人間の五感を模倣しようという試みは,技術とともに着実に進歩を遂げてきた.特に嗅覚と味覚の場合には,工業的な応用の止まらず医療応用にもその模倣技術は応用することができる.嗅覚と味覚を模倣するにあたり,一次トランスデューサーとして生体材料の一部を利用し,二次トランスデューサーとしては,ナノエレクトロニクス材料が用いられてきた.ナノベシクルやナノディスク,嗅覚受容体及び味覚受容体を含む嗅細胞などの多様な生物学的要素を一次トランスデューサーとして用いることにより,感度,選択性の高いエレクトロニック・ノーズ(電子鼻)及びエレクトロニック・タン(電子舌)が開発されてきた.これらのバイオセンサは, 疾患診断や食品品質評価,環境モニタリング,安全安心用に向けてのツール,嗅覚の標準化などの様々な分野での応用に大きな貢献できる可能性を有している.本レビューでは,最近報告されたエレクトロニック・ノーズとエレクトロニック・タンに関する研究について紹介し,今後の見通しおよび応用の可能性について解説する.
においイメージセンサはにおいを可視化する二次元化学センサであり,においの流れや痕跡の可視化測定を可能とする.可視化されたにおい画像は物理的な形状を持っており,人や植物のにおいを可視化し,その結果は我々の視覚により容易に直感的に理解ができる.二次元化学センサは豊富で高速な計測情報を出力可能で,実用的な化学センサやセンサロボット応用が可能である.また,機械学習によるにおいの質の予測や可視化として,分子情報に基づく関係性グラフによるにおいの感性情報の表示や予測が可能である.
香りを提示するデバイスを嗅覚ディスプレイと呼ぶがその最新動向を紹介する.液滴射出電磁弁により吐出した微量の香料を弾性表面波霧化器で霧状にしてユーザに嗅いでもらう嗅覚ディスプレイを開発した.瞬時に霧化できるために香りを迅速にON/OFFできる特長を有する.複数の液滴射出電磁弁を用いれば,任意の比率で香り調合も可能である.この原理にもとづき,デスクトップおよびウェラブル嗅覚ディスプレイを開発した.さらに,香りで甘さを感じる無糖コーヒー,香りで人とすれ違う様子を表現する応用コンテンツを開発した.また,嗅覚と力覚の相互作用を利用したコンテンツの制作も行ったので紹介する.
本稿では,国際会議ISOEN 2019のプログラムの中から,TutorialsとSniffestコンテストについて紹介する.Sniffestは,学生を対象としたコンテストである.今回は,ガスセンサを搭載したロボットを学生チームが作って持ち寄り,床に付けられた臭跡をたどる速さを競った.また,嗅覚ディスプレイに関する企画セッションを概観する.著者らは,自身が開発した嗅覚ディスプレイ(Smelling Screen)を博物館の企画展示に出展した様子を紹介し,においを大型の電子広告に付加することを目指した試みを発表した.
電子鼻に対して行われている最新の研究の方向と,電子鼻を積極的に利用していこうとするユーザーのニーズとの間に,少しギャップを感じていたため,その両者に参考になればと感じているギャップについてTutorialsにて講演を行った.その内容を本紙でも紹介する.
観点としては,感度,バックグランド臭の影響,感度の経時変化,複合臭への適応可能性である.