におい・かおり環境学会誌
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44 巻, 2 号
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特集(日本古来の香りを通して時代をみる)
  • 岩橋 尊嗣
    2013 年 44 巻 2 号 p. 115
    発行日: 2013/03/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    本特集では,日本古来の伝統文化として継承されている華道,茶道,香道の中で“お香”について紹介する.本誌では,これまで“お香”に関連する情報として次に示す二題を掲載している.

    ①本間延実:「香料史概略と幾つかの逸話」(2005年36巻No. 4),

    ②太田清史:「香と日本文化」(2008年39巻No. 3)

    これを機会に,是非これら二誌についても目を通していただきたい.アロマセラピーの普及に伴い,主として植物精油の活用が一般家庭にも拡大する傾向にある中で“お香”は,ちょっと敷居が高いというイメージがありそうだ.しかも,日本社会では,どうしても仏事(焼香)としての印象が強く定着している.しかし,太田氏も誌面の中で述べられているように,近年,日本独自の香文化が再評価されているらしい.和風旅館の玄関に入った瞬間,女将の出迎えとともに「伽羅の香り」がふーっと漂ってくる.こんな洒落た気配りをする施設が,最近増えているような気がする.

    本特集では,“日本古来の香りを通して時代をみる”と題して,4編の記事を掲載する.前半の二題は伝統文化としての“お香”に関する記述である.まず始めに,三井氏(公益財団法人お香の会)には,「香道のすすめ」という題目で執筆していただいた.

    日本における香道の歩みについて,詳細に紹介されている.一般的にはなかなか判りにくい香道の代表的な流派である「御家流と志野流」についての詳細も明確に示していただいた.記述の流れから香道の神髄がみえてくる.

    第2編では,渡辺氏(香研究会IRI)に「お香を現代生活に活かす」という題目で執筆していただいた.渡辺氏が代表を務める団体は,お香文化を広めるために様々な催しを企画し,啓蒙活動を積極的に押し進めている.難しい漢字が並び親近感の湧きにくい“香十徳”についても,噛み砕いた表現で説明され読者の方々も納得されるのではないだろうか.今後のさらなる活動が期待される.

    後半の二題は,香木等の素材に含まれる香り成分に関連する記述となっている.

    第3編では,長谷川氏(埼玉大学大学院)に「お香の香気成分」という題目で執筆していただいた.具体的に白檀,バチュリ,ベチバー,乳香等について独自に考案した香気成分の分析から得られた結果を解析し,そこから判明した知見について詳細に述べられており,興味深く読んでいただけると思う.

    第4編では,駒木氏((株)カネボウ化粧品)に「龍涎香の香り」という題目で執筆していただいた.

    龍涎香よりアンバーグリスと呼んだ方がピンとくるかも知れない.龍の涎(よだれ)とは一体どのような香りなのか?興味をくすぐられる.駒木氏は龍涎香に関する分析者として特に著名であるが,決して読者を退屈させないストーリー性持たせた記述になっている.本年3月16日から6月9日まで青森県立美術館にて龍涎香が展示される.百聞は一見にしかずである.

    お香を学ぶためには,一級品の香木に接しなければならないとも言われている.渡辺氏が活動されているお香を体験できる機会をさらに広げていただけたらと願う次第である.“香を聞く”と言うことは,五感を研ぎ澄まし,心を無にし自己の世界に入り込む,究極的な静寂空間の創造なのかも知れない.これらの香に関する感覚的な分野に化学的なメスが確実に入っている.香り立つ複雑な香気成分が明らかにされると,これらの物質の効能についても判ってくる.お香の分野の益々の発展が大いに期待される.

    2011年の奈良正倉院展では“蘭奢待”が一般公開された.人並みに押されながら目にした香木は,予想よりもはるかに大きく存在感は絶大であった.今年は龍涎香の展示が青森県立美術館で催される.時間の許される方は,是非とも東北に目を向けていただきたい.

    最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず多くの情報・データを取り揃えご執筆いただいた著者の方々に対し,本紙面を借り深く感謝申し上げます.

  • 三井 正昭
    2013 年 44 巻 2 号 p. 116-124
    発行日: 2013/03/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    人は嗅覚により香りを識別し,生活を豊かにします.五官(目,耳,鼻,舌,身)でものを捉えます.目でものを見,耳で音を聞き,舌で味わい,手で触り・形・硬軟・熱を感じます.そして鼻でにおいを知ります.しかし,五官の中で最も進化していないのが嗅覚であるといわれています.

    見ることが出来ない,触ることも出来ないにおい.人の感性によりのみ存在する香りの世界,これは無限のものです.

    この香りを文化に,芸道として完成させたのが,世界に誇れる日本固有の文化「香道」です.

    香りは,西洋には香水として伝えられ,東洋に伝わった香木はわが国に於いて,どのように使われ,珍重されてきたのかその歴史を,更に,四季を楽しみ,幻想の世界を文学にあらわした和歌にあわせ,考案創造された香道の概観について,紹介します.

    先人が遺した香道には,精神的にも物質的にもにおいに関した意味深い教養がかくされています.香道を正しく理解し,伝統文化として伝え,普及させていく活動の原点は,香道を知り,体験し,関心をもつことにはじまります.

  • 渡辺 えり代
    2013 年 44 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2013/03/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    香研究会IRIは,香道の世界で伝えられる香十徳の中の香の効能,すなわち,感覚を研ぎ澄まし,心身を清浄にして,汚れや穢れを取り除き,孤独感を癒し,多忙時に心を和ますという働きを現代生活に活かすために,新しいスタイルの香道としての聞香体験,平安時代の貴族に愛された練香や古代エジプトの薫香キフィの創作を通して,心身のウエルネスに役立てる活動を行っている.

  • 長谷川 登志夫
    2013 年 44 巻 2 号 p. 133-140
    発行日: 2013/03/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    お香は,日本の伝統的な香りの文化である.白檀などの様々な香気素材がお香の香りのもととして使われている.これらの素材は,他には代え難い特徴的な香気を有している.これらの素材の香気についての多くの研究によって多数の構成成分が報告されている.しかし,それらの香気特性はほとんど解明されていない.次のような新規のアプローチによって,それらの香気特性について検討した.(1)香気素材の抽出方法の違いによる香気の違いを利用した解析.(2)素材の香気成分をいくつかの香気の特徴の異なる成分群にわけて解析.(3)素材の香気の経時変化の解析.

  • 駒木 亮一
    2013 年 44 巻 2 号 p. 141-148
    発行日: 2013/03/25
    公開日: 2017/10/11
    ジャーナル フリー

    アンバーグリス(龍涎香)は,フランス語の「灰色のアンバー」という言葉に由来する.昔から薬として香水の素材として利用されてきた.その由来は,近年になるまで不明であった.20世紀初頭に烏賊の嘴が含まれていたことが分かり,マッコウクジラPhyseter macrocephalusの体内に生じた病的なものであるらしいことが知られた.このアンバーグリスを分析すると,アンブレインとエピコプロステノールの成分が含有されていた.香水原料としは,エチルアルコールに溶解させ少なくとも6ヶ月以上熟成させ使用する.このアルコールチンキにはテトララブダンオキサイドやアンブレインという香気成分が生成している.

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