鹿児島県の最南端には薩摩富士と呼ばれる開聞岳があります.今から80年以上前,その山の麓で香料植物の栽培と精油抽出が始まりました.中でもクスノキ科の芳樟は香粧品香料に必要不可欠だったリナロールを多く含有するため,栽培面積および精油産出量も年を追うごとに増え,最盛期にはヨーロッパへ輸出されていました.鹿児島県では芳樟の生産組合も発足し,栽培および蒸留技術向上のための研究が行われました.その後合成リナロールの登場とともに需要がなくなりましたが,近年天然香料が見直されるようになり,再び注目されている芳樟の歴史と栽培方法,精油について解説します.
山梨県は,森林面積が78%であり,その山間地は,林業や農業の場であるとともに,東京都をはじめとする都市の水源地としての機能を担っている.全国の山間地が抱える共通の課題としては,人工林の整備促進,間伐材の利活用の確立,外部への情報発信等が挙げられる.我々は,課題解決に向けて,森林・里山の可能性を拡げ,山間地と都市部を結び,各々の活性化につながるプロジェクトの一つとして,4つの町村を生産拠点として,林業の林地残材となる樹木の枝葉(スギ,ヒノキ,シラべ)や耕作放棄地での未活用果実(ユズ)を原料とした精油の生産を行っている.ここでは,その生産工程の決定のために検討したことを報告する.
北海道の北にある下川町は,古くから林業が盛んで,森とともに町づくりをしてきた歴史があります.その下川町では,2000年からトドマツの精油製造を行っており,現在株式会社フプの森が事業を担っています.トドマツの精油は,林業で伐った木の枝葉を原料としており,未利用資源の活用につながっています.森づくりとともに営んできたトドマツ精油とその事業についてご紹介します.
ヒト嗅覚が感知する全てのにおい・かおりを検出しデジタルデータ化可能なセンサの開発を目指している.当初,酸化金属半導体等をセンシング分子とする電気的センサを検討したところ,大半のにおい・かおりは識別可能であったが,におい分子の特性に重要な光学異性体については困難であった.そこで,ヒト嗅覚を支える約400種類のヒト嗅覚受容体をセンシング分子とするバイオセンサを開発し,幅広いにおい・かおりを評価可能な普遍的な手段を構築することを目標としている.本稿では,その開発経緯,技術的課題,そして,におい情報DX(データ化,保存,転送,再構成)の実現可能性を概説する.
カンキツ新品種ʻ佐賀果試35号ʼ(ʻにじゅうまるʼ)は出荷前に長期の貯蔵期間があるため,貯蔵中の品質劣化が問題となっている.本研究では貯蔵中の品質劣化を非破壊で評価する方法として“におい/香気成分”に着目した.本研究では,嗅覚官能評価および香気成分分析による非破壊品質判別法の開発に向けた基礎的検討として,試料の分析結果から出荷の可否を予測する“判別式”の策定を目的とした.果皮のにおいを定量的記述分析法(QDA法)で評価したところ,いくつかのにおいが経時的に低下する傾向が見られ,品質判別に利用可能であった.果皮の香気成分をGC-MSノンターゲット分析に供試し,貯蔵期間との間に有意な相関関を示した9物質を指標香気成分とした.香気成分の相対感度から出荷可否を予測する判別分析に供試したところ,食味検査と判別分析の一致率は90%であった.本研究で得られた香気成分を用いた出荷可否の判別式はおよそ利用可能であることが示された.
黒毛和種牛の生産農家にとって繁殖雌牛の発情発見は重要な業務であり,発情検知技術の開発に対するニーズは高い.本研究グループでは発情検知の新しい手法として“におい”に着目した.繁殖雌牛の発情を発見可能な“指標におい物質”を同定し,発情検査の“判定基準値”の設定を目的とした.供試牛より腟分泌物(頸管粘液)を採取し,嗅覚官能評価に供試した.結果として非発情区においの印象は“獣様”であり,発情区は無臭であった.GC-OおよびGC-MS分析の結果,非発情区の“獣様”のにおい物質として“p-クレゾール”を同定した.p-クレゾール相対強度と獣医師による真の発情状態からカットオフ値を設定し,発情検査を実施した.結果として感度と特異度はそれぞれ88%と88%であったことから,≦0.051を判定基準値として採用した.本検知技術を既存技術と補完的に組み合わせることで,発情検知の正答率を向上させる技術として活用可能であることが示された.
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