当研究では、1.患者が食事時間にいつも決まって確保する場所、すなわち縄張りがあるのか、それはどのような場所でどのように確保するのか、精神症状、診断名と関係があるのか。2.個人空間と縄張り、精神症状、診断名とはどのような関係があるのか。について明らかにする。研究方法は、患者が食事する場面を含む前後2時間の20場面について参加観察と補足的データを取るために半構成面接を行った。そしてフィールドノートを基に質的分析を行った。主な研究結果として、患者の縄張りは、社会的な場所(食堂として使われるデイルーム)、私的な場所(ベッドサイド)、特異的な場所(洗濯場、風呂場)の3つに分類された。そして、患者が"自分の場所"と思っている縄張りに他者の侵入、占領があった時には、「抵抗」が患者の表情や言動によって示されていた。個人空間への侵害を示した者は、急性期か、幻聴の活発な慢性の分裂病患者に特徴的であった。このことから、最後に精神分裂病の自我境界構造論と縄張り、個人空間の3点を組み合わせて考察した。その結果、分裂病患者は自我境界が崩壊し硬直化しているだけてなく個人空間をも弾力性に欠け、固定的であること。個人空間の「距離」と心理的な壁を補強するように、縄張りによって、私的な場所で、物理的な「壁」を作ることによって他者の侵入、占領を免れていた。個人空間と縄張りは、脆弱な分裂病患者の自我境界を、防衛するように働いているということが示唆された。
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