におい・かおりをGCで分析するには,前処理が重要であり,簡便な操作と高い捕集効率が求められる.シリカモノリス捕集剤MonoTrapは,サンプルと一緒にバイアルなどの密閉系に設置するだけの簡易なサンプルリングツールであり,捕集後の脱離・回収法は加熱脱離・溶媒抽出から選択することができる.MonoTrapを使用して,悪臭成分を添加したタオル片に消臭剤を散布し,その効果をGC-MSで評価したところ,消臭剤散布後のタオル片から揮発する微量な悪臭成分を,高感度に検出することができた.
におい評価の機器分析ではガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が主に使用される.におい分析でのGC-MSの前処理としては,その簡便性から固相マイクロ抽出(SPME)法が頻用される.しかし,SPME法は液相量が限られており微量成分の感度が足りない,また,機械的耐久性が低いという課題があった.近年,SPMEの利点を残しながら,これらの課題を解決したSPME Arrowが開発された.本稿では,SPME Arrowの特長とその特長を活かした分析事例について解説した.
近年,におい分析の需要は高まるばかりで,植物,動物,環境,食品,香粧品などあらゆる分野においてGC-MSによる多成分分離分析が行われているが,目的化合物の探索をする場合,クロマトグラムを見ただけでは化合物が見つからない場合が多いのが実情である.この問題を解決するためには,サンプル捕集と試料導入,およびデータ解析の2つの点が重要となる.そこで本章では,2つ目の重要点であるデータ解析に焦点を当て,解析ソフトウェアと9000以上のにおい成分を収容した質量スペクトルライブラリを紹介する.
気生藻類の一種であるスミレモTrentepohlia aurea (Linnaeus) Martiusは,スミレのような“におい”があることが知られている.スミレモのにおいの有無や強弱には生育地域や場所による多様性の存在が示唆されるが,これまでは定性的な観察が中心であった.本研究ではスミレモのにおい物質を同定することで,スミレモのにおいに関する基礎的な知見を提供することを目的とした.におい物質の同定には,におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)を含む“におい分析システム”を活用した.分析の結果,“良い香り”として特徴的なにおい物質であるα-テルピネンと2-ペンチルフランを同定した(2-メチル-6-ヘプテン-1-オールとβ-イオノンは仮同定).将来的にスミレモ類縁種のにおい物質をデータベース化することで,におい物質を利用した化学分類学の発展に貢献できると期待される.
和牛(黒毛和種・繁殖雌牛)のストレス数値化技術として,皮膚ガスをマーカーとして利用する手法に着目した.本研究では基礎的検討として,皮膚ガスのサンプリング手法および分析技術の高度化に取り組んだ.サンプリング手法として,牛に特化したサンプリングデバイスを作製し,固相吸着剤を腰部に近い背部に装着させる手法を開発した.本手法で捕集された皮膚ガスをGC-MS分析に供試したが,特徴的なピークを検出することはできなかった.そこでにおい嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O),ガスクロマトグラフ分取システム(GC-F),およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析したところ,黒毛和種の皮膚ガスに特徴的なにおい物質として(E)-3-Octen-2-oneを同定した.本研究は大型畜産動物の皮膚ガスを同定した初めての報告である.将来的に本技術を活用して皮膚ガスとストレスの関係を検証し,パッチテストや嗅覚センサーを用いた非侵襲的なストレス数値化技術の実用化につながることが期待される.
国内でペットとしてイヌを飼う環境は室内が主流のため,イヌの持つ動物的な臭気と接する機会は増加しているものの,成分に関する報告はほとんどない.特徴的な臭気を有する,コーギー種犬の飼育に使ったシートや抜け毛の入ったクリーナーパックなどに対して,ダイナミックヘッドスペース法による捕集と,におい嗅ぎ分析を含む臭気分析を行った.それらの結果,3-methylbutyric acidと2-acetyl-1-pyrrolineがこの特徴臭気の要因と推測され,さらにGC/MS法により確認された.