自閉症スペクトラム研究
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最新号
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巻頭言
  • 近藤 裕彦
    原稿種別: 巻頭言
    2020 年 17 巻 2 号 p. 1
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    今回の17巻2号は、基礎研究が原著2 篇、資料1 篇、調査報告1 篇、実践的な研究論文として実践研究3篇、実践報告3篇、合わせて厚めの10篇をお届けします。 久々の原著はどちらも実験研究が掲載されました。このうち鏡原らの論文は、他者にpositive な印象を与える非言語コミュニケーションを取り上げ、表情やうなずきが自閉スペクトラム症(ASD)者に乏しいことを明らかにした研究です。初対面の方との面接という比較的自然な状況下の知見であることから、今後は実践への応用が期待されるでしょう。富士本・安達は、ASD成人の身体運動や自己身体の認識における視覚情報と体性感覚情報の統合について検証しています。それぞれ図形の描画課題と腕の触刺激の位置弁別課題を用いた結果、ASD成人は、視覚情報が得られずに体性感覚情報のみでフィードバックすると運動修正が困難なことや、身体表象の明確さに個人差の大きいことが示唆されました。 資料及び調査報告として、2つの調査データが提出されました。原口らは、全国規模でペアレントメンターの養成と活動の実態調査を行ない、都道府県と政令指定都市での違いや課題を検討しています。岩田は、東京都の子育て世代包括支援センターと子ども家庭支援センターにおける支援内容を調査し、特に「グレーゾーン」の母親に対する困り感が顕著とのことでした。いずれも、各自治体で取り組みを進めていくための有効な参考指標となることでしょう。 一方で実践研究に目を向けると、河村は複数の事例から成る小学校特別支援学級の漢字学習の取り組みの中で、単に筆記回数を増やすだけでは効果がみられないと述べています。さらに、小野島らの論文と植田・松岡の論文は単一の事例によるものです。前者は、知的障害を伴うASD 児に大学のセッションルームで身につけた行動を家庭へ般化していった取り組みを示しています。後者は不適切な発言をするASD 成人を支援する福祉事業所職員4 名へのコンサルテーションの研究です。当事者の不適切な発言そのものに直接対応するのではなく、業務を遂行する声かけをしたり、適切な行動をしたら称賛するという提案が一定の効果をもたらし、改善に向かった経過が具体的に記されています。 実践報告について、綿引らは、知的障害はないが、身体的に不器用な学齢期ASD児2 名について、投動作の特徴と介入効果の検討を行ないました。次に伊藤久志の論文は、知的障害を伴い、特別支援学校中等部に通う自閉症児にイントラバーバル反応を活用した指の名称の指導、また、伊藤功・青山の論文は特別支援学校高等部に在籍する知的障害を伴う自閉症児の着替え指導に前課題提示法を活用した取り組みを紹介したものです。 最後に、掲載された実践内容を振り返ると、支援環境の調整・整備はもちろん、適切なアセスメントや支援の蓄積に基づく事例検討の重要性を改めて認識したところです。

原著
  • 初対面者との会話時における表情とうなずき
    鏡原 崇史, 難波 修史, 若松 昭彦
    原稿種別: 原著
    2020 年 17 巻 2 号 p. 5-13
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    従来の研究より、ASD 者の表情変化の少なさが報告されてきたものの、先行研究の多くは主観的・抽象的な表情の評価法を用いており、具体的にどういった表情の要素が少ないのかは明らかになっていない。さらに、意図的に表情を作ることを求めた研究が多く、より日常生活に近い状況での検討が求められる。そこで本研究では、明らかな知的な遅れがないASD 者(20 名)が初対面者による自己紹介を聞く場面(Listen 条件)とその人物に対して自己紹介をする場面(Talk 条件)の表情の表出及びうなずきの頻度を解剖学的見地に基づいた表情分析法であるFacial Action Coding System(FACS)を用いて分析し、定型発達者による両場面の指標(20 名)と比較した。その結果、Listen 条件では、ASD 者は定型発達者と比べて笑顔に関連する顔面動作や会話の促進に関わる動きなどが少なかった。Talk 条件では、笑顔や眉の上昇といった発話を強調する顔の動作が定型発達者よりもASD 者は少なかった。また、Listen 条件のうなずきの頻度に関しても、ASD 者は定型発達者より少ないという結果が得られた。本研究により、従来の研究で指摘されてきたASD 者の表情表出の乏しさが笑顔及び会話のシグナルとしての表情の少なさに起因することに加え、うなずきの頻度も少ないことが明らかとなった。

  • 身体関連課題を用いて
    富士本 百合子, 安達 潤
    原稿種別: 原著
    2020 年 17 巻 2 号 p. 15-21
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、自閉症スペクトラム障害(以下、ASD)のある当事者が運動制御を行なう場面や自己身体を認識する場面で、視覚情報と体性感覚情報の統合について検討することである。能動的な運動制御である描画運動をする図形描画課題と、受動的な触刺激位置弁別課題の2つの身体関連課題を設定し、検討を行なった。各課題ともに、視覚情報あり条件と視覚情報なし条件の2つ条件で行ない、視覚情報の有無が課題遂行に及ぼす影響を検討した。その結果、ASDのある当事者は視覚情報が得られず体性感覚情報のみを頼りに描画するとき、描画運動の初期で描画行動の調整が困難になることが示された。また触刺激位置弁別課題では、視覚情報が得られずに触刺激の提示された身体位置を判断する際にASDのある当事者は、課題の難度に左右されず身体表象の明確さに個人差が大きいことが示された。

実践研究
  • 河村 優詞
    原稿種別: 実践研究
    2020 年 17 巻 2 号 p. 23-31
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    研究の目的:特別支援学級在籍児童の漢字学習において、筆記回数と書きの再生成績の関係を明らかにすることを目的とした。研究計画:操作交代デザインを用いた。場面:小学校の教室で実施した。参加者:特別支援学級に在籍する6 名の児童であった。独立変数の操作:筆記回数を5 試行ごとに3 回~7 回に変更し、以下の5 種類の学習方法を実施した。S1:空中に指で漢字を書く「空書きによる同時再生」、S2:紙面に指で漢字を書く「指書きによる同時再生」、S3:薄い灰色の線を鉛筆でなぞる「同時再生+薄線プロンプト」、S4:手本を鉛筆で書き写す「同時再生」、S5:手本を隠して鉛筆で書く「遅延再生」。行動の指標:学習直後および翌日に実施した書きテストにおける再生成績を比較した。結果:学習直後のテストでは3 回筆記-7 回筆記の間に大きな差は見られず、学習方法間での再生成績の差が大きかった。翌日のテストでは、3 名の児童のS1・S2・S5 で7 回筆記において成績が高かったが、S4 では逆の傾向を示すなど、筆記回数と正答数の間に共通した関係は認められなかった。結論:少なくとも本研究で扱った5 種類の学習方法において、筆記回数を増加させることで書字獲得は促進されないことが示唆された。これは児童の負担軽減に貢献しうる知見であると考えられた。

  • 大学のセッションルームにおける指導と家庭への般化
    小野島 昂洋, 志村 恵, 梅永 雄二
    原稿種別: 実践研究
    2020 年 17 巻 2 号 p. 33-40
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究では、知的障害を伴う自閉スペクトラム症がある小学3 年生の男児が一定時間一人で活動ができることを目標に、ワークシステムを用いた指導を行った。まず大学のセッションルームで指導した後に、身につけた行動の般化を目的に同様の環境を家庭にも設定して指導を続けた。その結果、いずれの環境においても指導の継続とともに援助を必要とする場面は少なくなることが観察され、ワークシステムによる支援が自立した活動遂行に対して効果的であることが示唆された。その一方で、課題への従事は課題選定によって大きく左右されることも観察され、ワークシステムを用いた指導を効果的に行うためには対象児の興味や関心を生かした課題を設定していくことの必要性が今後の課題として残された。

  • 就労継続支援B型事業所職員への行動コンサルテーションの実践を通して
    植田 隆博, 松岡 勝彦
    原稿種別: 実践研究
    2020 年 17 巻 2 号 p. 41-49
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究では、就労継続支援B 型事業所(以下、「事業所」)において行動コンサルテーションを実施した。対象は、他者に業務と無関係な不適切発言をすることで本人のみならず他利用者の業務遂行にも支障をきたしていたASD 成人であるA さんと事業所に通所する利用者全体の支援を担当する職員4 名であった。ベースライン期において、A さんの不適切発言は1 日あたり平均約11 回観察されていた。これに対して介入期では、職員らに①A さんの不適切発言に対応してしまうのではなく、業務遂行を促す声かけを行うか聞こえないふりをする、さらに、②A さんの適切な業務遂行行動に対して言語称賛を提示する、以上2 点を提案した。その結果、介入期以降、職員の適切な対応の割合が大幅に増加し、それに呼応して、A さんの不適切発言は半減した。そして、フォローアップ期においてもこの傾向は維持した。このことから今回の行動コンサルテーションは一定の効果を示したと言える。しかしながら、外部のコンサルタントによる直接観察に対する職員の抵抗感やコンサルティ各々が抱く課題意識への配慮において留意が必要な課題が示され、福祉施設の現状にも適合した行動コンサルテーションおよびコンサルティが複数名参画することを念頭に置いた支援環境整備の更なる実践の蓄積と検討も必要であることが示唆された。

資料
  • 原口 英之, 小倉 正義, 山口 穂菜美, 井上 雅彦
    原稿種別: 資料
    2020 年 17 巻 2 号 p. 51-58
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    全国の都道府県と政令指定都市(以下、指定都市)におけるペアレントメンター(以下、メンター)の養成及び活動の実態を調査し、今後の自治体でのメンターの養成及び活動の普及に向けた課題を検討した。都道府県39箇所(83%)と指定都市16 箇所(80%)から回答を得た結果、個々の自治体の取り組みの実態にはばらつきがあるものの、都道府県、指定都市の実態には概ね共通する部分が多いことが明らかとなった。都道府県、指定都市ともに、5 ~6 割の自治体でメンターの登録制度があり、6 ~7 割の自治体で養成研修修了者への研修が実施されていた。メンターの活動は、6 ~7 割の自治体で実施され、グループ相談、保護者向け研修、保育者向けの研修が多く実施されていた。また、メンター活動の予算のある自治体は6 割、活動の謝礼・報酬のある自治体は4 ~5 割、コーディネーターが配置されている自治体は4 割であった。一方、養成研修の修了者のうちメンターとして登録し活動する人数の割合、養成研修の実施状況、活動評価の方法、情報交換・協議の場の有無については、都道府県、指定都市で違いが見られた。本研究の結果は、都道府県と指定都市、さらには市町村におけるメンターの養成と活動を評価、検討する上での基礎資料となり得るものである。今後、全国でメンターの養成及び活動の普及を目指すためには、メンター養成と活動の取り組みの有無に影響する要因、取り組みを促進するための要因について抽出することが必要である。

実践報告
  • 投動作の質的な変化の違いに着目して
    綿引 清勝, 澤江 幸則, 島田 博祐, 中井 昭夫
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 17 巻 2 号 p. 59-67
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本報告では、身体的不器用さを有する学齢期の自閉スペクトラム症児の運動発達上の困難さと支援方略を検討するため、投運動の困難さを主訴とした2 名を対象に、3 種類の投運動課題を用いた介入の結果から、その特徴を分析した。方法は20XX 年1 月~3 月の3 カ月間において、アセスメントは協調運動の発達を調査するためにMovement Assessment Battery for Children-2(M-ABC2)を実施した。運動に対する心理的な評価は、運動有能感に関する質問紙調査を実施した。介入プログラムは、課題指向型アプローチの理念に基づき「強く投げる課題」、「弱く投げる課題」、「ねらった所に投げる課題」の5 つの課題を含むプログラムを5 回実施した。その結果、投動作の改善では、2 名ともに体幹部の評価得点の向上が見られた。しかし末梢部の評価得点は、協調運動全般に遅れがある事例で向上が見られなかった。以上のことから投運動の質的な変化を踏まえ、身体的不器用さを有する自閉スペクトラム症児の臨床的な特徴と介入効果について得られた知見を報告する。

  • 伊藤 久志
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 17 巻 2 号 p. 69-72
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究は、自閉症児に対するイントラバーバル反応を活用した指の名称の指導の事例報告である。対象児のアセスメントの結果、指と数字の関係が成立しており、イントラバーバル反応を活用した指導の前提スキルとなった。指の名称と数詞を唱えるタクト訓練を実施した結果、イントラバーバル反応が生起し、指の名称の音声弁別と命名の正答率が上昇したが、音声弁別の正答率は安定しなかった。視覚-音声刺激関係を形成する際、前提スキルがあれば、タクト訓練によって生起するようになったイントラバーバル反応が媒介して視覚-音声刺激関係が派生的に成立するようになるが、音声弁別に関してはタクト訓練後にイントラバーバルの対を自己生成するよう促しながら指を選択させる一連の行動を強化する手続きが必要である。

  • 知的障害特別支援学校高等部における登校後の着替え指導から
    伊藤 功, 青山 眞二
    原稿種別: 実践報告
    2020 年 17 巻 2 号 p. 73-81
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究では、知的障害特別支援学校高等部1学年に在籍する着替えの遂行に課題を示す自閉症スペクトラム生徒1名を対象に、全課題提示法に基づく着替え指導を実施し、その指導効果を検討することを目的とした。登校後の朝の着替えを指導場面としながら個別指導を行った。指導目標を、①着替えをする位置とロッカーの間を1 往復で移動する、②脱いだものを直後にハンガーに掛ける、③身だしなみを整える、④ハンガーに衣服を整えて掛けることの4 点とした。ハンガーに衣服を整えて掛ける指導の際には、視覚的プロンプト刺激を用いたハンガー教材を取り入れた。個別指導においてスキルを獲得した後に、集団場面における般化を目標とした指導を行った。その結果、着替えに要する時間が短縮し、指導場面におけるプロンプトの総量が減少した。この結果から、全課題提示法に基づく、段階的な指導アプローチの有効性が示唆された。

調査報告
  • 東京都の子育て世代包括支援センターおよび子ども家庭支援センター支援者へのアンケート調査から
    岩田 千亜紀
    原稿種別: 調査報告
    2020 年 17 巻 2 号 p. 83-91
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    本調査の目的は、都内の区市町村に設置されている「子ども家庭支援センター」および「子育て世代包括支援センター」の支援者の、発達障害圏の母親への支援の実態および課題を把握することである。調査の結果、回答者のほとんどが発達障害圏の母親への関わりを有しているものの、支援に際しては母親とのコミュニケーション等、様々な困り感を抱えていた。特に、確定診断されていない「グレーゾーン」の母親に対する支援に困り感が顕著であった。今後の支援の課題として、関連機関を含めた支援者の発達障害圏の母親の特性を踏まえた支援、さらには「グレーゾーン」の母親も含めた、より効果的かつ多様な支援方法の検討の必要性などが示唆された。

編集後記
  • 本田 秀夫
    原稿種別: 編集後記
    2020 年 17 巻 2 号 p. 101-
    発行日: 2020/02/29
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    経験したことのない事例に遭遇したときや、個々の事例で行き詰まったとき、私たちが頼りにするのが文献です。自分が知らないだけで、本当はすでに多くの事例が報告され、対応法についても一定のコンセンサスがあるという場合は、教科書やモノグラフに一般化された文献が多くあります。多くの人が経験しているが、まだコンセンサスの得られた対応法はないという場合は、専門誌などの研究論文を検索する必要があります。珍しい事例では、似たようなケースを誰かが過去に報告していないかどうかを調べます。同様の事例がまだほとんど知られていないと思われた場合には、自分で報告することを考えます。 本誌は自閉スペクトラム症の専門誌ですので、教科書やモノグラフに収載されるほどのコンセンサスが得られていない新しい知見を掲載することがその使命となります。したがって、投稿に際しては、統計学的手法を用いた複数例の解析であっても、実践報告であっても、その試みが歴史的にどのような位置づけになるのかを明確に意識することが重要です。たとえ一事例の報告でも、その事例の実践に際して過去の文献に当たり、どこまでコンセンサスが得られ、何がまだわかっていないのかを整理した上で実践を行い、論文にまとめる際にはそのことを明示して論文を書くことを意識してください。 本誌が日常の実践に重要な手がかりを示すデータベースとなり得るよう、良質な論文の投稿をお待ちしておりま す。

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