自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
10 巻, 1 号
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巻頭言
特集:児童期・青年期の社会適応
  • 伊藤 直樹
    2013 年 10 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本稿では,自閉症スペクトラムのある思春期・青年期の若者たちへの臨床的アプローチの課題について,学校という文脈に即しながら教育相談の視点を中心に論じた。小学校から中学校に進学する際には学校の仕組みが大きく変わるため,自閉症スペクトラムのある若者にとってはさまざまな困難が伴うことや,中学校以降の学校段階において本人・保護者と学校・教員との間で起こるさまざまな問題について事例を挙げ説明を加えた。最後に,思春期・青年期における臨床的アプローチの課題として,アイデンティティ形成の重要性に対する再評価,思春期・青年期的な心性に対する理解の促進,支援員の専門性の向上,学校内における効果的な支援システム作り,学校間における情報提供の改善,高校・大学段階での進路選択における支援体制の整備を取り上げた。

  • 森脇 愛子, 神尾 陽子
    2013 年 10 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    近年の研究報告では,自閉症的行動特性は一般母集団内でなめらかな連続分布を示し,知的水準 や自閉症スペクトラム(ASD)の診断に関わらずその特性を多く持つ群では,情緒や行為面のいわゆる精神 症状の合併によって適応が悪いことが指摘されている。本研究では,全国の小・中学校通常学級の一般児童・生徒を対象とした大規模調査を行い,自閉症的行動特性と合併精神症状との関連について検討した。 標準化の完了した質問紙に対する24,728 名分の保護者回答について解析した結果,自閉症的行動特性の程 度と情緒・行為の各問題には有意な相関関係があり,自閉症的行動特性を多く持つ群ほど精神医学的症状 の合併する割合が高いことが示された。またASD 診断閾下となるような軽微な特性を持つ子どもの場合に も精神症状の合併リスクが高いことから,学校現場において教育的支援のみならずメンタルケアのニーズが高い実態が明らかとなった。

  • 教育相談事例から
    谷口 清
    2013 年 10 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    いじめは自我形成過程における対人関係の未熟性の結果,集団内の地位の向上や支配権の確立・拡大を図って攻撃を道具的に用いることにより発生する,との視点を紹介した上で,学齢期の教育相談事例から対人トラブルを主訴とする事例を抽出し,問題のカテゴリー分類を通して自閉症スペクトラム障害 (ASD),注意欠陥/多動性障害(ADHD)を含む発達障害と,いじめの関係を検討した。1)対人トラブルに は攻撃の意図性が明確な道具的攻撃と衝動統制を背景とする反応性の攻撃があり,加害・被害双方の視点 から把握する必要がある。2)学齢期の攻撃行動には男女差が認められ,女子の関係性攻撃が特徴的である。 3)ASD 事例は意図理解の困難から攻撃の対象となりやすく,個別的配慮が重要である。4)ADHD 事例等による攻撃は承認欲求の表れの場合もあるが,ASD を含む多くの発達障害事例の加害行為は衝動統制の問題 とみることができる。

  • 広汎性発達障害を中心に
    加茂 聡, 東條 吉邦
    2013 年 10 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー
    以前,不登校は心の問題として捉えられてきたが,近年になって不登校と発達障害(特に広汎性発達障害)との関連性についての研究が増加している。本研究は,広汎性発達障害児が不登校となる経緯,および不登校となった発達障害児への支援や予防的な支援の在り方について,主として環境的な要因に焦点を当てて検討することを目的とし,医療機関と教育機関を対象とした実態調査を行った。その結果,広汎性発達障害児の不登校や登校しぶりの特徴として,初発時期が早いこと,不登校や登校しぶりの契機は多様であることがわかった。広汎性発達障害が不登校や登校しぶりとなる環境的要因としては,主として,いじめられた経験が挙がり,さらには広汎性発達障害児が「生きにくさ」を感じやすい学校環境や人間関係が背景にある可能性が示唆された。また,発達障害が関係する不登校への支援については,一般的な不登校のケースとは支援内容や支援における困難な点に違いが見られた。
  • 近藤 直司
    2013 年 10 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    ひきこもり問題と自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)との関連性は以前から指摘されてきたことである。本稿では,まず,青年期ひきこもりケースの精神医学的診断と,自閉症スペクトラム障害を背景とするひきこもりケースの特性について述べる。 次に,これらのケースに対する精神療法的アプローチとして,メンタライゼーションmentalization に焦 点付けた方法論について論じてみたい。また,ひきこもりのリスクをもつ子どもへの治療・支援について検討するために,青年期においてひきこもりを生じているケースの特徴について検討した結果,自閉症特性の目立ちにくい受身的・内向的なタイプに留意すべきであることが明らかになった。また,青年期・成人期において激しい家庭内暴力など介入困難な状況に陥るケースがあることを踏まえ,その典型的な精神病理と家族状況,児童・思春期における精神科医療のあり方と,より早期の予防的早期介入に関する視点を示した。

  • 田中 哲
    2013 年 10 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    ASD の養育者が虐待加害にいたる過程を分析するとともに,支援される必要を指摘した。社会性 の問題に関連しては,女性の場合には自らの母親や支援サービスなどとの不適切な関係から,養育が閉塞状況に陥りやすく,男性の場合には養育に参入する役割を見つけにくい傾向があることが指摘できる。子どもとの相互関係に関しては,女性養育者の場合には愛着形成そのものに困難をきたす事例が認められ,男性養育者の場合には,密着した母子関係に割り込む方法が見つからないことに由来する困難が認められ る。衝動性に関連しては,自らの衝動を回避困難であると考える心性に,ASD の特徴を認めることができ, 虐待的な行為への嗜癖的な固着にこの衝動性が関与する場合がある。状況認知に関連しては,被害的な認知が養育態度に持ち込まれることによって生じる,子どもに対する不適切な影響の可能性を指摘することができる。

論文
  • ASD 当事者の「生き方」と特別支援教育を素材として
    中山 眞人, 初塚 眞喜子, 東條 吉邦
    2013 年 10 巻 1 号 p. 53-63
    発行日: 2013/03/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本国憲法の人権規定の解釈論を手がかりとして,ASD 当事者への支援のあり方について考察した。具体的には,まず,(1)最近のASD 研究の動向と近年有力化している憲法13 条の解釈論をあわせて考慮すると,ASD 当事者が障害の克服や治療を強いられることなく,ありのままの存在として 生きていけるように「社会を変えていくという形での支援」が重要であると指摘し,その観点から発達障 害者支援法の問題点について検討した。その上で,(2)ASD 当事者への特別支援教育においても,従来から行われてきた「社会適応の努力を求める方向での支援」,「ASD 当事者が変わるための支援」に加えて,「ASD 当事者が安全・安心感をもって学校生活を送ることができるように環境整備を行うという形での支援」をも充実させることが重要であると論じ,ASD 当事者側がどのような支援を受けるかを自己決定に よって選択できるようにすることが望ましいことを指摘した。

編集後記
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