本研究は,ドナー家族(以下,家族)が脳死下臓器提供の一連のプロセスで体験した出来事とその心理的軌跡はどのようなものであるか,提供後の家族の長期的な受けとめに,一連のプロセスのうちどのようなことが影響を与えるのかを明らかにすることを目的に行った。ライフストーリー法を参考に脳死下臓器提供を体験した家族3名の研究参加者に,半構成的インタビューを行い分析した。その結果,家族は患者の脳死状態を死と認識することを契機とし,患者の人生の意味の探索を始め意味を見いだす過程で臓器提供の意思決定をしていた。脳死下臓器提供の意思決定に際し,家族はドナーの生前の価値観が明確である場合ドナーの価値観を優先し,それが明確でない場合,家族の価値観に照らし合わせ意思決定していた。ここで,家族とドナーの価値観が一致することは,家族が自身の価値観を再構成したり強化したりすることになり,臓器提供の意思決定を肯定的に受けとめることに影響していた。一方,家族とドナーの価値観が一致しないまま意思決定している場合,家族の心理的揺らぎが継続していた。この過程で再構成されたり強化されたりした家族の価値観は,臓器提供中~後における家族の心理的揺らぎの支えとなり,提供後の心理にも影響していた。また,脳死下臓器提供の各局面における看護師のケアは,家族が患者の人生の意味を見いだす過程に影響を及ぼし,その影響は提供後の家族の生き方にまで及んでいた。
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