昭和50年度から2次,3次採収技術の研究が石油開発技術センターの研究課題として採り上げられ,昭和51年度からは通産省の石油開発技術振興費交付金と民間石油開発企業7社の特別負担金のご協力により特別研究として実施された。
2次,3次採収法は近年世界の石油鉱業界において最も期待されている技術の一つであるが,1976年には米国内で156のプロジェクトが進行中であり,その約3分の2に当る103のプロジェクトは熱採収法に属するものであった。また,重質油油田の多いベネズエラにおいては少なくとも70の熱採収プロジェクトが行なわれており,カナダ,北アフリカ,東南アジア,ラテンアメリカなどでも熱採収法が実施されていた。
このような状況に加え,わが国内でも昭和31年に油田実験の経験もあることから,熱採収法の一つである火攻法を研究のテーマに選定した。計画としては目標を油田実験において,前回の経験を参考に,より改善された方法を検討した。前回の実験における主な問題点は
a) 分離し難い強固なエマルジョンの産出
b) 老朽井の利用に難点があること
の2点であり,これを解決するには油層内に発生する高温の燃焼前線を制御して生産井に到達する前に燃焼を停止させ,燃焼前線の前方に形成されたオイルバンクおよび重力分離により油層下部に取り残された油は,圧入井から空気に替えて水を圧入することにより生産井へ押してやる。この場合圧入水は燃焼後の油層中に蓄積された余熱の移動媒体としても有効である。さらに生産井は坑内で油水とガスを分離し,油水のみポンプ採油することによりチュービング内でのガスによる攪拌を防ぐ。このような湿式火攻法を応用することにより前回の問題点は克服できるものと考え,具体的な計画の作成に着手した。
実験対象油田としては国内15の重質油油田から,採油設備,作業員の確保,予算等を勘案して新津油田を選定し,鉱業権者である協和工営(株)の承諾を得た。この油田は新潟市の南方約15kmの新津市にあり,開発以来約70年を経過し,面積約6.6km
2,累計生産量約300万klである。
対象油層は新津I層とし,Fig. 1に示すようなC-6,C-44,C-45の3坑の生産井を頂点とする面積1,400m
2の三角形のパターンを選定した。
昭和51年2月にパターンのほぼ中心部に着火圧入井兼調査井としてTRC-1号井を掘さくした。採収したコアは米国コアラボ社に燃焼筒試験を含む分析試験を依頼し,検層およびその解析はシュランベルジャー社に委託した。
地上設備は昭和52年8月末に完成し,試験運転後10月4日に,着火圧入井TRC-1号井の坑底に設置した特殊電気ヒーターにより油層への着火に成功した。以後空気圧入を継続して燃焼前線を進め,圧入空気量56万m
3,推定燃焼油層容積約2,400m
3に達した同年12月26日に空気圧入を停止し,直ちに水圧入を開始した。
水圧入は約5ヵ月間継続し,昭和53年5月末日までに12,600klを圧入して終了した。
産油状況については,3坑の生産井のうちC-44号井は着火後約50日で燃焼前線の一部が到達したため坑底温度が上昇し内外圧から油砂を噴出したので,同井の外圧から水を圧入し生産を中止した。したがって生産井として稼働したのはC-6,C-45の2坑のみである。2坑の産油量は実験期間を通じ約180kl(8ヵ月),年間推定約250kl,その後の1年間にさらに約150klが推定されている。
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