緑茶の嗜好性は香りにあると言っていいほど,香りは緑茶の嗜好を左右する重要な要素である.緑茶の香りは実に多様性に富み,品種,地域,栽培,加工で全く異なる.ここでは,近年発展した茶の香りの分析から,中国緑茶,煎茶,釜炒り茶の香りの特徴,さらに,香りに特徴ある品種,地域で異なる香り,チャの生葉の香り,そして最後に焙煎で変化する煎茶の香りについて紹介する.2015年現在,分析技術を駆使して研究者が明らかにしたことは,緑茶の多様性から見るとほんの一握りである.今後も分析を通じて,五千年の歴史を持つ茶の本来の魅力が解明されれば,より身近に茶を感じるようになるだろう.
抹茶は中国を起源とし,日本には約800年以上前に伝わった.飲料としてだけでなく,文化としての茶道が確立するなど,日本で独自の発展を遂げた.生産方法においても改良が積み重ねられ,被覆栽培やてん茶機による製造技術が完成した.抹茶の香りの特徴は,被覆栽培によって茶葉中のアミノ酸やカロテノイド含量が高まり,これらが前駆体となって覆い香のジメチルスルフィドやヨノン系の香気成分が生成することである.抹茶は馥郁たる香味を有し,近年は食品加工用素材として需要が国内外で高まってきている.
主要茶産地の中で北に位置する埼玉県の茶は狭山茶と呼ばれ,経済的な北限とされている.埼玉県は茶樹にとって寒さが厳しいため,耐寒性を有した品種育成を行っている.最近,桜葉のような香気(桜葉様香気)を有している「おくはるか」を育成した.この桜葉様香気は,茶に携わる者だけでなく,消費者も感じることができる香気である.この他に,モクセイ様の甘い香気を有した「ゆめわかば」や品種特有のふくよかな香気がある「ふくみどり」,すっきりとした爽やかな香気が特徴である「むさしかおり」など香気に特徴ある品種がある.
茎を焙煎したほうじ茶「棒茶」は金沢発祥が発祥とされており,芳ばしく甘い香りが特徴である.金沢を中心に石川県内で十数店舗が製造し,お茶といえば棒茶といわれるほど地元で愛飲されている.ほうじ茶は一般に下級茶を原料とすることから低品質な印象を受けるが,棒茶は良質な1番茶を用いることも多く,品質,特に香りにこだわった商品が多く存在する.本稿では棒茶の歴史,製造法,そして茎ほうじ茶と比較した棒茶の香りの特徴について紹介する.
伊勢茶は三重県で生産されるお茶のブランド名で,その生産量は全国第3位である.
伊勢茶は県内の各地域で栽培されており,その歴史は古い.古文書には西暦900年代初め頃(延喜年間),三重県で茶の樹が植栽されたとの記録がある.伊勢茶には「煎茶」「かぶせ茶」「深蒸し茶」などの種類があり,それぞれ特徴のある「香り」や「味」をもっている.また,伊勢茶の「香り」に関する研究も紹介する.
日本の緑茶品種は数多く存在し,それぞれに多様な香味を持っている.しかしそれらを表現する専門用語は少なく,専門家以外には理解されにくい.そこで茶品種の香味の違いを理解しやすくするため,鹿児島県の奨励品種である10品種を用い,官能評価によって茶品種ごとの香気プロファイルを作成することを試みた.また,甘い花香が特徴の品種「そうふう」を用いた官能評価や,低温除湿萎凋法により製造した花香を持つ緑茶である萎凋香緑茶の官能評価と香気分析を行ったので紹介する.