においセンサは，近年その需要が増しているものの，技術的な課題が多いことから，まだ世の中に普及しているとは言えない状況である．このにおいセンサの技術を世の中に送り出すべく，膜型表面応力センサ（MSS: Membrane-type Surface stress Sensor）を用いたにおいセンサの研究開発が物質・材料研究機構（NIMS）を中心に行われてきており，2022年にはNIMS発のスタートアップである株式会社Qceptionが設立された．本稿では，MSSにおいセンサの技術的な解説および社会実装に向けた産学官連携の取り組みについて解説を行うとともに，Qceptionが取り組んでいる事業について紹介を行う．

本研究では，非対称電界イオン移動度スペクトロメトリ（FAIMS：field asymmetric ion mobility spectrometry）を用いて，環境中の化学物質をリアルタイムに計測する新たな手法を開発した．FAIMSの高い分子選択性と感度を活かして，特に工場内外の空気中の微量化学物質の計測に焦点を当てた．可搬型の試作機を使用し，実際の現場で化学物質の分布と濃度変化を効率的に捉えることが可能となった．2件のフィールド計測事例を通じて，本技術が健康リスク評価や環境保全策の精度向上に寄与する可能性を示す．

匂いの評価法としては従来，GC-MS等の機器分析や官能評価が中心に行われてきた．一方，従来の機器分析法よりも簡便かつ官能評価のように匂いの相対的な差分に着目して可視化・識別する方法として「匂いセンサー」の実用化が期待されている．当社ではケミレジスター型と呼ばれるセンサー素子を中心とする匂いセンサーの要素技術開発を進めてきた．これら技術をさまざまな用途に対応する匂いセンサー「FlavoTone^®」として2023年夏から上市を開始した．本稿では各要素技術を中心に述べ，末尾にて今後の事業展開の見通しについて紹介する．

本研究は，ガスクロマトグラフィー質量分析（以下，GC-MS法）を用いて，入院患者の皮膚病変部に貼付した被覆材から臭気成分を検出できるか検討した．その結果，皮膚病変部の被覆材から悪臭に分類されるAcetoin，Acetol，Diacetyl，Isovaleric acidが定性候補成分として検出された．以上より，GC-MS法は皮膚病変部の被覆材に付着した臭気成分の検出に適用できることが示唆された．

においに起因する体調不良等の実態を把握するために，アンケート調査を行った．においが原因で不快な気分や体調不良になった経験がある人は，男性よりも女性に多く，65歳以上では少ない傾向がみられた．体調不良等の原因となったにおいとして，体臭・汗臭，たばこ臭，香水のにおいなどが挙げられた．既往歴にアレルギー性疾患がある人，QEESI得点が高い人は，においが原因の体調不良等を生じやすい傾向も明らかとなった．