近年の油層シミュレーターの多くは無条件安定性を誇る完全陰解法を採用し, 従来のIMPESやSEQ型のシミュレータの弱点であった, 時間スライスの大きさに敏感な数値解の発散, を克服している。しかしこの方法は, コンピュータ上の計算時間と記憶容量を必然的に増大させるもので, ハードウエアの制約等がある場合, IMPESやSEQの方がはるかに実用的で, 対象問題が難しい場合に限りそのメリットが十分に発揮される。
ここでは完全陰解法のメリットを生かしながらそれに要する計算時間を大幅に短縮する数学的方法に関して述べる。
筆者らが“逐次陽化過程 (Successive Explicitization Process)”と名ずけたこの方法では, 複数の未知数を含む非線形系に対する Newton-Raphsbn 反復過程において観測される, 各未知数の収束速度差に注目し, 収束条件を満たす未知数から逐次整合的に固定 (陽化) し, 引き続く反復過程から完全に掃き出してしまう。これにより, 反復過程の前進に従いそれに関与する未知数の個数は急激に減少し, 各段階でマトリックス演算に必要とされる計算量も比例的に減少するため, 計算時間の大幅な短縮が実現される。この方法は, G.W. THOMAS と D. H. THURNAU が考察したAIM (Adaptive Implicit Method) とは異なり, 完全陰解法型シミュレータに適用された時は完全陰解法と同一以上の安定性を保証し, しかもより一般的にIMPESやSEQタイプのシミュレーターに適用した場合にも, それら固有の安定性を維持しつつ加速することが可能である。
本法の実用性のチェックは, H.G. WEINSTEIN, J.E. CHAPPELEAR, J. S. NOLEN が提出している三相コーニング問題を使って行われ, 通常型完全陰解法に比し, 約2倍の高速性を示した。
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