個々の食品が持つ品質レベルを保持し保存すること,また外部に存在する,品質を劣化させるさまざまな因子を遮断することは,食品の包装および容器に求められる重要な機能性である.食品を劣化させる要因としては,空気接触すなわち酸化反応によるもの,食品が有する香り(風味)が包装材を介して抜けてしまう,さらに外部にある化学物質(におい等)が包装材を通過し内部に入り食品を汚染してしまう等が考えられる.本特集では,包装技術の研究に携わっておられる専門の方々に,以下に示すテーマについてご執筆いただいた.
大葛氏(ユニチカ(株))には「食品包装用バリアフィルムとその保香性」という題目で執筆していただいた.本稿では食品包装用フィルム(ガスバリアフィルム)の種類別特徴を詳細に説明されている.また,気体透過のメカニズムについても述べられており,理論的な理解を深めるための参考にしていただけると思う.保香性(食品のにおい成分を外部に漏らさない)に関する材料研究は,まだまだ不十分であり今後に期待されるところであると結ばれている.
白倉氏(オールテック(株)),鈴木氏(慶大)らには「PETボトルへのにおい収着防止技術—炭素薄膜(DLC)被覆PETボトルのリユース実証試験—」という題目で執筆していただいた.昨今,“使い捨て”という言葉が蔓延し,だれもが捨ててしまう事が当たり前と考えている.振り返って,およそ50年前の日本では醤油,牛乳,ジュース類,ビール等々は全てガラス製のビンに詰められ,空になった物は回収・洗浄され再使用されるのが当たり前であった.これらのビン類に取って代わったのがポリエチレンテレフタレート樹脂性の“PET(ペット)ボトル”と呼ばれるものである.しかし,ガスバリア性に難点があり内容物の劣化という問題抱えた.これを解決するためにバリア性の優れた樹脂との積層タイプが開発され,使用用途は急速に拡大した.本稿ではPETボトルへのにおいの収着に関する多くの知見,ならびにリユース実証試験に関して詳細に述べられ,今後のさらなる研究課題も提起されている.
増田氏,大場氏,田中氏,((株)クレハ)らには「新規バリア材ポリグリコール酸フィルムの香気バリア性に関する研究」という題目で執筆していただいた.本稿では香気性物質に対するバリア性についての記述で,透過性データが安定し難い静的ヘッドスペース法に代えて,動的ヘッドスペース法が透過度の測定に再現性のよいデータが得られることを確認している.この動的ヘッドスペース法により,ポリグリコール酸フィルムが香気物質の化学的構造や相対湿度の影響を受けずに,バリア性が優れていることを確認している.
最後の紹介になったが,石川氏((独)農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所)には「青果物の新たな鮮度保持包装技術「パーシャル包装」」という題目で執筆していただいた.上述3稿の内容にもあるように通常,食品類の包装材料に求められる機能はバリア性である.しかし,青果物の場合ではやや様相が変わってくる.すなわち,内容物である青果物の呼吸と包装材のガス透過性のバランスが重要とされる.青果物の場合,それ自体が呼吸をし,種類によってさまざまな代謝物を産生し,さらに水分による内部結露という大きな問題もあるため,完全密封包装は好ましくないとされる.本稿では微細孔によるガス透過性を調節するパーシャルシール包装について,詳細に述べられている.
今後,包装材料に求められる機能性はさらに複雑・高度化するに違いない.研究開発への期待は大いに高まる.我々が日頃何気なく目にしている食品の包装材が,その機能性を高めるために日々研究されているのである.“におい・かおり”の分野においても,バリア性等の機能性樹脂(フィルム)の活用が十分期待される.
最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面を借り深く感謝申し上げます.
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