我々は,食品から普段感じられないようなにおいを感じることがある.これは専門的にはオフフレーバーと呼ばれるにおいである.このにおいは,我々の体に悪影響を示すことはないが,普段とは違うにおいという点から食品にとって非常にイメージが悪いものである.このにおいは,さまざまな原因から発生することも分かっている.食品自体から発生する場合,食品の外から食品に移って来る場合などがある.食品のオフフレーバーについて,どの様に発生するかを掘り下げ,このオフフレーバーの対処法を紹介し,解決法を探ってみたい.
魚介類のにおいとオフフレーバーについて紹介する.鮮度の良い魚肉のにおいは,アルコール,アルデヒドなどの脂質の酸化物が重要である.鮮度劣化の激しい水産物は劣化に伴い脂質の酸化物,アミン類,含硫化合物,酸なども増加しにおいが強くなる.水産物のオフフレーバーの主な原因は,元来その種が持っている特徴的なにおい,鮮度低下に伴うもの,環境汚染,人為的なもの,などである.水産物では,多くの場合厳密な温度管理がオフフレーバーの発生を防ぐために大切である.環境汚染と思われる案件は昨今も散見される.
Khusimolはベチバーの主要成分であり,その香気はウッディやアーシーといった他に代えがたい特徴をもっている.その香気を生み出す要因についての知見を得るため,Khusimolについてその構造と香りの関係を検討した.特徴的なKhusimol骨格をもとに,香気に影響を与えると考えられる複数の構造要因を考慮して,種々の化合物を合成した.その結果,ウッディやアーシーな香気発現にとって,置換基の違いよりもKhusimol骨格を維持していることが重要であることが判明した.
嗅覚受容体が香気分子を認識することが香気を感じる出発である.この認識において重要な要因として化合物の構造がある.桃の香気成分であるγ-ラクトンにおいてはそのラクトン環構造が重要な要因であると推定される.そこでそのラクトン環構造に着目した.比較対象として,ラクトン環を構成する結合の切断部位を変えた鎖状エステルを合成し,ラクトン環と側鎖の炭素鎖長の香気への影響について検討した.その結果,エステル結合とこれに隣接する部分構造が化合物の香気発現にとって重要な要因であることを見出した.
におい受容機構においては類似構造を有する香気分子を同じ受容体が認識する場合があり,それが複合臭の発現にとって重要である.しかし,受容体にとっての香気分子の類似構造に関する系統的な知見は得られていない.本研究では,バニリンの置換基に着目して各種誘導体を合成し,それらの分子構造と香りの関係性を検討した.その結果,ベンゼン環含有化合物であるバニリン誘導体の香りに影響を与える3つの要因(置換基の有無,位置および種類)を見出した.