自閉症スペクトラム研究
Online ISSN : 2434-477X
Print ISSN : 1347-5932
15 巻, 2 号
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巻頭言
原著
  • 清水 浩
    原稿種別: 原著
    2018 年 15 巻 2 号 p. 5-14
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    産業現場等における実習(以下、「現場実習」)では、生徒一人一人の実態や進路に関するニーズ等を把握し、持っている力を発揮できる事業所を選定するなど、適切な就労に向けての方向性を十分検討することが求められる。就労移行支援のアセスメントの一つとして、TTAP(TEACCH Transition Assessment Profile:以下、「TTAP」)の活用が有効であることが報告されている(梅永,2010)(清水ら,2012)。TTAP インフォーマルアセスメントの一つである地域でのスキルチェックリスト(Community Skills Checklist、以下「CSC」)は、自閉症者を生産的な雇用に導く5 つの主要な職業領域(事務、家事、倉庫/在庫管理、図書、造園/園芸)において獲得しているスキルを把握することが可能であり、生徒の持つスキルと各職業領域で求められるスキルとの整合性を図ることができるなど、現場実習先を決定する際の資料として活用されている。しかし、特別支援学校高等部卒業生は、上記の5 つ以外にも、製造業、清掃業、調理補助等、他の職業領域に就労をする生徒も多くみられるのが現状であり、実際の就労現場では地域差があることや、時代によっても産業構成が異なることなど、それぞれの地域産業との関連から支援方法をみつけていくことが求められている。

    以上のことから、特別支援学校から実際に就労している職業領域や現場実習で求められる作業内容及び地域産業の実情等を分析し、地域に合ったTTAP インフォーマルアセスメント(CSC)地域版を開発した。

実践研究
  • 永冨 大舗
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 15 巻 2 号 p. 15-23
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    1歳半ぐらいの子どもは物には名前があるということが分かり、大人が物の名前を教える過程で語彙が急激に増加する語彙爆発という現象が起こる。しかし、ASD 児は主症状であるコミュニケーションの障害のため、質問への応答能力を獲得したとしても、自分から疑問詞を用いて尋ねるという疑問詞始発が起きないとされている。本研究は、疑問詞始発が見られないASD の男児とPARS によりASD の特性が強いとされる女児に対し、音声プロンプトを用いて、未知な刺激を提示された時に、自ら「これ何?」と尋ねる疑問詞始発の獲得のための介入を行った。教材として、対象児が知らないと予想されるイラストカードや漢字カードを用い、対象児が知っていると予想されるカードとランダムに提示することにより、疑問詞始発が必要な機会を設定した。介入期では、対象児の疑問詞始発が生起しない時、「これ何?」と音声プロンプトを行い、模倣した後にイラストの名前や漢字の読みを教えた。音声プロンプトは段階的にフェイドアウトした。その結果、対象児は音声プロンプトを用いた介入期が始まると疑問詞始発が生起し、介入を行っていない未知な情報を含む刺激に対しても疑問詞始発が生起するようになった。また、日常場面においても、疑問詞始発を用いる様子が見られるようになった。また、「どこ?」や「だれ?」といった指導をしていない疑問詞始発が生起するようになった。更に、2 ヶ月後のフォローアップ期においても介入の効果が維持された。

  • 遊びの選定方法と支援の効果の検討
    藤原 あや, 園山 繁樹
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 15 巻 2 号 p. 25-35
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究は、認定こども園に通う自閉スペクトラム症児1 名を対象に、3 つの社会的遊びについて支援を行い、保育場面における社会的遊びの選定方法と支援の効果を検討することを目的とした。支援の対象となる遊びを選定するための調査として、保育場面における遊びの観察、社会的遊びのアンケート、担任への聞き取りを実施した。これらの調査から対象児が参加しやすい遊びの条件として、簡単なルールがある、することが視覚的に理解できる、始まりや終わりが明確であることなどが考えられた。そこで、対象児の参加が困難であったごっこ遊びにおいてはやりとりに簡単なルールがあり、そのやりとりが品物の受け渡しによって視覚的に理解できる「薬屋さん」への参加を目標とした。また、屋外の自由遊び場面においてはルールがあり対象児の好みの要素が含まれている「絵合わせ」「おいも運び」への参加を目標とした。支援は、認定こども園の自由遊び場面においてモデルやプロンプトを用いて実施した。その結果、ごっこ遊びへの参加時間や他児とルールを共有して遊ぶ時間が増加した。これらの結果から、支援の対象となる遊びを選定する際に対象児が参加しやすい遊びの条件や対象児の好みを踏まえることが重要であると考えられた。また、遊びの性質上、対象児にとって参加が困難であると考えられる場合でも参加しやすい条件を組み込むことで参加が可能になることが示唆された。

  • 趙 成河, 園山 繁樹
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 15 巻 2 号 p. 37-50
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では、同年齢児に比べ食事摂取量が少なく、摂食可能な食物の種類も限られている知的障害特別支援学校小学部3 年の自閉スペクトラム症女児1 名を対象に、児童デイサービス施設の昼食場面において嫌いな食物と好みの食物を同時に提示する方法を適用し、摂食量の増加、摂食内容とローレル指数の改善への効果、さらに、偏食に対する先行子操作に基づく介入の有効性や介入の留意点を検討することを目的とした。摂食に関する全般的アセスメントおよび偏食に関するアセスメントを実施した後、それらの結果を基に保護者と協議して、標的食物を選定した。介入は原則として対象児が施設を全日利用する日の昼食時間30 ~40 分程度であった。その結果、一部の標的食物の摂食量の増加、副菜の摂取量増加、および摂食内容の変化が見られた。ローレル指数については年齢標準には達しなかったものの、介入後に大幅な改善が見られた。以上の結果から、先行子操作に基づく介入方法である食物同時提示法の有効性が示唆され、介入の際の留意点を検討した。

  • 「待ってに応じる」指導プログラムを福祉事業所で活用した取り組み
    加藤 健生, 今本 繁
    原稿種別: 実践研究
    2018 年 15 巻 2 号 p. 51-60
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    本研究では成人福祉事業所の生活において、視覚的スケジュールやPECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)といった支援ツールを使用していても避けることができなかった待つ場面において、利用者間のトラブルや飛び出しといった行動問題を示していた知的障害を伴う2 名の成人自閉スペクトラム症者に対する実践研究である。対象者にFrost & Bondy (2002) の「待ってに応じる」指導プログラムを適用し、それぞれの対象者における指導プロセスの過程と行動問題が観察されていた場面の逸脱行動の変化を提示することを目的とした。両対象者はプログラムに沿って待機場面での対応を学習し、学習したスキルを事業所の日中活動で活用することで、複数場面で観察されていた逸脱行動が軽減した。また支援者が複数に変更になった6か月後のフォローアップ期間でも逸脱行動は観察されていなかった。最後に本事例を通して、対象者や指導を担当する支援者における「待ってに応じる」指導プログラムの適用について、プログラムを福祉事業所で導入していくために必要なことについての考察を行った。

実践報告
調査報告
  • 保育活動の観察から
    長南 幸恵
    原稿種別: 調査報告
    2018 年 15 巻 2 号 p. 69-76
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2019/04/25
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : 以下ASD)には、常同行動や同一性保持、限局した興味などの特性がある。筆者は、ASD 児の同一性保持や常同行動、限局された興味などの行動が、定型発達児とは異なる感覚に由来していることに着目し、ASD 児の感覚の観点から「関心を示す」反応と行動との関連を明らかにすることを目的に本研究を行った。今回は、視覚、聴覚との関連についての知見を述べる。保育園に通園する知的障害及び言葉でのやり取りが可能であるASD 児3 名を対象に、対象児の保育活動の参加観察によってデータ収集を行い、質的分析を行った。その結果、対象児が視覚に関心を示す行動は、18 場面中17 場面で観察され、視線を向けた対象は「隙間」、数字や文字の「規則性」があるもの、「断面」や「構造」、「水流」、「ゆらゆら動くもの」や床の「微細な変化」であった。聴覚に関心を示したのは、3場面だけであり、関心対象は「音楽」や「規則性のある言葉」であった。興味の偏りや原曲も対象児にとっては、不快を遠ざけ、安心や安楽をもたしている側面がある。この側面の理解がASD 児との信頼関係を作り、生活のしづらさの改善に繋がると考える。

編集後記
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