臭気対策の基になっている技術は,主に,化学工業における操作や大気汚染に関わる技術の応用として開発されてきた.対策が必要とされる臭気は,機器で測定するにも濃縮しなければ検出できない程低濃度(嗅覚レベル)の濃度で,これを効率良く操作する技術の開発は非常に難しいものがあった.
しかし昭和47年(1972年)「悪臭防止法」の施行にあたり,規制基準の制定や臭気の測定技術が開発され,臭気対策装置に求められる条件が明確になった.「悪臭防止法」の施行は,対策装置開発の原動力となった.
VOC規制は,揮発性有機溶剤が対象であったが,臭気対策とオーバーラップするところがあった. このため,臭気対策技術がVOC対策にも多く応用された結果,優れた脱臭システムが実用化されたことで,悪臭公害が改善されたことは御承知のとおりである.
臭気対対策技術には,脱臭装置の導入前の発生源側の対策として,臭気の捕集や“臭いものに蓋”といわれる拡散防止と捕集技術が非常に重要で,最終的に適切な臭気対策装置との「ベストミックス」により,より優れたシステムになる.
脱臭装置の応用範囲は下水道,し尿,ごみ処理など公共事業所や製造事業所から家庭用に至るまで非常に広範囲であるが,今回は,おもに大規模な公共事業所や製造事業所を対象とした.
本特集においては,これら臭気対策技術の開発や応用に永年年携わって来られた実務者の方々に,主に公共事業所や工場を対象とした代表的な臭気対策技術に対する脱臭原理,開発の経緯や応用実績および脱臭システムとしての最適化を踏まえて執筆していただいた.
本特集では,悪臭防止法制定と共に歩んできた臭気対策技術の開発の経緯や脱臭原理,さまざまな問題点などに関して中津山憲が脱臭・消臭脱臭剤技術の総論的な概説を取り纏め,以降3名の臭気対策の開発や応用の分野に永年携わって来られた実務者の方々に個別のテーマを分担し詳細を解説いただいた.執筆者は,分担する専門分野のみならず,他の脱臭方式においても深い知見を持っておられ,ベストミックスに関わる解説もお願いした.
最初に,脱臭やVOC削減技術のスタンダードでもある「燃焼式脱臭装置」に関して,その方式の特徴や脱臭原理の詳細を紹介いただいた.燃焼は最も確実な方法であるが,エネルギーや炭酸ガス(CO2)削減が問題の解決策として,高効率燃焼脱臭のシステムや維持管理の問題の解説を新東工業(株)飯島伸介氏にお願いした.
次に,代表的な脱臭装置である,「洗浄式脱臭」および「生物脱臭」をミサキ・コンサルティング・オフィスの三崎岳郎氏に担当をいただき,特に氏の専門分野であり,臭気対策が非常に難しい廃棄物処理に関わる対策を交えて解説をいただいた.
最後に,活性炭による脱臭や消・脱臭剤を用いた脱臭装置に関して中津山憲と株式会社ファイン・ツーの直田信一氏に担当いただき,特に活性炭の知識や臭気対策に特化した特殊機能をもった活性炭の解説や実施例に関して中津山憲が,消・脱臭剤も低濃度の比較的広範囲に拡散した臭気に効果的な方法として公共事業に応用され,近年,芳香,マスキング効果のみでなく,化学的反応で消臭する新しい消・脱臭剤の解説と応用例を直田信一氏に解説いただいた.ただし,近年飛躍的に需要が伸びている,家庭用や業務用の室内空間の消・脱臭に関しては,別の機会に紹介をしたい.
脱臭装置は,嗅覚域値に近いところでの厳しい平衡関係を扱う操作になるため難しいシステムになる傾向がある.しかし,我が国の脱臭技術は世界的にも優れていることは,言うまでもないが,現状の脱臭技術を見直し,よりコストパフォーマンスの高いシステムに改良する努力は重要な課題である.この結果,既存の脱臭装置の更新や海外に対する脱臭技術の展開に結び付ければ幸いである.
最後に,ご多忙中にもかかわらず,執筆を快諾いただいた方々に,厚く御礼を申しあげる.
臭気対策技術は,化学工業におけるさまざまな操作や,大気汚染防止技術と異なり,ウェーバー・フェヒナーの法則などで示されるような,低濃度で多成分の混合体を嗅覚レベル(嗅覚閾値)までの処理が求められる非常に難しい技術である.
臭気対策に関係する技術は,基本的に化学工業や大気汚染防止に関わる既存の技術を基に開発されていた.しかし,昭和47年(1972年)悪臭防止法の施行は,多くの研究者や脱臭装置メーカ達が競って研究開発を進め,優れた臭気対策技術を世に送りだす原動力となった.
詳細は,臭気対策の開発や応用に永年年携わって来られた執筆者により,代表的な脱臭・消臭脱臭剤技術の開発経緯や応用実績の紹介いただくものとする.
蓄熱燃焼装置の燃焼室内ガス温度は概ね800℃以上に保持されており,可燃性の悪臭物質を燃焼酸化して脱臭している.さらに,蓄熱室に充填されたハニカム蓄熱材により悪臭成分の燃焼熱を含む排熱を90%以上の高効率で回収し,未処理ガスの余熱に再利用しているため,トルエン460ppm相当以上の悪臭物質が含まれる場合にはバーナあるいは電気ヒータで補助加熱することなく脱臭処理運転を継続することが可能となる.低濃度の悪臭物質を処理する場合には,濃縮装置と組み合わせることによってさらにエネルギー消費量を削減することができる.
廃棄物処理施設において発生する臭気は様々な成分が含まれた複合臭気である.このような臭気の除去対策としては脱臭装置を検討するだけではなく臭気の発生源での根本的な対策が重要である.このような対策がなされて脱臭装置もその機能を十分に発揮できる.ここでは,様々な脱臭装置の中から比較的多く採用されている洗浄脱臭方式(薬液洗浄脱臭)と生物脱臭方式(土壌脱臭,充填式生物脱臭)を取り上げ,その原理・特徴・構造および留意点などを述べる.
現在,活性炭吸着による脱臭技術は,その高い吸着性能より,下水処理場はじめ各種施設等において広く用いられている.一口に活性炭といっても,現在では,目的によってさまざまな機能を持つものがあり,また洗浄等の他の脱臭方式と組み合せることにより,適用の幅が広がっている.
一方,消臭・脱臭剤も,広い空間や広域に拡散する悪臭を消臭・脱臭剤の適切な選定と調合で処理する技術として広く用いられている.
本報では,古くから応用されてきた代表的な方式および消臭・脱臭剤による脱臭に関して,その原理および実際の脱臭装置としての応用例を述べる.
生活空間で発生した臭気物質は気流に乗って拡散するが,家具の配置などの影響で均一には拡がらず濃度の偏りができる.このように拡散した臭気物質が日常生活で感じるニオイ*1の元であり,特に濃度が高い場所では不快感を強く感じる場合がある.このようなニオイ対策のひとつとして消臭剤の使用が挙げられるが,上述のような臭気物質の濃度の偏りを考慮してその効果を数値化した例は見られない.そこで,内部に対面式キッチンを模した形状を有する空間容積2m3の試験装置を作成し,消臭剤の性能評価法を検討した.その結果,臭気物質の高濃度領域に消臭剤を設置すると,その近傍では約75%程度,消臭剤から離れた空間でも約50%程度の濃度低減が確認でき,空間全体でのニオイの不快感を軽減できる可能性があることが示された.本検討から,生活空間を想定した消臭剤の性能評価法を構築できる可能性が示唆された.
馬鈴しょでん粉工場における排水の水質および悪臭発生状況の実態調査を2007年7月から2008年5月にかけて行った.その結果,浸透池に貯留されたデカンター排水やセパレーター排水の臭気指数は43~51と高い値を示した.特にデカンター排水は有機性汚濁分が高濃度であり,浸透池での貯留時間の経過とともに嫌気的分解が進行するために悪臭を発するようになると考えられた.浸透池の風下側周縁部では低級脂肪酸主体の強い腐敗臭が感知され,臭気指数の最大値は32と高く,周囲への広範な影響が懸念された.貯留水を畑地に散布した直後の臭気指数は最大で25であり,畑地周辺への影響が懸念されるレベルであった.排水から発生する悪臭成分のうち,ノルマル吉草酸,イソ吉草酸,ノルマル酪酸が現場の臭気に大きく関与していると考えられ,これらの排水中濃度から推算した臭気指数が現場の臭気指数を相対的に評価する指標となり得ることが示唆された.