カビ臭原因物質のジェオスミンや2-メチルイソボルネオールが平成16年に水道水質基準項目に設定されたことに伴い,水道事業体では対策を講じているが,平成13~25年度の異臭味等被害人口は,年間100~450万人で推移し,最近は増加傾向にある.また,藍藻は,Komárekらが新しい分類体系を提示している.カビ臭産生藍藻についても新しい分類体系に基づいて整理した上で,旧来の属・種名との整合性を図る必要がある.さらに,最近の質量分析の技術革新と多変量解析を活用し,生ぐさ臭の原因物質の分子式を推定した.
水道水のカビ臭は,水源に繁茂する藍藻類などの生物が産生する臭気物質が原因である.水源でのカビ臭発生を簡便かつ迅速に検知できれば,取水の一時停止,カビ臭が少ない地点や水深からの選択取水,浄水場での高度浄水処理の強化など,有効な対策を早期に判断しやすくなる.近年,昆虫嗅覚受容体の遺伝子を細胞に導入し,においに高感度で特異的なバイオセンサを作り出す技術が注目されている.本稿では,カビ臭の原因物質ジェオスミンに特異的に応答する細胞(センサ細胞)を水道水質管理に活用しようとする試みを紹介する.
生活空間で発生した臭気は換気により屋外へ排出されるが,家具の配置によっては換気気流が届かずに臭気物質が滞留し,不快感を強く感じることがある.このような臭気物質が滞留する場所のニオイ対策として消臭剤の設置が挙げられる.既報の研究1)では,2m3の小型チャンバーを用いた試験により,換気下における消臭剤の有効性を報告した.本報では,一般家庭の実空間を想定した第三種換気・15.6m3の試験空間モデルを用い,内部で生ゴミ臭に寄与する硫化水素を連続発生させ,消臭剤設置前後の空間濃度分布を調査し,この試験空間モデルが一般家庭の換気下における消臭剤の性能評価法の研究に利用可能であるかを検討した.その結果,家具等により換気気流が妨げられると,発生源を中心とした硫化水素の濃度勾配が存在することを確認した.そして,硫化水素の高濃度領域に消臭剤を設置すると,消臭剤に近いほど硫化水素濃度低減効果が高く,その近傍で約50%の濃度低減が認められた.本報で提案した手法は一般家庭の生活空間に近い広さの空間における消臭剤の性能評価法の研究に利用可能であることが示唆された.
前報では,三点比較式臭袋法における原則的なパネルの吸引方法である自己吸引法に関して,数値流体力学に基づくシミュレーションを用いて気流性状とにおい袋からの臭気の吸引濃度の予測を行った.本報では,袋内臭気を押出して鼻あて内に臭気を満たしてから吸引する押出吸引法について,鼻あてと顔の隙間をパラメータにして気流性状と臭気の吸引濃度の予測を行った.その結果,鼻あてと顔との隙間がある条件下でも,80%前後の袋内臭気を吸入できること,および鼻あてを顔から大きく離しても60%程度の臭気を吸引できることがわかった.
高齢者介護施設内の臭気は,しばしば利用者の苦情の一因となるが,発生原因が多岐にわたり対策が難しい.今回,臭気が主に尿臭である施設に対して,臭気の主要成分のフェノール化合物の発生源や尿臭の臭気前駆体分解に関与するβ-グルクロニダーゼ活性菌の棲息場所を特定し低減対策を検討した.施設内各地点の臭気の分析よりフェノール化合物の一つであるp-クレゾール濃度が臭気強度と高い相関を示した(空間r=0.89,発生部位r=0.93).β-グルクロニダーゼ活性菌は尿臭の認められた部位,ポータブルトイレの容器底部(特に尿石付着部分),ベッド下カーペット,ベッドシーツから検出された.市販製品による臭気発生部位に着目した洗浄や殺菌を1年間継続したところ,β-グルクロニダーゼ活性菌の菌数,施設内の空間の臭気強度およびp-クレゾール濃度が明らかに低下した.洗浄や殺菌等の局所的な対策を行うことで施設内全体の臭気を低減できる可能性が示された.
東京消防庁は,近年増加傾向にある厨房火災の対策として厨房設備に附属する排気ダクト等に係る運用基準(以下「厨房設備基準」)の一部を改正した.排気ダクトに係る基準では,延焼防止の観点から「特定不燃材料以外の活性炭等をダクト内に設けないこと」を規定された.そこで,公益社団法人におい・かおり環境協会は,「飲食店厨房設備における脱臭に関する検討委員会」を発足し,延焼事故が生じない活性炭の利用方法を検討した.その結果,活性炭充填槽の空隙により特定不燃材料として認められない場合の措置として,①活性炭脱臭装置は周囲に可燃物がなく,保守点検が容易に行える屋外に設置する,②活性炭脱臭装置の外板は耐食性を有する鋼板(板厚1.5mm以上)とする,③活性炭脱臭装置と排気ダクトの接続部に排気ファン連動防火ダンパーを設置する(ファン運転時のみ開放),④火炎伝送防止装置(防火ダンパー又は自動消火装置)が作動すると排気ファンを停止させる,などの対策を講じた上で,東京消防庁の確認を受ければ利用できるという結論に至った.