居住空間での微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)について」という題目で執筆していただいた.真菌(カビ)や細菌(バクテリア)などの増殖と代謝過程において様々なMVOCが産生される.ここでは,カビによって作られるMVOC に特化しての記述である.主たるMVOCはアルコール類,ケトン類,アルデヒド類,スルフィド類,低級脂肪酸類,テルペン類,フェノール類等で,これら多種の物質が複合されて,カビ臭が形成されるようだ.通常,ジェオスミン,2-メチルイソボルネオール類がカビ臭の典型とされるが,室内空間のカビ臭は単純ではなく複合臭である事が解る.
    柳氏(工学院大)には「空調システム内微生物の汚染とカビ臭の対策」という題目で執筆していただいた.空調システム(エアコン)内は,微生物(カビ,バクテリア)が容易に増殖できる環境が整っている.特に冷房時は栄養分,温度,湿度,酸素(空気)の条件が揃っており,微生物の増殖が活発化され,それに伴ってにおい物質も産生される.
    また,空調システムで生起する微生物汚染は,外部から空調系を経由する在郷軍人病(レジオネラ肺炎)と空調系自身が汚染源となる加湿器病に分類される事,調査事例も含め空調システムから分離された微生物,さらに殺菌法についても詳細に述べられている.
    丸山氏(帝京大),安部氏(帝京平成大)らには「植物精油の抗真菌・抗炎症効果〜真菌感染症治療への可能性〜」という題目で執筆していただいた.近年,日本でもアロマセラピーや森林浴などという言葉が定着しつつある.趣味・嗜好的な分野と思われがちだが,植物精油の働きの一つとして,抗菌性・抗炎性など医療としての効能が注目されている.精油には既存薬剤にはない優れた皮膚浸透性や揮発性という物理的特性があり,これを生かした活用法が差別化となる.精油は細菌より真菌に対して強い効果を示すとされ本文中では,白癬菌(水虫)およびカンジダ菌に対する精油の有効性(治療効果)について詳細に述べられ,さらに,抗炎症効果についてもそのメカニズムとともに述べられている.
    最後に,竹内氏(奈良女子大),木内氏(産総研),鈴木氏(奈良女子大)らには「文化財保全のためのカビ臭対策」という題目で執筆していただいた.文化財の保護・保存で最も厄介なことはカビの発生による損傷であるとも言われている.記憶に新しいものとしては,古墳壁画のカビによる破損消滅がある.国宝や国宝級と言われる文化財がカビによって,いとも簡単に壊されていくのには驚かされる.しかしカビが,目に見えるレベルに達すると,既に被害が出ているらしい.著者らはカビによって産生されるにおい物質に着目し,これらをいち早く検出する事で,目視での確認以前の状態でカビ発生を早期確認出来る手法を開発した.本文ではこれらの研究結果について解説されている.
    最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面を借り深く感謝申し上げます.
  • 鍵 直樹
    2012 年 43 巻 3 号 p. 184-190
    発行日: 2012/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    本報では,室内環境における微生物から発生する揮発性有機化合物(MVOC)の国内外における研究の状況とMVOC発生の特徴について報告する.まず,室内における空気汚染の概要を述べると共に,ダンプビルに関する情報とそれによって引き起こされる微生物の発生やMVOC の発生について述べた.また,既往の研究からMVOC成分の測定事項について,MVOCの健康影響について,カビを発見するためのMVOC測定の可能性について述べた.さらに,カビから発生するMVOC発生特性について,真菌の成長との関連を考慮に入れ,小形チャンバーを用いた実験により,その関係について紹介した.カビの色づく段階とMVOCの発生が一致し,成長が止まるとMVOCの発生もなくなる傾向となることを述べた.
  • 柳 宇
    2012 年 43 巻 3 号 p. 191-198
    発行日: 2012/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    栄養源と温湿度などの条件を揃えば,微生物が増殖する.空調システム内は微生物の増殖にとって好環境になっている.筆者らが行ってきた研究成果から,空調システム内を衛生的な状態に保たないと,その中の微生物汚染が顕著になり,室内の汚染源となることを示している.空調システムにおける微生物汚染の低減には,まず,微生物が増殖できる環境を作らないことは重要で,適正な維持管理を施すことに努める必要がある.次に,その汚染源を取り除く(空調システムのクリーニング),殺虫を行う(UVGI,オゾン), 微生物増殖を抑制するなどの技術を活用することも有効である.
  • 丸山 奈保, 安部 茂
    2012 年 43 巻 3 号 p. 199-210
    発行日: 2012/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    かおりのある植物精油を用いたアロマセラピーは,近年,代替医療のーつとして感染症に対する効果に大きな注目が集まっている.精油は,既存の抗真菌剤にはない特徴を有しているが,その代表的なものに揮発性がある.精油は,真菌に直接接触できなくても,揮発成分の拡散により,抗真菌効果を示すことが可能である.また,感染症で臨床的に問題となる炎症症状をも抑制することができる.これらより,表在性真感染症に対する新たな治療法としての精油の有効性が期待される.
  • 竹内 孝江, 木内 正人, 鈴木 孝仁
    2012 年 43 巻 3 号 p. 211-216
    発行日: 2012/05/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    文化財保全のためには,カビが発生した初期段階でにおい計測を行うことが重要である.カビのにおい計測によりカビの種類・成長段階を予測する手法を開発した[Takeuchi et al, Surf. Interface Anal., 44(6),694-698,(2012)]. カビのにおい分析には固相マイクロ抽出法による濃縮の後,ガスクロマトグラフィー質量分析法により行った.カビの成長に伴い,アルコール,ケトンアルデヒドが放散されることがわかった.カビ種の特定のためにはセスキテルペンの検出が有効であることがわかった. 本解説では前述論文の研究について概説する.
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