新型コロナウィルスの症状の一つや後遺症として“嗅覚障害”という言葉が広く認知されてきました.それに伴い,「もっと簡便な嗅覚検査を」というニーズが高まっています.冒頭では簡単に嗅覚障害について概要をお伝えし,その後,共同開発を行った簡易嗅覚確認キットの開発秘話と,嗅覚製品の製造において弊社が得た知見をご紹介いたします.ラストでは嗅覚製造に携わったものであれば,誰もが体験したことがあるであろう“嗅覚あるある”を皆様とともに共有したいと思います.肩の力を抜いてご一読いただければ幸いです.
廃棄される貝殻などから生成した消石灰を基材とする衛生剤に清涼感やかおりを付けるため,香料や精油を添加するとイメージしたかおりにはならず,腐臭に変化した.消石灰は,強塩基かつ多孔質が特徴で除菌消臭機能があるが,この性質と有機化合物の相性が悪いことが考えられる.消石灰にかおりを付けることができれば,除菌,吸着による消臭に加え,マスキング効果も期待でき,身体やハウスクリーニング向け製品の可能性が広がる.自然界からの恵みを現代の私たちの生活に適切に利用できれば,持続可能な社会の環境も整うと期待する.
油含有土壌の掘削後バイオレメディエーションは好気処理が主流である.好気処理では土壌に酸素を均一に供給する必要があり,酸素の供給が均一にできない場合,その箇所は嫌気環境となる.嫌気環境では,発酵などの嫌気分解が進行するため,その状態で酸素供給のために攪拌等を行ってしまうと,臭気が拡散され周囲の作業環境が劣悪になる.
本報では,油含有土壌のバイオレメディエーションによる盛土試験を行った際に発生したにおい問題が油分分解に与える影響とにおいを拡散させずに浄化を進行させる方法を検討した結果について述べる.
国内有数の油田を有していた新潟市秋葉区では,現在でも一部の地域や河川において原油が自噴している.市街地近郊に自噴箇所の存在する地域は日本において比較的珍しく,流入した原油は河川および周辺土壌の微生物生態系に影響を与えていると予想される.またその環境の生態系を明らかにすることは,将来的に生物学的な原油処理(環境浄化)を行う上で重要な知見を得ることができると考えられる.本稿では,かつて石油の街として親しまれたこの地域と,著者がこれまで行ってきた原油自噴ポイントに生息する土着微生物の解析・探索について紹介する.
本研究の目的は,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りによる心理生理的な作用を明らかにすることである.ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りに対する嗜好性と香りの印象を評価したうえで,心理学的評価とあわせて,自律神経および中枢神経活動の統合生理学的評価を行った.その結果,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りを吸入すると“自発的ストレス”,“抑うつ・不安”“敵意”が有意に低下した.一方,“爽快感”,“非活動的”は有意に上昇したことから,心理に対して鎮静的に作用することが示唆された.生理的には,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香り吸入後に瞳孔の縮瞳率と末梢皮膚温が有意に上昇したことから,交感神経活動が抑制され,副交感神経活動が優位な状態になることが示唆された.さらに,脳の前頭前野部で有意な血流低下が観察されたことから,中枢神経活動に対して鎮静的に作用することが示唆された.ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りに心理生理的な鎮静作用が認められたが,自律神経活動に対する生理作用と,香りの嗜好性および心理作用との間に相関関係は認められなかった.
漢方薬のかおりは重要な要素の一つであるが,乾燥エキス製剤化の工程における損失が問題となっている.今回,かおり成分としてシンナムアルデヒドを対象とし,その減少に与える濃縮温度と生薬の種類の影響について検討を行った.その結果,最適な濃縮温度は52~55℃であること,シンナムアルデヒドの減少に関与する生薬として杏仁の存在が明らかとなった.これにより,かおりと製剤化の関係の一端が明らかになったと考える.