やまだ(2001)は,芸術作品やインタビューの語りをテクストとして用い,死に直面した人が天気へ言及する可能性を検討し,3 つの仮説を提出した。本研究の第一の目的は,それらの仮説を継承し考察を深化させることであった。(A)新視点の導入:語り手の視点に立ち,天気に言及した当人はどのような心理状況で,何をどのように感じ取ったために,天気に言及したかを分析することとした。(B)10 テクストを用いて,先行仮説を検討した結果,次の3 つの修正仮説が提出された。仮説 「親しい他者や自己の死に直面した際,『うつくしい・あかるい・晴れやかな』生のエネルギーを感じさせる『自然・天気・季節』の語りが現れることがある」。仮説 「親しい他者や自己の死に直面した時,感受性が高まり,死とは対照的な『自然現象のうつくしさ・あかるさ・晴れやかさ』を敏感に感じ取り,『自然・天気・季節』に関連づけてそれらに言及されることがある」。仮説 「語り手の視点に立ちつつ,生死の境界における語りの組織的分析を行うことは,日常生活の心理学的現実を生きたかたちで探究する方法として有効である」。(C)先行研究(やまだ,2001)の4 つのテクストを用いて,それらの修正仮説の妥当性を確認し,(D)修正仮説をまとめ,(E)今後の研究の方向性を示唆した。最後に,本研究の論理構造(上記の(A)~(E))自体を仮説継承型ライフストーリー研究の一つのモデルとして提案した。
抄録全体を表示