自閉症スペクトラム研究
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11 巻, 2 号
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巻頭言
追悼文
原著
  • 立松 英子, 太田 昌孝
    原稿種別: 原著
    2014 年 11 巻 2 号 p. 11-20
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    言語の理解と使用に困難のある対象では診断の有無にかかわらずASD 様の行動が多いことが知られ、特別支援学校では、診断と行動および認知発達との関係を明らかにする必要が生じている。本研究では、教育現場での調査に基づき、ASD の診断とASD 様の行動および認知発達との関係を検討した。自閉症の診断補助尺度としての「改訂小児行動質問票(CBQ-R)」では、32 項目中31 項目においてASD の診断を伴う群の得点が高く、同時に、認知発達に関係する項目が20 項目存在した。総合得点の比較では、ASD の診断のない群にASD である疑いを示すカットオフ14 点を超える対象が28%見出され、その78%が概念の芽生えのない対象であった。ASD 様の行動と認知発達との強い関係が見出され、これらの結果は教育実践との関連で考察された。

  • 鈴木 徹, 鈴木 恵太, 平野 幹雄, 野口 和人, 細川 徹
    原稿種別: 原著
    2014 年 11 巻 2 号 p. 21-28
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    従来、時間的拡張自己の成立について遅延自己映像認識課題を用いた検証では、自閉症者と定型発達者との間で差異は認められなかった。本研究は、時間的拡張自己の成立について、過去の時点の自己像と行動の理解という2つの側面に着目し、それを遅延自己映像認識課題と過去の行動再生課題の実施から検証した。対象は、特別支援学校に通う小学部から高等部の知的障害のある自閉症者(自閉症群)および知的障害者(対照群)とした。その結果、遅延自己映像認識課題の成績において両群に有意差は認められなかったが、過去の行動再生課題の成績において両群間に有意差が認められ、自閉症群は対照群に比べて課題通過率が著しく低かった。このことから、知的障害のある自閉症者は時間的拡張自己の成立において、過去の自己像の理解は可能であるものの、過去の行動の理解に困難を示すことが示唆された。

実践研究
  • 先行子操作を中核として
    村本 浄司, 角田 博文
    原稿種別: 実践研究
    2014 年 11 巻 2 号 p. 29-37
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、施設に入所する自傷や他害等の行動問題を示している知的障害を伴う自閉症の男性1 名に対して、先行子操作を中核とした支援を行うことで行動問題を軽減することを目的とした。対象者の行動問題に関する機能的アセスメントを実施した結果、注目獲得の機能や次の活動を早く行いたいという要求機能で維持されている可能性が示唆された。介入期Ⅰでは、対象者に特定の時間帯に靴下や衣類を提示することによって行動問題を予防する支援を行った。さらに介入期Ⅱでは、提示する靴下や衣類の数を増やし、衣類や靴下の入っている対象者の居室のロッカーを解錠した。支援の結果、介入期Ⅰではベースラインと比較して対象者の行動問題に軽減が見られた。反転期において一時的に行動問題の増加が見られたが、介入期Ⅱではさらに行動問題の大幅な軽減が観察された。これらの結果は、靴下や衣類が数多く提示されたことによる選択肢の拡大の効果と行動問題への確立操作の効果であると考えられた。今後の課題として、対象者に対するスケジュール操作の支援の必要性と職員間の連携と介入の厳密性を高める必要があることが示唆された。

  • SCERTS モデルを適用した実践から
    西山 剛司
    原稿種別: 実践研究
    2014 年 11 巻 2 号 p. 39-48
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    SCERTS モデルは、発達論を基盤にした自閉性スペクトラム障害のある児童への支援の枠組みで、SC(社会コミュニケーション)ER(情動調整)TS(交流型モデル)の3 つの領域からなっている。そのアセスメントであるSAP(SCERTS Assessment Process)の結果に基づき、特に他者と意図を共有する力の発達を支援するために、「社会性発達支援プログラム」の中から協同活動「荷物運びゲーム」を取り上げて取り組んだ。

    「キャリア共立板」を使用し、不安定な荷物を二人で協力して運ぶ活動を行った。支援は、児童の力に合わせて身体援助、モデル提示、音声指示などを臨機応変に行い、それを次第にフェーディングした。トークンボードを使って目的と目標を視覚化し、また、運び終わったときに「やったー」とハイタッチすることなどでモチベーションを高め、気持ちを共有できるように支援した。約半年の実践の後、SAP-sum や社会-情動成長指標で表された結果からは、児童たちが他者に意識を向け、他者のメッセージを受け取ったり、他者にメッセージを送ったりする力が伸び、他者意図理解の力が高まったことが示された。それは、他者と意図を共有し協同活動を成功させる基盤となった。その上にたって、支援期間の終わりには、目標や役割を解って自立して荷物運びができ、なかなか参加できない仲間を呼んで活動に誘うなどの行動も見られた。また、その力を育てる上で、彼らの生活する世界全体の構造を最適に構成することが必要であることが示唆された。

  • 萩野 昌秀, 平 雅夫, 安川 直史
    原稿種別: 実践研究
    2014 年 11 巻 2 号 p. 49-54
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    学齢期の発達障害児(もしくはその疑いのある児)に対する支援は急務であると言えるが、支援機関の数やサービスの不足が現状の問題として挙げられる。また、幼児期に療育を受けた児であっても、小学校入学を機に療育を終了し、学校や家庭での問題が浮上してくるというケースも少なくない。そこで本研究では、学齢期支援として幼児期に療育を経験した児の保護者に対して自治体(福祉施設)で行うペアレントトレーニングを開発、実施し、その内容と効果について検討した。集団形式の講義に加えてグループディスカッションや個別面接を行ったことや、毎回実施したアンケートの結果もプログラムに反映したことで、より保護者のニーズに即したプログラムを実施することができたと考えられた。実施した各質問紙の介入前後の得点の変化からは、保護者の対応方法の理解の促進、ストレスおよび抑うつ傾向の改善などが伺われた。児の不注意および多動・衝動性の改善も伺われたが、測定に実施したものが保護者評定による質問紙のみであったため、具体的な行動がどう変化したのかの確認も必要と思われる。また今後はフォローアップの実施も予定しており、その際のデータも踏まえた効果測定が望まれる。さらに実施場所が地域の福祉施設であったことから、終了後も自治体が行う相談支援事業の枠組みで、同一施設において相談を受けることが可能なプログラムとなった。

  • 保護者を含めた行動コンサルテーションを通して
    植田 隆博, 松岡 勝彦
    原稿種別: 実践研究
    2014 年 11 巻 2 号 p. 55-62
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、母親による入浴開始の指示を受けてから入浴を終了するまでに長い時間を要する発達障害のある成人男性1 名(A さん)とその母親を対象に行動コンサルテーションを通した支援を行った。A さんの入浴の流れ(指標)は、①A さんに対して母親は入浴開始を指示する、②A さんは浴室へ移動を開始する、③A さんに対して母親は入浴終了を指示する、④A さんは浴室から退室する、⑤A さんはリビング・ルームに入室する、以上であった。そして、①~⑤が実際に行われた時刻および指示内容ならびにフィードバック内容を母親がリビングにおいて記録した。A さんはベースライン期において①~⑤に94 分を要していた。介入期では、母親に対して、入浴終了の指示を9 分早めること、入浴所要時間の結果に応じて異なるフィードバックを行うことを助言した。また、介入期における入浴所要時間の減少は母親の支援によってもたらされた旨の結果操作を行った。さらに、A さん本人に対しても肯定的なフィードバックを行った。その結果、介入期においては67.2 分へと約27 分間短縮され、フォローアップ期においてもこの傾向は維持された。つまり、入浴終了の声かけをベースライン期より9 分だけ早め、入浴時間短縮に対して正の強化刺激を提示したことにより、入浴時間は40 分以上も短縮されたわけである。またその後に、A さんと母親の両者を対象に事後評価を実施したが、ここでも今回のコンサルテーションの有効性が示され、負担も感じなかった旨の回答が得られた。

事例報告
  • ロールプレイを用いた支援方法の検討
    朝岡 寛史, 渡邉 美紀, 岡村 章司, 渡部 匡隆
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 11 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2014/03/31
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、自閉症児1 名を対象に、ロールプレイを用いて社会的理解の指導を行った。研究開始前、対象児は、刺激絵の2 者の登場人物に対して相互に関係づけた表出が生起しなかった。実態に基づき、二者がやりもらいをする刺激絵を見て、登場人物とその行動を表出することを標的とした。介入1 期では、立ち位置・小道具の選択と行動、セリフの表出の要素を含んだロールプレイを行い、直後に標的行動を表出させた。刺激絵は、役柄によって行動が規定されるものを用いた。介入2 期では、登場人物と行動の見本合わせを行った後にロールプレイを実施した。介入2 期の後半から刺激絵を役柄と行動の相互関係が反転可能な場面に変更して実施した。その結果、介入2 期以降において、標的行動の正反応率が上昇した。以上の結果から、自閉症児の社会的理解を促進する上での方法について考察した。

座談会
編集後記
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