ワイン関連する職種は多様化し,それらは複数のクラスターに分類できる.クラスターごとにテイスティングの目的も異なり,評価法にも違いがあるが,同じ職種内でさえも,共通の評価法,用語は確立されていない.しかしクラスターを超えてのワインの香りについての評価の共有は,ワイン産業の発展に不可欠である.それには,日本人のテイスティングを前提とした,異なるクラスターに属した日本人による香りの評価用語の抽出が重要である.よって,日本人による評価用語の抽出をベースにした日本人のためのワインアロマホイールを作成した.
ウイスキー・ブランデー造りは,「原酒造り」と「製品中味造り」(ブレンド)に分けられる.製品中味の設計は卓越したテースティング力を持ったブレンダーが行う.製品中味は購買原料を使わず手造りした原酒のみをブレンドする.蒸溜直後の無色透明の原酒は樽による貯蔵・熟成の間に1樽1樽違う個性に変化していく.刻々と変化する原酒の品質評価も含めて,「原酒造り」から「製品中味造り」までブレンダーが携わる.ブレンダーのテースティング方法は製品カテゴリーごとに違い,同じウイスキーでも会社ごとの異なるため世界的に共通した基準・方法は無い.嗅覚・味覚というもっとも定量化しにくい感覚の共通言語としてブレンダー同士では独自の「フレーバーホイール」を用いる.
テイスティングを共有することは,食品の味の設計や製造において最も重要な課題であり,これを技術化することが望まれている.メタボロミクスの手法をテイスティング領域で検証し,香味スコアと成分の紐付けを行うことで,テイスティングの指標化技術を構築した.コーヒーでは,原料の生豆にある,香味にネガティブな成分とポジティブな成分の前駆体と寄与成分を見出した.
香川県は,オリーブオイルの品質評価に官能評価を取り入れ,その高品質化に取り組んでいる.国外でのオリーブオイルの格付けは,インターナショナル・オリーブ・カウンシル(IOC)等の基準により,官能評価・化学分析により行われている.日本の制度は国際基準と異なるため,香川県は国際基準を参考に品質表示制度を制定し,官能評価・化学分析を行っている.官能評価は,パネルテストにより行い,規定の項目の強度をプロファイルシートに記入し,統計処理を行う.
香川県では評価員の訓練を行い,2016年オリーブオイル官能評価パネルを設立した.
煎茶に含まれる非常に揮発性の高い香気成分の分析方法として,ヘッドスペース中の全成分を冷却濃縮し高感度に分析する方法を開発した.湿潤煎茶をバイアル瓶に密封した後80°Cで1時間保持し,香気成分をバイアル瓶中に気化させた.気化した香気成分は,窒素ガスを流しながら液体アルゴンで冷却したPTFEチューブ濃縮管に導入し,充填した少量の石英ウールに吸着させた.吸着させた香気成分は,1.5分間で180°Cまで昇温して加熱脱離しGC-MSで測定した.GC-MSで検出した成分とGC-Oで感じた香りを比較することにより,香気成分を特定した.
以上の方法により8種類の香気成分が検出された.これらの中ではっきりと香気を感じたのは,海苔の様な香りのdimethyl sulfideと茶特有の若草の様な香りのcis-3-hexen-1-ol,花の様な香りのlinaloolであった.dimethyl disulfide,1-penten-3-ol,dimethyl trisulfide,1-octen-3-ol,2,6,6-trimethyl-2-cyclohexene-1-carboxaldehydeは,以上の3物質に比較すると香気は弱かった.