自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
14 巻, 2 号
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巻頭言
実践研究
  • 松瀬 留美子
    原稿種別: 実践研究
    2017 年 14 巻 2 号 p. 5-13
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    「障害者差別解消法」の施行により、大学では発達障害の特性をもつ学生への「合理的配慮」についての認識が高まり、議論されている。しかし、特性の多様さ故に、支援体制の構築は容易ではない。特に、言語表現力に苦手意識を持たない例では、表面的にはコミュニケーションが流暢であるため、本人も周囲も自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder : ASD)特性に気がつきにくく、心身の不調による出席不足などで学業に支障が出る、心身を病んで医療機関を受診するなどしても、問題の本質に言及されない場合もある。大学期は青年期の自我同一性の確立の時期であり、自立に向けての最終段階であるため、職業選択と就職活動は重要な課題となるが、それ故に、この時期に“自分がわからない”ことは、一層、不安定になりやすい。特に、“自分の持つ理解できない何か”を理由がわからないままに抱えてきたASD 特性を持つ青年にとって、適切なアセスメントと告知が入学後のできるだけ早期に行われ、自己理解が進むことは、自我同一性の観点からも重要な意味を持つ。本研究では、コミュニケーション上の苦手意識が顕在化しないが、心身の不調で留年及び休学後に学生相談を訪れた大学生の2 事例から、対象者に対する臨床イメージに基づくインフォーマルなアセスメントと、自己理解の深化に有用な早期の告知と支援の背景と課題を主に論じた。また、心理臨床家が当事者のアルバイト経験を丁寧に聴いていくことは、青年期の当事者が自己のASD 特性を理解し、職業適性を前向きに検討して職業選択をするためにも有用である。

  • 自閉症者を雇用するA事業所社員の意識調査から
    松田 光一郎
    原稿種別: 実践研究
    2017 年 14 巻 2 号 p. 15-21
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、自閉症者を雇用する事業所の社員に対し、障害者雇用をどう捉えているか、自閉症者との関係について、社員意識を調査することにより、障害者雇用の阻害要因について分析を行った。その結果、障害者雇用納付金への不満、自閉症に対するネガティブな固定観念、トライアル雇用や職場実習での失敗経験などから、自閉症者と働くことに抵抗を感じていることがわかった。また、障害者雇用に対する社員間の意識格差は、雇用継続の阻害要因と考えられた。一方、社員にとって、外部支援機関との連携を基盤とした職場実習の受け入れ経験は、障害者雇用の継続要因であることを示唆した。

  • 朴 香花
    原稿種別: 実践研究
    2017 年 14 巻 2 号 p. 23-31
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究は、自閉症スペクトラム幼児4名で構成された、小集団療育教室「X 教室」の自由遊び場面で、20分間意図的にふり遊びを設定して支援を行い、子ども同士の関わりの変化について検討することを目的とした。ふり遊びは、対象児たちの興味とイメージの共有しやすさに重点をおいて検討し、「お店屋さん」、「夏祭り」、「魚釣り」の3 つを選択した。そして、対象児たちが一度経験したふり遊びをどのように展開し、お互いの関わりにおいてどのような変化が見られるか確認するため、「お店屋さん」と「魚釣り」の2 つのふり遊びを同時に設定し、4 つ目のふり遊びとして実施した。ベースラインは、ふり遊びを設定しない自由遊び場面とした。子ども同士の関わりの変化は、「友達との関わり行動チェック表」を用いてビデオ分析を行い、行動の生起率で判断した。その結果、ベースラインでは、4 名の対象児全員が各自興味のある玩具で大人と遊んだり、一人遊びをしたりして、友だちに対する注目は低かったが、ふり遊び導入後は、ふり遊びの内容によって若干異なるものの、全体的に友だちへの注目が増え、ベースライン時には見られなかった、友だちに話しかける、友だちの話に返事する、友だちの話を聞いて笑う等の行動が見られるようになった。この結果から、ふり遊びを自閉症スペクトラム幼児の小集団療育場面に取り入れることは、子ども同士の関わりを促す上で一定の効果があると考えられた。

  • 水谷 愛, 水野 恵, 小林 重雄
    原稿種別: 実践研究
    2017 年 14 巻 2 号 p. 33-38
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、言語での意思表出が困難で「状況の切り替え時」等の苦手な場面で攻撃行動をとる自閉症者に対して強化子の有効使用による指導を行った。中でも送迎車から降りる際に降車を拒否し強制すると攻撃行動をとるため、降車時の不適切行動の消失を実践した。指導はフローチャートを用いて行われ、手順の明確化が図られた。

    ベースライン期では強化子の査定を行った。日常の活動で従事している「型はめ課題」、「おやつ」、ご褒美として用いる「ラムネ」の写真を提示し強化子として機能するものを検討した。段階1 では、指示から降車までの時間と強化子の個数を対応させ指導が行われた。段階2 では、指導を時間で区切らず指導が行われた。これらの指導により、1 分以内の降車が定着していった。次のステップとして、段階3 では強化子の個数を減らしていく手続きがとられた。さらに1/3 部分強化スケジュールに変更し、「自らシートベルトをはずして降車する」という行動が維持された。

    本研究では、段階分けの指導を実施したことにより、達成状況に応じて指導を再計画して進行することができた。また「送迎車からの降車」に対しての指導を行ったことにより、「暑い時」「騒がしい時」「外出先での降車」等の他の苦手な場面での不適切行動が減少していった。このことは、対象者A の基本的な集団行動をとることを可能にしたといえる。

実践報告
調査報告
  • スクールソーシャルワーカーへのインタビュー調査の結果と考察
    河合 純
    原稿種別: 調査報告
    2017 年 14 巻 2 号 p. 53-57
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    ■要旨:本研究では、2008 年度から全国に導入されたスクールソーシャルワーカー活用事業で勤務する、経験豊富

    なチーフスクールソーシャルワーカー、スーパーバイザー等に対して、インタビュー調査を行った。発達障害が疑われる事例に対してどのように関わりを持つことが有効であるのかを調査し、疑いのある事例に対しては、どのように関わりを持つことが有効であるのかを明らかにすることを目的とし調査を実施した。質的データ分析を行った結果、<A 外部機関受診の前に充分な説明と支援を行う><B 環境を変えていくために家庭を支援する><C 診断後の保護者と学校の橋渡し役>の3 つのカテゴリーが抽出された。経験豊富なスクールソーシャルワーカーが関わることによって、家庭の状況に合わせた支援を選択し、問題行動の背景には何があり、どこを修正すれば良いのかというポイントを整理した結果、両者の関係修復につながっていくことが示された。本研究の結果について、問題が大きくなる一歩手前で予防的に関わるためにはどのような工夫が必要であるのか、人と環境の相互作用に着目し環境を変えていく手法が何故有効なのかについて考察を行った。

資料
  • 砂川 芽吹
    原稿種別: 資料
    2017 年 14 巻 2 号 p. 59-67
    発行日: 2017/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    成人期に初めて自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断を受けた者は、成人期になるまで障害に気づかぬまま、何らかの不具合が生じて診断に至った者である。このような当事者に対する理解と支援を考える上では、診断に至るまでの当事者の経験に焦点を当てる必要がある。本研究では、成人期に初めてASD の診断を受けた男性が、診断に至るまでにどのような困難を経験し、それに対処してきたのかということについて、質的な方法を用いて明らかにすることを目的とした。成人期にASD の診断を受けた男性当事者15 名に対して半構造化面接を行い、グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った。その結果、ASD の男性は、学生時代から【周囲との差(学校)】を感じながらも、【違和感への対処】をしていた。また、【周囲の環境との相互作用】によってASD の特性が「個性」として受け止められたり、あるいはいじめの原因となっていたりした。そして、学生時代には何とか過ごすことができていたが、社会に出て自分の能力を超える社会的な要求に応えられなくなった時に【周囲との差(仕事)】が問題として顕在化し、診断につながっていたことが示唆された。最後に、成人期に診断されるASD 当事者の特徴について考察した。

編集後記
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