日本創造学会論文誌
Online ISSN : 2433-4588
Print ISSN : 1349-2454
26 巻
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  • 紺野 登
    原稿種別: 招待論文
    2023 年 26 巻 p. 1-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    本稿では創造的リスキリングを個人の創造性のそれではなく、イノベーションのための組織的創造性にかかわる知識・能力の拡充としてとらえる。イノベーションは革新的知識創造活動であるが、安定を追求する現業の現場では必ずしも歓迎されない。そこでは壁を超える協業で組織の創造性を引き上げることが課題となる。一方、組織が知識を得ても、それが価値実現に直接結びつくとは限らない。価値の方向や目的を先行的に明示することで、あるべき知識や能力、人的資本が出現すると考えるのが妥当ではないか。そこで重要になるのが目的群の創出である。個からチーム、組織に至る「目的のオーケストレーション」が組織全体の潜在的な知力、創造性を高めるといえる。本稿では「目的工学」の考え方に沿って、組織的知識創造を支援・加速する利他主義的な目的と場、それに基づく知の方法論のカリキュラムによるリスキリングを提言している。
  • 中村 翼, 永井 由佳里
    2023 年 26 巻 p. 13-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    ユーザー・イノベーションが注目されデジタルファブリケーション機器を活用できる創造的なデジタル人材の育成が急務である。教育分野においてデジタル人材を育成する3DCAD教育が数多く行われている。しかし、そのほとんどが3DCADのソフトウェア操作に重点が置かれており、創造性を向上させる取り組みは少ない。本研究はプロダクトデザインとエンシジニアリングデザインの境目のないデザイン教育での、3DCADにおける手描きドローイングの創造性教育に焦点を当てる。具体的には「3Dデータ形状の実現力」と「3Dデータ形状の表現力」について調査をする。実験方法は授業課題を二つの課題(手描きで三面図を描いた場合と自由に手描きドローイングを描いた場合)に分けて、次にそれぞれ3DCADで作成させた課題の3Dデータを比較する。調査の結果、手描き三面図を描くことで3Dデータの実現力は向上するが、表現力は一部を除き平均的であることが分かった。また、自由に手描きのドローイングを描くことで3Dデータ形状の実現力は一部を除き平均的であるが3Dデータ表現力は向上する傾向がみられた。これらの結果から、手描き三面図を描く場合は自由にドローイングを描いた場合よりも創造性は向上しないことが示された。考察を踏まえ、より創造力を向上する3DCAD教育の検討をおこなった。
  • 三浦 幸太郎, 由井薗 隆也
    2023 年 26 巻 p. 32-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    近年、アクティブラーニングや21世紀型スキルが注目され、学習の目的が知識の獲得から知識創造へと変容しつつあり、研究も活発になっている。本研究では自己主導型で個別テーマ型の知識創造型学習に主眼を置き、知識創造型学習支援システムを設計・開発し、研究活動への適用を行う。具体的には学習テーマの設定、課題・進捗の登録、知識やアイデアの整理等を行う機能を搭載したシステムを開発した。その後、大学院生10名が自身の研究テーマについて文章を作成し、4週間にわたって進捗の登録や文章の更新を行い、システムの利用状況や文章の質の変化を評価する実験を行った。また感情やモチベーション、システムの有用性等を評価するアンケートを実施し、各評価項目の相関分析を行った。その結果、進捗の更新回数と文章の質の相関係数が0.75、ポジティブな感情とモチベーションの相関係数が0.84と強い相関がみられた。
  • モデルの構築、成功事例の分類および参加促進効果の検証
    稲葉 理一郎, 保井 俊之, 前野 隆司
    2023 年 26 巻 p. 54-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    本研究は、住民の地域活動への参加を促進させるために、楽しさが創造性の発揮に密接に結びついているという考え方に基づき、エモーショナルデザインの公共政策分野への適用により、社会的意義と楽しさを組み合わせることで創発的に地域活動参加を促進させるという方法論を使って、新たな地域活動参加のモデルを公共政策分野で提案するものである。このモデルは、エコ(環境保全)、地域性、文化といった参加を促す社会的意義に関連する要素に、自分が主体的に参加できる、誰かと一緒に参加できる、予想外であるといった楽しさに関連するエモーションの要素を組み合わせることから成る。さらに国内外で取り組まれた地域活動の100の成功事例を分類、評価するとともに、同モデルの地域活動促進効果について検証を行い、同モデルが有効であることを示した。
  • pro-cに着目して
    竹内 宏文
    2023 年 26 巻 p. 74-97
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    クリエイティブ産業では、個人の第一次創作活動の創造性が重要とされる。本稿は、多生産が求められる実践での文化的・娯楽的作品の製造過程を対象に、pro-cレベルの創造を発揮する映像制作者の第一次創作活動の創造性についての事例研究である。調査対象者はTV番組制作者たちである。pro-cとはプロの専門知識を身につけ、クリエイティブ分野で発展的かつ努力的な進歩をした人が持つ発想レベルである。対象者に回顧的インタビューを行い、経験知を半構造化面接にて集める。取得データはテキストマイニングにて分析を行い創造性が発揮される特徴を抽出する。結果、共通の特徴は過去の感情体験、TV番組制作のための要素の探索、思考・実験を繰り返すリサーチによる意味づけ、コアコンセプトへ到達、確信、そして体験へと循環する創造プロセスとなっている。最後にクリエイティブ産業におけるpro-cレベルをもつ映像制作者の第一次創作活動の創造プロセスモデルを提示する。
  • 村山 祐子
    2023 年 26 巻 p. 98-117
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    本研究では、デザイナーらの創造性や内省に焦点をあてる。本研究の目的は、優れたデザイナーらを観察し、デザイナーの知識やノウハウをデザイン知として形式知化することである。デザイナー研究の調査結果とユーザーの社会的感情を照合し、ユーザーとの関係性を解明する。調査方法としては、事前調査においてさまざまなジャンルのデザイナーらにアンケート・インタビュー調査を行い、その後、有形無形のユーザーのニーズを理解し具現化できる優れたデザイナー4名にエスノグラフィックインタビューを行う。優れたデザイナーらの創造性や内省を探ることで、こころを動かすデザインがどのようにしてできるのかを解明する。本デザイナー研究と、先行研究であるユーザー研究の結果を、総合的にKJ法を用いて分析する。このことにより、デザイナー側のストーリーやプロセスと、これまで暗黙的であったデザイナーとユーザーの関係性の可視化を創出した。
  • 東海林 慶祐, 澤井 賢一, 松前 あかね
    2023 年 26 巻 p. 118-136
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    共創的協働に際し、個人間で共有された心象が形成され、他者と創造的心理状態が共鳴する「響きあい」の重要性は定性的に認識されているが定量的把握に乏しく、個人の創造性と「響きあい」の関係について定量的に明らかにした研究は萌芽段階にある。そこで本研究ではペア・個人での概念生成ワーク中のマルチモーダルな生理指標から隠れマルコフモデル(HMM)を用いて共創的ペアワーク時の創造的心理状態を推定する。加えて共創時特有の現象を含む同モデルで個人ワーク時の創造的心理状態を推定し、個人の創造性と「響きあい」の関係を考察する。その結果、HMMにより共創時創造的心理状態が一定程度推定しうることが示された。さらに他者との関わりを必要しない個人での心象形成に際して発現した「自己共鳴(心に響く時間)」もHMMにより同様に共鳴が検出され、個人レベルの認知としては他者との「響きあい」と同質であることが示唆された。
  • オランダ農業ビジネス国にみる農業と情報工学の融合からの質的研究
    森田 純恵, 中村 一稀, 菅原 渓, 紺野 登
    2023 年 26 巻 p. 137-157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/13
    ジャーナル フリー
    本研究の主旨は、オランダ農業の成功要因を分析し、農業と情報工学の融合のあり方を考察、日本の地方創生に適用することである。「施設園芸をめぐる情勢」によるとオランダのトマトの収量は、1980年代から飛躍的に増加している。最初にオランダが環境制御技術に圧倒的に強く、農業ビジネス国として世界2位という位置を維持できる要因を抽出する。調査方法は、オランダの環境制御装置メーカーへのインタビューと、日本各地の地方創生事例分析とする。オランダの成功要因はシステムデザイン・マネジメントにあり、一方日本の成功事例は、関係人口の構築とダイナモ人材(=目的志向の知識創造に従事する人)の存在にある。そこで日本の異分野融合の地方創生事例をダイナモ人モデルで抽象化し、これらを実例に則して再構築することで、オランダの成功要因を日本の地方創生に向けたイノベーションプロセスに取り込むことを提案する。
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