車室内の「におい」に関する課題が注目されてきている.アロマで癒し,覚醒などの効果があるとして車業界でも空調装置に「におい発生装置」などを取り付けた製品などが販売された.近年では,芳香剤,消臭剤など市販の製品も多く出回っている.現在の車の空調装置ではフィルターに活性炭などを装着し消臭効果を狙ったものがほとんどである.しかし,車室内の「におい」に関する不満は多い.「におい」に関しては嗜好性の課題もあり個人差があることも事実である.ここでは,2017年にISO12219-7として車室内の「におい」測定に関する規格が発行されたことを受け,本規格の要旨を紹介する.
健康志向の高まりを受けて,近年では空気質への関心も高くなってきている.住宅屋内で発生する揮発性有機化合物(以下VOCと呼ぶ)は,建材や材料などの対策が進み,対策前と比較して大幅に改善されている.自動車においても,住宅同様に,内装材や,車室内に使用されている材料の対策が進み,車室内VOC濃度は低減している.しかし,車室内環境は,住宅環境よりも容積が小さく,温度も高くなるため空気質環境としては厳しい環境となっている.そこで,空気質の指標となっている総揮発性有機化合物(以下TVOCと呼ぶ)と“におい”に着目して車室内空気質に対する評価法の考察を行った.
自動車内装材から発生するにおいの中には人によって不快感を伴うものがあり,これらの臭気を解消するためにはにおい成分を特定する必要がある.1-1),1-2)スニッフィング付きガスクロマトグラフ質量分析法(GC-O/MS法)による機器分析法とヒトの嗅覚を用いた官能評価との組合せがにおい成分の特定には有効である.特定したにおい主成分の妥当性は,それらのにおい成分で構成する模擬臭が原臭と高い類似度を示す事で確認できる.我々は,特定したにおいピークをGCで分離・分取する方法で,原臭と類似度の高い模擬臭作成法を確立した.またにおい成分の組合せを変える事により,各におい成分が原臭へ与える影響を評価する方法も確立した.
自動車室内での香り付与技術についてまとめた.車室内で感じられるにおいのメカニズムとそれを制御する空調装置,香りを付与する技術とメカニズム,香りを付与に当って必要な注意点についてまとめている.車室内で香りを付与するに当たっては,濃度と放出量の管理が重要であり,より薄い放出濃度の制御と間欠運転をするにあたっては空調装置に支流を追加した強制対流式のディフューザを紹介している.
本研究は,化学物質過敏症(MCS;Multiple Chemical Sensitivity)患者の嗅覚知覚特性を明らかにすることを目的とした.MCS患者群と対照群に,T&Tオルファクトメータの5臭(β-フェニルエチルアルコール[A],メチルシクロペンテノロン[B],イソ吉草酸[C],γ-ウンデカラクトン[D],スカトール[E])を用いた閾値検査,においスティックの4種(みかん,ひのき,香水,無臭)を用いた嗅覚同定能力検査,各においの強度および快・不快度評価を行った. MCS患者群は対照群に比べて,基準臭Dの検知閾値,5基準臭の平均検知閾値および認知閾値が有意に低かったが,同定能力に群間の有意差はなかった.また,一部のにおいに対する強度や不快度は,対照群よりMCS患者群の方が有意に高かった.本研究では被験者数やにおいの種類が限られており,今後さらにデータを蓄積して検討していく必要がある.