質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
1 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 田中 共子, 兵藤 好美, 田中 宏二
    2002 年 1 巻 1 号 p. 5-16
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    高齢者を在宅介護する6 人の主介護者を対象として,半構造的面接を行い,質問紙を併用して,介護体験による認知的成長段階について調査を行った。本研究における仮説として,介護に関わる認知が段階的に変化するものと考えた。介護者の認知的反応はおおむね,Ⅰ困惑的反応,Ⅱ否定的反応,Ⅲ肯定的反応の順に現れるとみて,こうした変化に即した認知的な段階として,(1)衝撃,(2)否認,(3)怒り,(4)自閉,(5)認容,(6)統合の6 段階を想定した。各介護者においてこれらの段階が実際にみられるかどうか,もしみられるとしたらどのような順に現れるのかを調べた。また段階の経験の仕方からケースの分類を試み,それぞれの認知が現れる文脈について検討した。そして社会心理学と看護学の接点の関心として,介護者の認知的段階と精神的健康との関連性を探り,最後に今回の知見の持つ,健康心理学的な応用の可能性について考察した。
  • ある更正保護施設でのソーシャルスキルトレーニングにおける言語的相互行為
    松嶋 秀明
    2002 年 1 巻 1 号 p. 17-35
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,非行少年の問題を自明なものとせず,施設のなかでいかに社会的に構成されていくのかが検討された。そのために,ある更正保護施設において,非行少年の社会復帰を目的として行われているソーシャルスキルトレーニング(SST)という一種の心理療法場面がとりあげられた。特に,SST 中のスタッフと少年との言語的な相互行為,そして,スタッフによる,自らの実践,あるいは少年についてのナラティブが注目された。これらを総合的に分析することで,非行少年が「問題のある少年」として周囲からみられるようになる過程が記述された。その結果,SST が抽象的な知識の獲得に主眼をおいてデザインされていることや,スタッフが意図的に少年たちの過去体験を十分に話させないようにしていることなどが,非行少年の失敗を,彼らの能力のなさとしてみせることに役立っていることが指摘された。また,スタッフのナラティブは,自らの実践の正当性を主張するものとなっていた。最後に,SST の中で,いかにすれば少年にとって有用な学びが生まれるのかが検討された。
  • 重度肢体障害者と健常者との狭間のライフストーリーより
    田垣 正晋
    2002 年 1 巻 1 号 p. 36-54
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    本研究は,「軽度」肢体障害者における障害の意味づけについて,生涯発達の観点から,健常者中心の環境における困難と,障害を持つ他者との関係性に焦点を当てて検討した。「軽度」の条件は,自らを「軽度」障害者と認めていて,身体障害者手帳を所持し,日常生活動作が自立していることとした。脳性麻痺あるいは分娩麻痺の対象者3 人に対して,幼少期から現在に至るまでの生活の流れに関する半構造化面接を行った。面接で得られた各ライフストーリーを,「通時的変化」と「現状」という時間枠から分析した。その結果,自己と障害との関係の変化プロセスが語られていた。それは「障害を常態視」→「脱価値的な体験への対処」→「障害を自己の中心に位置づける」というものだった。また,対象者は,障害の種類や程度に基づきながら,障害を持つ他者と同類意識を持っていた。さらに,健常者中心の環境における困難とは,障害が他者に伝わりにくいがゆえに,配慮を受けにくいことだった。このため場合によっては,介助を必要とする際,「軽度」肢体障害者は「障害の呈示のジレンマ」に陥ることが考察された。
  • 「仮説継承型ライフストーリー研究」のモデル提示
    西條 剛央
    2002 年 1 巻 1 号 p. 55-69
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    やまだ(2001)は,芸術作品やインタビューの語りをテクストとして用い,死に直面した人が天気へ言及する可能性を検討し,3 つの仮説を提出した。本研究の第一の目的は,それらの仮説を継承し考察を深化させることであった。(A)新視点の導入:語り手の視点に立ち,天気に言及した当人はどのような心理状況で,何をどのように感じ取ったために,天気に言及したかを分析することとした。(B)10 テクストを用いて,先行仮説を検討した結果,次の3 つの修正仮説が提出された。仮説 「親しい他者や自己の死に直面した際,『うつくしい・あかるい・晴れやかな』生のエネルギーを感じさせる『自然・天気・季節』の語りが現れることがある」。仮説 「親しい他者や自己の死に直面した時,感受性が高まり,死とは対照的な『自然現象のうつくしさ・あかるさ・晴れやかさ』を敏感に感じ取り,『自然・天気・季節』に関連づけてそれらに言及されることがある」。仮説 「語り手の視点に立ちつつ,生死の境界における語りの組織的分析を行うことは,日常生活の心理学的現実を生きたかたちで探究する方法として有効である」。(C)先行研究(やまだ,2001)の4 つのテクストを用いて,それらの修正仮説の妥当性を確認し,(D)修正仮説をまとめ,(E)今後の研究の方向性を示唆した。最後に,本研究の論理構造(上記の(A)~(E))自体を仮説継承型ライフストーリー研究の一つのモデルとして提案した。
  • 質的研究における仮説構成とデータ分析の生成継承的サイクル
    やまだ ようこ
    2002 年 1 巻 1 号 p. 70-87
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    本論の目的は、やまだ(2001a),西條(2002)の研究を生成継承的に発展させ,生死の境界において天気が語られるのはなぜか,その心理的現実アクチュアリティをより深く追求することにある。第2 の目的は,実際に行った仮説構成とデータ分析の循環サイクルを,質的研究の方法論として一般化して議論することである。対話的研究プロセスの実践を可視化することで「質的心理学研究」を新しい研究表現の場として創る試みをする。 まず研究の生成継承性および事例の組織的選択について議論した。次に,研究を精緻化する方向に事例を組織的に追加して,同一作者の縦断的な変化プロセスを「死の接近」「生死の境界」「死後」の3 時期に分けて分析した。生死のぎりぎりの境界の語りは,死の前後の時期とは明確に区別され,明るい天空・天気への言及は日常から非日常の時空間への突然の転調を示すのではないかと考えられた。最後に,3 つのテクストの「生死の境界」を中心にした時期別事例をまとめて修正仮説を提示し,仮説生成と検証の発展のしかたのモデル化を行った。
  • 大倉 得史
    2002 年 1 巻 1 号 p. 88-106
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    従来膨大な量のアイデンティティ研究がなされてきたが,そこにおいては(1)「アイデンティティとはそもそも何であるか」が未だはっきりとはしていない,(2)現代を生きる青年たちが,実際どのようにアイデンティティ問題をくぐり抜けているのかが 今一つ見えてこない,という問題がある。そこで本研究では,現代の青年と一対一で 語らう「語り合い」という新たな方法を用いて,対照的な2 人の青年の独特のありようを詳細に描き出し,彼らのありようの違いが一体何によるものなのかを考察する中で,アイデンティティとは何なのかを考えていくための手掛かりを模索した。その結果,〈自己‐世界体系〉を「問う」態度とそれに「基づく」態度といった概念が生き生きとした事象から抽出され,本研究は彼らのありようの本質的な相違とは,この二つの態度の相違によるものであると結論づけた。さらにこの二つの態度の相違は彼らの「欲望」の相違なのではないか,アイデンティティを探し求めそれを見出していくという直線的な図式で良いのかといった疑問を提起し,アイデンティティとは何なのかを考えていく際の重要な問題点を呈示した。
  • 「この世とあの世」イメージ画の図像モデルを基に
    やまだ ようこ
    2002 年 1 巻 1 号 p. 107-128
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    本論は,現場心理学において質的データからモデルを構成する方法論について,実際の研究を例にしてモデル構成プロセスを考察した理論論文である。まず,モデルとは何かについて考え,モデルを「関連ある現象を包括的にまとめ,そこに一つのまとまったイメージを与えるようなシステム」と定義した。そして論理モードとは異なる図像モードによるモデル作成を提案した。次に現場データからどのようにモデル構成していくか,その実際のモデル構成プロセスを,「この世とあの世」イメージ画研究をもとに考察した。そのプロセスにおいて,Ⅰ基本要素,Ⅱ基本構図,Ⅲ基本枠組と名づけた水準の異なる3 つのモデルが構成された。Ⅰ基本要素は,生の質的データからボトムアップで構成され,分類カテゴリーの作成と再び生データを見直して数量的・質的分析をするために使われた。Ⅲ基本枠組は,理論からトップ・ダウンでつくられた座標系である。Ⅱ基本構図は,最後につくられた媒介モデルで,ⅠとⅢを包括的に関係づけ,基本要素の変化プロセスを位置づける関係体モデルである。これは,質的データの具体性と固有性を保持しながら一般性を表示できる「半具象的図像モデル」として注目された。
  • 活動参加への動機づけ
    安藤 香織
    2002 年 1 巻 1 号 p. 129-142
    発行日: 2002年
    公開日: 2020/07/05
    ジャーナル フリー
    環境ボランティアへの参加は社会的ジレンマとしての側面を持っている。本研究では,参加しないことが個人にとっては優越戦略であるにもかかわらずなぜ大規模な環境運動が存在するのかを,何が参加のメリットとして認知されているのかという側面から検討した。環境運動に参加する20 人のコア・メンバーを対象に聞き取り調査を行った。友人からの勧誘など直接的なコミュニケーションをきっかけに参加した人が多く,全員が最初から環境問題に関心を持っていたわけではなかった。参加によって何を得たかという問いへの回答は「友人・ネットワークの広がり」「自己の有能感」「対処有効性」「活動に関する技能」の4つのカテゴリーに分類することができた。参加者は団体の目的を達成することだけでなく,様々な側面で参加のメリットを感じており,環境運動への参加は広い意味で合理的な行動としてとらえられることが示唆された。
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