においの全体的な同定能力は,年令によって衰えることが報告されている.しかし,個々のにおいについてみると,不快と知覚されたにおいの同定は年齢によって低下しにくく,快と知覚されたにおいは低下したという報告もある.さらに,日本人のために開発されたスティック型同定能力検査(OSIT-J)の得点が正常範囲かを示す基準値が検討された.また,同定能力の他,検知能力,感覚的強度評価,においの質の弁別能力も高齢者では低下し,高齢者は自分の嗅覚能力の減退に気付きにくいことが報告されている.
近年,臨床医学においても嗅覚障害の研究は徐々に広がりを見せている.耳鼻咽喉科を受診する患者のうち,嗅覚障害の主な原因疾患としては慢性副鼻腔炎が挙げられる.その中でも2015年に難病指定された好酸球性副鼻腔炎は特に嗅覚障害が重症であり,治療法が確立されていない.好酸球性副鼻腔炎の病態はまだ未解明であり,手術を含めた集学的治療が必要な病態ではある.しかし,早期に治療を行う事で大部分の患者は嗅覚を取り戻すことは可能である.慢性副鼻腔炎による嗅覚障害に対する治療薬としてステロイド薬の効果はあるが,副作用には十分注意が必要である.
パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患では,早期に嗅覚障害が出現することが知られている.したがって,嗅覚検査は,これらの疾患の早期発見のためのバイオマーカーとなりうる.本項では国内外で行われている嗅覚検査について,その方法と特徴について解説した.神経変性疾患による嗅覚障害では,嗅覚同定能の低下が特徴的である.わが国で行われている嗅覚検査の中で,T&Tオルファクトメーターを用いる基準嗅力検査における検知域値と認知域値との解離の増大は,同定能力の低下を示し,神経変性疾患による嗅覚障害の検出に有用である.また,新たに開発された嗅覚同定能検査もこれらの発見に有用とされている.
嗅覚障害は様々な神経変性疾患で認められ,なかでもパーキンソン病,レビー小体型認知症,アルツハイマー型認知症では発症前~早期で高頻度に認められることから診断のバイオマーカーの一つとされている.PDの嗅覚障害は嗅覚域値,嗅覚同定機能の両者ともに低下し,特ににおいがしていても何のにおいか分からない,間違ったにおいを同定してしまうなどの嗅覚同定障害がより特徴的で,罹病期間やPD薬と間に関連がないとされている.また,重度の嗅覚障害が認知症の発症予測因子になりうる可能性が示唆されている.嗅覚機能検査は非侵襲的であり,PDにおいて早期診断,鑑別,臨床予後の評価に有用である.
銅媒染染色綿布のエタンチオール除去性に対する測定系の湿度の影響を調べることを目的とした.測定系の湿度を制御し,気体検知管法およびガスクロマトグラフ法により,調製した試料布のエタンチオール除去過程を継時的に測定した.その結果,系の相対湿度が高いほど除去性が向上することがわかった.布に担持した銅の酸化作用を利用したエタンチオール除去において,銅周辺の水が反応性に大きく寄与することが示唆された.