パーソナルファイナンス研究
Online ISSN : 2189-9258
ISSN-L : 2189-9258
4 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
査読付論文
  • 堂下 浩
    2017 年 4 巻 p. 7-17
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー

    厚生労働省は2015年1月に公表した「労働市場分析レポート」で、非正規労働者が近年増えた大きな原因として、増加傾向にある廃業した個人事業主の雇用の受け皿として機能していると論じた。個人事業主の廃業増加を貸金業法の影響のみで捉えることはできないが、法改正が個人事業主をはじめとする中小零細事業主の資金繰りの面で廃業に拍車を掛けた蓋然性は否定できない。

    そして2016年12月に貸金業法改正から10年が経過したが、上限金利の引下げが中小零細事業主の資金繰りに硬直性を高めた状況に変化はない。我が国の開業率、廃業率は先進各国に比べ大きく見劣りするが、無担保・無保証融資という小口金融が機能していない点もその理由の一つであろう。

    一方米国で急成長を遂げる新たな金融手段としてフィンテックに脚光が浴び、その国内導入への機運が盛り上がっている。米国では中小零細事業主向けのトランザクションレンディングを含め、様々なビジネスモデルのフィンテックサービスが先行しているが、これらフィンテックサービスを我が国の成長戦略に活用するのなら、中小零細事業主向け無担保・無保証融資の担い手としてフィンテック市場を先ず整備することが政策的に喫緊の課題であろう。

    しかしながら日本において金融庁はトランザクションレンディングを含め、フィンテックにおける融資サービスに対する金利規制の緩和を検討していない。一方で、与党である自民党と公明党はトランザクションレンディングに関して強い関心を示し、そのサービス分野での規制緩和も示唆している。そこで、本論文では貸金業法が零細事業主に与えた影響と日本におけるトランザクションレンディングの現状を把握するとともに、立法府でトランザクションレンディングが政策的に注目される背景と目的を分析する。

  • 伊藤 幸郎, 堂下 浩
    2017 年 4 巻 p. 19-32
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー

    政府は2010年6月に貸金業法を完全施行し、総量規制は同時期に貸金市場に導入された。総量規制は個人年収3分の1を超える貸付を原則禁止するという規制であり、主要先進国において導入されていない制度である。政府が総量規制の導入を含む貸金業法を改正したことにより貸金市場は劇的に縮小し、当時、借り手への影響を危惧する報道が伝えられた。それにも拘わらず、総量規制が貸金市場に導入されたことによる借り手への影響を調査した学術的研究は筆者らを除きほぼ皆無であった。そこで本研究は、総量規制が借り手に与えた影響を債務状況から分析し、総量規制の実効性を検証することを目的としている。

    本稿では、総量規制導入後の1年間に及ぶ借り手の返済に関するデータを大手貸金業者2社から収集し、規制の導入が借り手の返済行動に及ぼした影響を属性別で分析した。以上の分析から、総量規制導入後において返済能力を有する借り手の信用力が悪化したという結果を確認することができた。総括して、総量規制が貸金市場への規制として、その実効性に疑問を投げかけた。

  • 中西 孝平
    2017 年 4 巻 p. 33-52
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー

    近年、民間企業において障害者雇用が進んでいる。しかし、障害者の就労数は障害者全体の1割にも満たず、在宅者数は約300万人に及ぶ。その多くは所得が低く、生活保護を受けている。また、近年、障害者の高齢化が進み、満65歳以上の障害者の全体に占める割合が増加する傾向にあるため、今後、未就労の障害者が増える可能性が高い。そのため、障害者が自ら仕事を生み出し、所得を稼ぐ仕組みの構築が急がれる。

    そこで、本稿では、障害者の生活や就労をめぐる状況や、「生活福祉資金貸付制度」の現状について分析を行ったうえで、同制度を障害者が創業する際の資金調達先として活用するための提言を行っている。

  • 永野 聡
    2017 年 4 巻 p. 53-60
    発行日: 2017/12/31
    公開日: 2018/10/05
    ジャーナル フリー

    織物の一大産地であった十日町において、「からむし(和苧)」は地域由来の歴史的素材である。近年、「からむし」は織物以外での活用方法(食品、芸術作品、等)に関して注目度を増している。それは「からむし」が、地域資源として地域内外の人々に浸透してきている事を意味している。そこで、「からむし」を地域資源としてより一層発展させるためにも、シゴト化を推進して行きたい。本研究では、シゴト化を「稼ぐ仕組みを構築すること」と定義する。そのシゴト化の担い手は次世代にあると捉えている。そこで本研究では、「からむし」を軸とした地域のシゴト化を目指し、活動する地域の主体への実態調査と、これからの主体となる可能性を有する地域内の次世代(小学生、等)に対して、地域学習を実施し、シゴト化への萌芽を捉える事を目的とする。加えて、担い手育成の活動を地域外より支援する側の課題も提示する事を目的とする。その結果、地域資源である「からむし」を活用したシゴト化を目指し、活動する地域の主体である村山氏の活動は、試行錯誤を繰り返し、他主体との協働化を図るソーシャルビジネスとしての様相を呈していた。一方、課題は、属人的な側面が強く、かつ、パーソナルファイナンスの最大限化には寄与しているが、多くの人々へのシゴト化へとは至っていない点である事がわかった。また、これからの主体となる可能性を有する地域内の次世代(小学生、等)に対して、地域学習を実施した。その結果、小学生の「からむし」への理解は深まったが、「からむし」を通したシゴト化を提示する事は出来ていない。その事より、キャリア教育的な側面では、一層の努力が必要であると言える。加えて、本研究のようなボトムアップ型の活動は、その広がりに限界もある。そこで、トップダウン型のアプローチも重要となってくる。「からむし」のシゴト化を推進するためにも、地域ブランド化を検討する必要があると考える。地域ブランドの確立に際しては、行政機関(十日町市)との協働を一層図っていく必要がある。また、クラウドファンディング等のソーシャルファンディングを用いて、マーケティングを実施する事も想定される。加えて、これまで構築してきた地域住民との連携をより密に行い、地域に還元できる仕組みをより一層構築する必要がある。そして、担い手育成の活動を地域外より支援する側は、継続性という大きな壁に直面している事がわかった。今後も継続するためには、各種助成金に頼るという構図も想定される。しかしながら、自立的な活動とは言い難い。そこで、真に地域に必要とされている存在であるのか棚卸しの必要性と、仮にも必要であると判断された場合、専門的知識の供与という課金モデルを提示する事も必要と考える。また、金銭的な指標で計れない地域からの各種支援をどう可視化し、意味付けるかも重要な課題である。

English Summary
編集委員等
奥付
feedback
Top