におい・かおり環境学会誌
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43 巻, 4 号
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特集(発展する食品包装材)
  • 岩橋 尊嗣
    2012 年 43 巻 4 号 p. 247
    発行日: 2012/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    個々の食品が持つ品質レベルを保持し保存すること,また外部に存在する,品質を劣化させるさまざまな因子を遮断することは,食品の包装および容器に求められる重要な機能性である.食品を劣化させる要因としては,空気接触すなわち酸化反応によるもの,食品が有する香り(風味)が包装材を介して抜けてしまう,さらに外部にある化学物質(におい等)が包装材を通過し内部に入り食品を汚染してしまう等が考えられる.本特集では,包装技術の研究に携わっておられる専門の方々に,以下に示すテーマについてご執筆いただいた.
    大葛氏(ユニチカ(株))には「食品包装用バリアフィルムとその保香性」という題目で執筆していただいた.本稿では食品包装用フィルム(ガスバリアフィルム)の種類別特徴を詳細に説明されている.また,気体透過のメカニズムについても述べられており,理論的な理解を深めるための参考にしていただけると思う.保香性(食品のにおい成分を外部に漏らさない)に関する材料研究は,まだまだ不十分であり今後に期待されるところであると結ばれている.
    白倉氏(オールテック(株)),鈴木氏(慶大)らには「PETボトルへのにおい収着防止技術—炭素薄膜(DLC)被覆PETボトルのリユース実証試験—」という題目で執筆していただいた.昨今,“使い捨て”という言葉が蔓延し,だれもが捨ててしまう事が当たり前と考えている.振り返って,およそ50年前の日本では醤油,牛乳,ジュース類,ビール等々は全てガラス製のビンに詰められ,空になった物は回収・洗浄され再使用されるのが当たり前であった.これらのビン類に取って代わったのがポリエチレンテレフタレート樹脂性の“PET(ペット)ボトル”と呼ばれるものである.しかし,ガスバリア性に難点があり内容物の劣化という問題抱えた.これを解決するためにバリア性の優れた樹脂との積層タイプが開発され,使用用途は急速に拡大した.本稿ではPETボトルへのにおいの収着に関する多くの知見,ならびにリユース実証試験に関して詳細に述べられ,今後のさらなる研究課題も提起されている.
    増田氏,大場氏,田中氏,((株)クレハ)らには「新規バリア材ポリグリコール酸フィルムの香気バリア性に関する研究」という題目で執筆していただいた.本稿では香気性物質に対するバリア性についての記述で,透過性データが安定し難い静的ヘッドスペース法に代えて,動的ヘッドスペース法が透過度の測定に再現性のよいデータが得られることを確認している.この動的ヘッドスペース法により,ポリグリコール酸フィルムが香気物質の化学的構造や相対湿度の影響を受けずに,バリア性が優れていることを確認している.
    最後の紹介になったが,石川氏((独)農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所)には「青果物の新たな鮮度保持包装技術「パーシャル包装」」という題目で執筆していただいた.上述3稿の内容にもあるように通常,食品類の包装材料に求められる機能はバリア性である.しかし,青果物の場合ではやや様相が変わってくる.すなわち,内容物である青果物の呼吸と包装材のガス透過性のバランスが重要とされる.青果物の場合,それ自体が呼吸をし,種類によってさまざまな代謝物を産生し,さらに水分による内部結露という大きな問題もあるため,完全密封包装は好ましくないとされる.本稿では微細孔によるガス透過性を調節するパーシャルシール包装について,詳細に述べられている.
    今後,包装材料に求められる機能性はさらに複雑・高度化するに違いない.研究開発への期待は大いに高まる.我々が日頃何気なく目にしている食品の包装材が,その機能性を高めるために日々研究されているのである.“におい・かおり”の分野においても,バリア性等の機能性樹脂(フィルム)の活用が十分期待される.
    最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面を借り深く感謝申し上げます.
  • 大葛 貴良
    2012 年 43 巻 4 号 p. 248-256
    発行日: 2012/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    食品包装用フィルムに要求される性能のひとつにバリア性があり,内容物の酸化劣化を防止するために多くのガスバリア性フィルムの開発されてきた.フィルムのガスバリア性には用いる高分子のガラス転移点,結晶化度,自由体積,凝集エネルギー密度が関係している.一方でフィルムの保香性はガスバリア性と必ずしも一致しない.保香性には透過する香気成分と包装フィルムの「親和性」が重要である.
    また,フィルムの保香性は使用する環境やその成分によって異なる.このためその特性に応じたバリアフィルムの選定を行う必要がある.
  • 白倉 昌, 鈴木 哲也
    2012 年 43 巻 4 号 p. 257-264
    発行日: 2012/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    PETボトルのリユースはPET樹脂使用量とごみ削減につながり,温暖化効果ガス削減に寄与する.しかしPETボトルはガラス瓶とことなり,樹脂表面からにおい成分や汚染物質を収着する性質があり,これらは洗浄によって除去することは困難である.DLC被覆技術はPET表面への化学物質の収着を防止する可能性がある.そこで,繰り返しの洗浄でも剥離が生じないように,DLC膜とPETの表面の間に中間層を形成させて密着性を向上させたDLC被覆ボトルを開発し,リユース適性の各種評価を行った.その結果,DLC被覆は繰り返しの洗浄に耐え,また代理汚染物質の移行試験においても相当の収着抑制効果が認められたことから,今後の改良次第ではPET ボトルのリユースが可能になると思われる.
  • 増田 健一, 大場 弘行, 田中 幹雄
    2012 年 43 巻 4 号 p. 265-270
    発行日: 2012/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    プラスチック材料の香気バリア性に関する定量評価は,香りやにおいに敏感な内容物の包装材料設計にとって非常に重要である.本論では,拡散セルとガスクロマトグラフ質量分析法(Gas chromatography/ Mass spectrometry:GC/MS)を用い,動的ヘッドスペース法による香気バリア性の定量化を行った.その際,香気成分は分子量が大きく,透過速度が極めて小さいため,透過度の測定が困難であった.そこで,代表的な香気成分であるリモネン,1-ブタノールおよび,酪酸エチルと化学構造が類似しており,それらよりも分子量の小さいシクロヘキサン,2-プロパノールおよび酢酸エチルを香気モデル物質として用いて,測定を行った.ポリグリコール酸(PGA)のほか,ポリエチレンテレフタレート(PET),ナイロンMXD6(NyMXD6)およびエチレン - ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)のフィルムについて測定した結果,PGAが0%RHおよび100%RHの両条件下で全ての香気モデル物質に対して最も良好なバリア性を示した.
  • 石川 豊
    2012 年 43 巻 4 号 p. 271-279
    発行日: 2012/07/25
    公開日: 2016/04/01
    ジャーナル フリー
    MA包装は,青果物の呼吸と袋のガス透過のバランスにより,袋内のガス濃度を調整して鮮度を保持する方法である.簡易なMA包装手法として,青果物をフィルムで機械包装する際に溶着する部分に一定間隔でシールしない部分を残し,その結果生じる微細な空隙でガス透過性を調節する「パーシャルシール包装」が開発された.ニラを包装した結果,葉の黄化や腐敗の発生が著しく抑制され,クロロフィル,糖および還元型アスコルビン酸含量が高く保持された.さらに,夏季の輸送試験において高い鮮度保持効果が確認された.
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