質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
17 巻 , 1 号
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  • 安藤 成菜, 松本 光太郎
    2018 年 17 巻 1 号 p. 7-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    ろう者たちに共有される行動様式・生活様式の体系であるろう文化を明らかにする手段として,聴者である筆者がろう者の日常場面に同行した。筆者がろう者の行動・生活実践に立ち会うなかで直接観察した記録には,ろう者の行動・生活実践に対する気がかりや,聴者の当たり前が破られ,驚きを伴う聴者の行動・生活実践への逆照射が含まれていた。本研究の目的は,ろう者の行動・生活実践に聴者が立ち会うなかで記録した事例の検討を通して,ろう者の行動様式・生活様式であるろう文化および聴者の行動様式・生活様式である聴文化を明らかにすることであった。事例検討を経て,ろう文化と聴文化として2点が明らかになった。1点目に,ろう者と聴者では,同じ環境に取り囲まれるなかで,知覚する対象や対象から読み取る意味が異なっていることを明らかにした。2 点目は,ろう者が聴者を相手にした相互行為と聴者がろう者を相手にした相互行為が異なることを明らかにした。
  • ひきこもりへ移行してから危機的状況を脱するまで
    花嶋 裕久
    2018 年 17 巻 1 号 p. 25-42
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,30歳を過ぎても社会的自立をしていないひきこもり状態の息子と同居する親が,その長い年月のなかでどのような体験をしているのかについて検討したものである。息子がひきこもり始めてから家庭内暴力などの危機的状況を脱するまでのプロセスに焦点を当てた。息子が見過ごせない状況になり,わかり合えないやりとりを繰り返していた親は,第三者に助けを求める。しかし,よき相談相手がすぐに見つかるとは限らず,批判されたり,期待外れの対応をされたりしてかえって傷つけられることがあった。また,初期の母親の孤立感は大きく,育て方への後悔や反省を繰り返していた。一方,夫の理解や一緒に問題に取り組む姿勢が母親の支えになっていた。よき相談相手と出会うことによる親の変化とは,息子への具体的な対応の仕方がわかること,問題を共有することで気持ちが楽になること,知識や情報を得ることで息子と距離を置けるようになることだと考えられた。
  • 回復への志向性という観点
    平野 真理, 綾城 初穂, 能登 眸, 今泉 加奈江
    2018 年 17 巻 1 号 p. 43-64
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    レジリエンスの個人差は,これまで主に自己評価式尺度による能力測定,あるいは,何らかの一義的な適応基準 (精神症状の有無等)によって判断されてきた。しかしながら,レジリエンス概念を通したより丁寧な支援と理解 を考えるならば,本人が意識せずに有しているレジリエンス能力や,個々人で異なる回復・適応状態の特徴を描き出せるような視点が必要であると考えられる。そこで本研究では,レジリエンスの個人差をより豊かに理解する新しい視座を得るために,投影法を用いて個人の非意識的な側面も含めた行動特徴を捉えることを試みた。18 ~30歳の男女1,000名に,12種類の落ち込み状況を示した刺激画を提示し,登場人物が立ち直れるためのアドバイスを回答してもらった。こうして得られた12,000の記述データについてカテゴリー分析を行った結果,最終的に14のレジリエンス概念が見出された。続いて,得られた概念を相互の関連から理論的に整理した結果,14のレジリエンス概念は“どのような種類のレジリエンス”(「復元」「受容」「転換」)を“どのような手だて”(「一人」「他者」「超越」)を通して目指すのかという「レジリエンス・オリエンテーション」の視座からまとめられることが明らかとなった。本研究は,これまでのレジリエンス研究における一元的な個人差理解を超える,多様なレジリエンス理解の枠組みを提供するものである。
  • フッサール志向性論に基づく主題分析
    渡辺 恒夫
    2018 年 17 巻 1 号 p. 66-86
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    現実には不可能な他者変身がなぜ夢では可能なのかの現象学的解明を行う。筆者自身が夢日記ウェブサイトに掲 載した99例の自己体験夢事例より15例の他者変身夢を抽出してデータとした。方法はシェフィールド学派に学 び,フッサールの志向性論から関連する志向性分類表を作成して主題分析に用いた。ジオルジの記述的現象学の 方法に倣い,夢テクストの段階的分析進行表を作成して分析を行うが,夢の現象学独自の方法として,夢テクスト に想像的変更を加えて現実テクストを作成し,両者を比較しつつ主題分析を行うことで,他者変身夢に固有の構 造的特徴を抽出した。各例の構造的特徴の比較の結果,適切な分類に達することで他者変身夢の全貌が明らかに なった。分類中,虚構の他者への変身と実在他者への変身が最重要な区分とされ,前者は「準現在化対象の現在 化」,後者は「向現前化対象の現前化」として主題分析された。現象学的解明として,前者は現実における二重の 志向作用が,後者は同じく三重の志向作用が,共に夢では一重になることで他者変身が実現するとされたが,後者 の解明には,ヘルトが他者経験における向現前化を二種の準現在化の協働作業として分析しているところに基づ く,フッサールの志向性分類表の改訂版を用いた。最後に,本稿でなされた他者変身夢の現象学的解明が,他者経 験の自明性をさらに問題化する途を拓く可能性が論じられた。
  • 日系人青年の語りから
    上原 美穂
    2018 年 17 巻 1 号 p. 87-104
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,デカセギとして家族で国境を越え来日した子どものうち,日本の義務教育課程を経験し高等教育 を経て日本の組織に就職した,または就職が予定されている事例を対象に,日本の公立学校での経験を通じてどのような発達プロセスを辿ったのかを,当事者の語りから検証することである。インタビュー対象者は,1990 年代初頭にデカセギで来日した日系人の子どもたちで,内訳は日本で就職するに至った日本に暮らす日系ブラジル人4名と日系ボリビア人2名である。他に,日系人の保護者と,義務教育を経て母国へ帰国した日系人にもインタビューを行った。日本に暮らす6名の日系人へのインタビュー結果は,来日から高校,大学の進路選択までの発達プロセスモデルにまとめた。そこでは,学校生活における困難への気づきと葛藤を起点に,デカセギとしての来日という立場から,自分なりに日本での生活に意味づけをしながら,来日時の受け身の姿勢から,次第に課題克服に向けて能動的な姿勢に変化していく姿が見出された。日系人の子どもたちは環境との相互作用のなかで自分自身の長所となり得るオリジナリティを見出し,そして,それを伸長させながら進路を選択していた。身近なつながりからきっかけをつかみ,自らの地位を築き上げる形で発達プロセスを辿っていた。
  • 高知県芸西村の竹の子笠を事例として
    中川 善典, 桑名 あすか
    2018 年 17 巻 1 号 p. 105-124
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,民芸論や民具学において殆ど着目されてこなかった,民芸/民具の作り手の人生に注目した質的研究で ある。具体的にはまず,準備的検討として,対象物をほぼ共有する一方,殆ど交わることなく発展してきた民芸論 と民具学においてそれぞれ中心的な役割を果たした柳宗悦と宮本常一とに注目し,両者に共通する作り手像とし て「社会から軽視された作り手」「使い手と信頼で結ばれた作り手」「集団的な力に導かれた作り手」の3つを抽 出した。次いで,高知県芸西村に古くから伝わる民芸/民具の唯一の伝承者である宮崎直子氏が笠製作に見出し ている意味を解明するためのライフ・ストーリー・インタビューを行った。彼女は高齢であり,後継者がいない ため,この笠製作の技術は消えつつある。このインタビューにより,作り手に関する上記の三側面は確かに彼女に とっての笠製作の意味を理解する上で重要なテーマになっていることが分かった。また,それらが互いに関連し 合う構造が明らかになった。最後に,消えつつある民俗文化財の保存に際して,作り手のライフ・ストーリーとと もにそれを後世に残す意義について検討した。
  • テレビドラマ『鈴木先生』の映像分析を事例として
    香川 七海
    2018 年 17 巻 1 号 p. 125-142
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,テレビドラマ『鈴木先生』の映像分析を通して,ドラマのなかで,「普通」とされる教師や生徒の 表象を明らかとすることにある。このドラマは,一貫して「普通」の教師や生徒を描写しているが,「普通」とい うカテゴリーを背負った登場人物たちは,個々に「生きづらさ」を感じている。彼らの背負う「生きづらさ」は, 「普通」というカテゴリーを意識し,いかに自分が「普通」でいられるのかを気にするがゆえに生まれるもので あった。登場人物たちは,「普通」でいることに「生きづらさ」を感じつつも,それでもなお,「普通」でいるこ とに執着し,「普通」が当然のことであると認識している。けれど,「普通」であるためには,生活のリアリティ を排除し,あるカテゴリーを「演じる」必要がある。そうしたなか,ドラマ最終話において教室のなかに持ち込ま れた教師の性交渉,避妊のあり方という話題は,教師と生徒が「普通」を脱却する契機となった。
  • ある姉妹の「羅生門」的な語りの分析からきょうだいの多様性を捉える試み
    大瀧 玲子
    2018 年 17 巻 1 号 p. 143-163
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,ある知的障害を伴わない発達障害者(以下,同胞)の姉2人へのライフストーリーインタビューから, 成人期にあるきょうだいの体験を明らかにすることを目的とした。同胞が就労に取り組み,きょうだいは自身のライフコースや親亡き後を意識し始める時期に,家族内できょうだいが担う役割と体験について,姉妹の羅生門的な語りから,きょうだいの多元的な現実を捉えることを試みた。語りからは,診断をもちながらも健常者の枠組みで生きてきた同胞が,精神障害者保健福祉手帳の取得を機に社会的に障害者として生きる選択をしたことが家族の転機となったことが明らかになった。手帳取得のプロセスに沿って語りを分析したところ,姉妹は取得によって同胞像が変化し,家族内の役割や交際相手との関係,将来展望に影響を受けていた。きょうだいは家族内で同胞を支え社会と繋ごうとする役割を担っているが,一方で,知的障害がないことで,将来どのように同胞を支えていくかはあいまいできょうだいに任されていること,成人期というきょうだい自身の人生選択を意識する時期に,障害者の姉として自身の人生と同胞の人生にどのように距離をとるかの違いが,同じ家族の中であってもきょうだいの体験に多様性をもたらしていると考えられた。
  • 「森のようちえん」のお弁当場面にみる食の自律性
    水谷 亜由美
    2018 年 17 巻 1 号 p. 164-184
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本論文では,食の自律性が,いかに「森のようちえん」のお弁当場面における友達との分かち合いに反映されてい るのかについて検討した。食べ物の交換や提供が禁止されていない「森のようちえん」で,20 ヶ月に渡るフィー ルド調査を行い,分かち合い行動の生起の仕方,特徴を分析し,食の自律性との関連を考察した。「森のようちえ ん」の分かち合い行動は,空腹感をはじめとする生理的な欲求から生じやすく,提供者と受領者の欲求が一致する と円滑に進んでいった。だが,分かち合いには,友達との関係性や,好物への愛着や作り手の愛情などの食べ物の 価値が影響していた。幼児は,しばしば一つの食べ物に付与された多様な価値や意味をめぐって葛藤し,いずれか の価値や意味を優先させたり,あるいはそれらの両立を試みたりして,意思と規範の調整を自ら図っていたのであ る。そして,分かち合いは,生理的な欲求を中心とした行動から,近い将来を展望して交換条件を提示するなど,文 化的な価値や社会的な意味を考慮した行動へと変容した。葛藤への対処は幼児にとって簡単ではないが,時間的, 空間的な制約がゆるやかな「森のようちえん」の保育環境は,その場にふさわしい規範を幼児自身が生み出し,意 思との調整を図ることを容易にしていた。分かち合いにおいては,幼児が葛藤に対処し,意思と規範を調整するこ とを通して,食の自律性が発揮されていたことが示唆された。
  • 来日インドネシア人看護師候補者の自己をめぐる意味の再編過程
    浅井 亜紀子
    2018 年 17 巻 1 号 p. 185-204
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本研究は,二国間経済連携協定で来日したインドネシア人看護師候補者が,日本の職場で感じた否定的情動とそれ への対処を,自己をめぐる意味の再編に着目して検討した。計9名の候補者に半構造化面接を行い,インドネシア の病院,看護学校で調査も行った。候補者は母国では「正看護師」であったが,日本では「看護助手」を表す制服 や名札をつけ助手の職務に制限されることにショックを受けていた。その否定的情動は「看護師職への思い入 れ」が強い候補者の場合に増幅した。日本滞在を継続するためには否定的情動に対処する必要があった。対処方 略の一つは「看護助手としての私」を甘受することであった。自身の日本語の限界を認識し,看護師として機能 不全となるのを回避するため「自己評価基準の変更」をした。また収入や旅行など仕事領域以外でのメリットに 目を向ける「評価領域の変更」をして否定的情動を緩和した。さらに,来日当初の正看護師を目指す「目標」を 再設定することで「看護助手」より「国家試験受験生としての私」というポジションを意識の前面に出し合格に 向けて努力した。本研究は,文化接触に伴う職業アイデンティティ・ショックが,看護師をめぐる制度の違いに由 来すること,また前面に出てくる私の意味(Iポジション)を変化させることでショックに対処していることを描 き出した。それは自己評価や目標の変化を伴う心理過程としても説明できた。
  • J. S. ブルーナーと精神の混乱と修復のダイナミズム
    横山 草介
    2018 年 17 巻 1 号 p. 205-225
    発行日: 2018年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル フリー
    本論の目的は,ブルーナーの「意味の行為」論本来の探求の射程を明らかにすることにある。ナラティヴ心理学 の展開におけるブルーナー受容においては,「意味の行為」は専ら物語を介して対象を「意味づける行為」とし て理解されてきた。だが,彼が本来の主張として訴えたのは,人間の意味生成の原理と,その機能の解明という主 題であった。これまでのブルーナー受容は,この論点を不問に処してきた傾向がある。これに対し我々は,ブルー ナーの「意味の行為」論本来の主題の解明に取り組んだ。我々の結論は次の通りである。ブルーナーの主張した 「意味の行為」とは,前提や常識,通例性の破綻として定義される混乱の発生に相対した精神が,その破綻を修復し, 平静を取り戻そうとする「混乱と修復のダイナミズム」の過程として理解することができる。この過程は,何ら かの混乱の発生に伴って生じた,今,この時点においては理解し難い出来事が,いずれ何らかの意味を獲得するこ とによって理解可能になるような「可能性の脈絡希求の行為」として定義することができる。最後に我々は,ブ ルーナーの「意味の行為」論は,心理学の探求による公共的な平和の達成という思想的展望を有することを指摘 した。この展望は特定の文化的脈絡の中で生きる我々が,他者と共に平穏な生活を営んでいくために精神が果た し得るその機能は何か,という問いと結びつくものであることが明らかとなった。
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