質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
19 巻 , 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
  • 科学コミュニケーターによる来館者誘導の身体的プラクティス
    坂井田 瑠衣, 坊農 真弓, 牧野 遼作
    2019 年 19 巻 1 号 p. 7-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本論文では,日本科学未来館で働く科学コミュニケーター(SC)が来館者を次の展示物に誘導するプラクティ ス(やり方)を,相互行為のマルチモーダル分析によって明らかにした。まず,SC が来館者に対し,次の展示 物に向けて歩き始めることを促すやり方を分析した。SC たちは,身体や視線の志向性を変え,次の展示物を指 さすことでその展示物への注視を促していたが,実際に移動が開始されるきっかけは事例間で異なっていた。事 例 1 では,SC が来館者の視界を空けようと立ち位置を変えることで,いち早く来館者の移動が促されていた。 事例 2 では,SC が次の展示物への注視を促した後,自ら移動を開始することで来館者に移動を促していた。次に, SC が来館者との会話を維持しながら次の展示物に向けて歩くやり方を分析した。事例 1 では,SC が来館者に視 線を向け続けることで,相互行為空間が視覚的に保たれていた。事例 2 では,SC は移動前の発話の組み立てに よって,移動中も来館者が会話への注意を向け続ける基盤を十全に形成した上で,全員で前を向いてすばる望遠 鏡模型まで移動していた。これらのやり方は,「未来館スタイル」と呼ばれる日本科学未来館の特徴的な展示物 解説活動を組織するための具体的な方法である。SC が来館者を誘導する際の相互行為は,身体を用いるがゆえ の曖昧さを伴って組織され,来館者の反応に応じて漸次的に再組織されるものである。
  • 物の受け渡しにおける相互行為の微視的分析
    門田 圭祐, 牧野 遼作, 古山 宣洋
    2019 年 19 巻 1 号 p. 26-45
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    物の受け渡しを行う際,依頼者は,発話と身体動作,あるいは,身体動作を,どのように組み立てているのであ ろうか? 本研究では,この問いを明らかにするために,実際の会話データから集められた断片についての微細 な分析を行った。その結果,依頼者は,受け渡される物への限定的なアクセスを示すことによって,周囲の参与 者から渡すことを引き出すというやり方で,依頼を組み立てていることが示唆された。具体的には,依頼者は, ポインティングやリーチングといった物への接近を,自身が物を取りに行くことができない何らかの理由がある ことを示すように繰り出していた。そのようにして依頼者は,渡す(ことを申し出る)機会を周囲の参与者に用 意していた。このことは,身体と環境の関係性の異なり,つまり,物へのアクセシビリティの異なりが,相互行 為を制約するものではなく,相互行為を展開するための資源として参与者たちにとって利用可能なものである可 能性を示唆している。
  • TAEステップを用いた理論構築
    土元 哲平, 小田 友理恵, サトウ タツヤ
    2019 年 19 巻 1 号 p. 46-67
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,第一著者にとっての「成長の瞬間」を生み出した「よいキャリア支援」の意味感覚がどのようなも のか,明らかにすることを目的とした。また,そのような成長の機会を生み出すことが可能な支援のあり方につ いて考察した。「よいキャリア支援」理論を生成するための基本的な分析方法としては,TAE ステップを用いた。 さらに,読み手が理論を直観的に理解できるように,「卓球ラリーのメタファー」を生成した。卓球ラリーのメ タファーにおいては,偶発的かつ複雑なキャリア環境にありながら,個人が主体的にキャリアの方向づけを行っ ていく様相を描くことができる。また,このメタファーを用いることで,ナラティブ論に基づくキャリア支援に おける「解釈」「対話的関係」「主観的時間」といった重要な側面を記述することができる。キャリア支援につい てのメタファーによる理解は,キャリア支援者にとって,身体化された感覚を用いながら,他者と協働的に支援 のあり方を考えるために有効であると考えられる。
  • 増山 由香里
    2019 年 19 巻 1 号 p. 68-82
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,食行為を支える文化的道具の一つであるスプーンを,乳児がどのように自発的に使えるようになるか, その発達的過程とそれを支える大人の役割について,乳児の短期縦断研究によって検討した。保育者の乳児へ の身体的援助行為と,乳児のスプーン使用の獲得までの間に生じている相互関係を観察データから分析し,乳児 がスプーンを使って食事をするようになっていく過程には,いくつかの段階があることが分かった。また乳児が 自発的に食事をするようになる発達的変化の過程には,両者の身体性が強く影響していることが示され,保育者 は乳児との共同的なスプーン使用を通して乳児の身体発達を捉え,身体的援助を少なくしていくことが明らかに なった。これらの結果から本研究では,乳児が自発的に食事をするようになるという自律性の発達には,乳児自 身がスプーンを使っているという身体運動的自己感を持つことが不可欠であることを,フッサールの相互主観性 の現象学の理論等を参照しながら議論した。
  • 本人の認識する復帰に焦点を当てて
    堀内 多恵, 能智 正博
    2019 年 19 巻 1 号 p. 83-102
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,スポーツ傷害受傷アスリートが,自らを競技復帰したと認識する経験に焦点を当て,アスリートが受 傷してから競技に復帰したと認識するまでの経験のプロセスおよび,そのプロセスの中でどのように復帰に対す る個々人の認識が形成,変容,維持されるのかを明らかにすることを目的とした。方法論として複線径路等至性 アプローチ(TEA)を採用し,9 名の受傷経験を持つ男性アスリートに半構造化面接を行った。得られたデータ は複線径路等至性モデリング(TEM)および発生の三層モデル(TLMG)により分析した。その結果,〈これまで の向上イメージが揺らぐ〉〈“戻る” を復帰とみなす〉〈競技離脱経験に価値を求める〉の 3 段階で競技復帰を経験 していることが明らかになった。この過程において,アスリートとしての自己に関する信念と復帰に関する信念 をめぐる変容と維持が生じていることが示された。これらの検討を通して,身体医学的な観点では十分に捉えき れなかった,競技復帰をめぐる個人の内面的な様相を提示した。
  • 社会的環境とのかかわりと言語をめぐる意識の変化に注目して
    ビアルケ(當山) 千咲, 柴山 真琴, 池上 摩希子, 高橋 登
    2019 年 19 巻 1 号 p. 105-125
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本稿は,複数言語環境に育つ子どもが,複数の言語を介した他者とのかかわりや本人の言語への意識を通して, 児童期後半以降,読書活動をどのように意味づけ,実践してゆくのかを検討した。ドイツ居住の一人の独日国際 児の事例において,4 年生から 4 年間,母親によって日誌法により収集されたデータを分析した結果,その読書 活動は次の 2 段階で進行していた。第 1 に,中等学校での成績評価の圧力の高まりを受け,これに関係のない日 本語よりドイツ語の読書を優先するように親が価値づけを修正し,ドイツ語読書を支援していた。さらに読書を めぐる友人との交流により,対象児は楽しみを経験して,継続的な読書活動を行うようになった。このような社 会的環境とのかかわりに誘発されて読書をしていた対象児は,第 2 に,①自身の将来展望における各言語の意味 づけ,②人格的自立の高まり,③認知的発達と自分の言語能力をモニターする意識という 3 点の発達により,複 数言語の読書を自律的に選択・調整するようになった。現地校の成績に関わる動機づけが強いドイツ語や英語の 読書に比べ,居住国の教育課程に組みこまれない日本語の読書は,ドイツの日常では現地校優先により縮小され たものの,日本訪問時の他者との関係や日本への愛着にも影響され,揺れを伴いつつ実践されていた。
  • イアン・ハッキングによる「相互作用」理論に基づいた母親の語りの分析
    渡邉 文春
    2019 年 19 巻 1 号 p. 126-140
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本稿の目的は,自閉症概念の変遷を踏まえ,自閉症当事者の自伝が,自閉症者家族の子ども理解にどのような影 響を及ぼすのかについて,ハッキングの「相互作用」理論を用いて母親の語りの分析を行い,考察し,明らかに することである。ハッキングの「相互作用」とは,概念と人々との相互作用を意味する。専門家によって分類さ れた「人間の種類」が,分類された人々の自己認識や行動様式に変化をもたらす。さらに分類された人々の反応が, 「人間の種類」と相互作用することによって,概念自体を書き換える可能性が生まれる。そして人を分類する概念 や人間の種類が形づくられる基盤となる社会的な状況を,「マトリックス」と定義している。当初,母親 M さん に見えていた自閉症の構図は,健常者のモデル像と我が子の発達を比較することで構築されていた。つまり健常 者をゴールとする同化主義的なマトリックスである。しかし,母親 M さんが当事者の自伝を読むことを通して得 られた視点は,これまでの理解を覆し,母親 M さんの同化主義的な視点と自閉症当事者の考え方が異なっている と分かった。自閉症者家族は,往々にして同化主義的なマトリックスに巻き込まれて,種々の困難に突き当たる。 ところが,自閉症当事者の自伝を読むことで得られた視点によって,新しいマトリックスの中に入り込むことが できる。その結果,自閉症当事者の特徴を当事者に近い視点から理解することができるようになる。
  • KJ法を活用した新人看護師の面接内容の構造化から
    今井 多樹子, 岡田 麻里, 高瀬 美由紀
    2019 年 19 巻 1 号 p. 141-157
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,新人看護師が複数の患者を同時に受け持つ体制下で直面する多重課題対応不全を生み出す因子を明 らかにした。新人看護師 7 名を対象に半構造化面接を行い,KJ 法を活用して構造化した。結果,新人看護師の 多重課題対応不全を生み出す構造は【過去の実習姿勢のまずさ】と【複数患者受け持ちによる業務・課題の同時 多発への対応困難】の狭間で深刻な自立困難感に陥っているという感触を主軸としたものであった。【過去の実 習姿勢のまずさ】は,未だに【勉強が上手くできない】状況を生み,知識・理解の不足は【病態と症状,治療が 繋がらない】状況を惹き起こしていた。臨床では【専門性・個別性の障壁】に突き当たり,複数の複雑な患者を 受け持つ上で弊害となる【看護業務優先度の判断困難】をもたらしていた。さらに,病棟内では,【人間関係の 不全】【報告の不手際】にも悩まされ,自身の感じている不全感を解決する手段・方法においても未熟さを克服 するのが困難な状況にあった。特に重要な課題として,基礎教育では実習段階で(つまり,学生のうちに)学修 姿勢を確立させなければならないことが考えられた。
  • 意思疎通困難な患者を“感じている人”として捉え直す
    田代 幸子
    2019 年 19 巻 1 号 p. 158-174
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,集中治療室看護師が意思疎通困難な患者に対して行う何気ない行為の成り立ちを,看護実践場面の参 与観察とインタビューから現象学を手掛かりに記述するものである。看護師の何気ない行為は,身体という共通 の地盤と,時間的な厚みをもつ経験を手掛かりに,認識や判断の手前で看護師の知覚に直に浮かび上がる直接的 な経験に促され応答するという仕方で実践されていた。また,看護師は患者を意思疎通困難な状態にありながら も “感じている人” として見てとり,その見方に促され主客が分離した枠組みとは異なるケアを成り立たせてい た。そのような何気ない行為は,常に医学的な見方の背後にありそれを支えるものであった。他方で患者が語ら ないことは,看護師に問いかけながら行為するという対話的なあり様を促し,患者との関係の可能性を開いてい た。また,苦痛を示す患者の姿は,日々傍らに立つ看護師に「嫌なもの」として沈殿し,看護のあり方を促した。
  • 上山 瑠津子, 杉村 伸一郎
    2019 年 19 巻 1 号 p. 175-193
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究の目的は,保育者の子ども理解の認識枠組みであるメンタルモデルを明らかにすることである。そのため, 保育者が子どもと関わる際に子ども理解の視点はどのように関連し合っているのかを事例ごとの違いも踏まえ検 討した。対象者は,3 歳児から 5 歳児クラスまでの担任または副担任の経験がある保育者 33 名であった。乱暴 な幼児と内気な幼児の事例を用いた場面想定法による半構造面接を行った。修正版グラウンデッド・セオリー・ アプローチ(M–GTA)を用いて分析した結果,事例に共通した 3 つのカテゴリーと,乱暴な幼児では 15 の概念, 内気な幼児では 12 の概念が生成された。保育者の子ども理解は,行動特徴や内面,背景など主観的な捉えに基 づく【子ども情報の吟味】を軸に展開された。そして,主観的に捉えた子どもの姿を【年齢に応じた発達段階】 と比較・照合することで,相対的視点を踏まえたより適切な理解につなげていく。さらに,子どもに応じて経験 してほしい【園生活を通じた成長期待】を意識することで,今後の子どもへの関わりや支援を含めた子ども理解 が方向付けられることが示された。
  • 大学生男女の語りの比較から
    厚澤 祐太郎, 菅 麻里, 齋藤 慈子
    2019 年 19 巻 1 号 p. 194-213
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,大学生の男女を対象に父親への認識の変化を質的に検討することで,青年期における父子関係の変 化プロセスやその要因,性差について明らかにすることを目的とした。青年期後期にあたる大学生男女 15 名を 対象として個別に半構造化面接によるインタビュー調査を行い,それぞれの認識の多様な変化プロセスを理解す るため,現象や経験のプロセスを描くことに特化している複線径路・等至性モデリング(TEM)を援用し分析 を行った。結果として,男性において,父親は,精神的自立を達成する際に重要な対象として認識されることが 示された。また,男性自身のなかで芽生えた新しい価値観や関心を父親に受け入れられるという体験が,父親へ の認識の変化に大きく影響していることが示された。女性において,父親は,母親以外の要素を持った親として 認識されることが示された。また,母親の橋渡しが父親への認識に大きく影響していることが示された。青年期 を通して,父親への認識の変化における径路や意味付けは男女で大きく異なることが明らかとなった。
  • 実践共同体の再構成に物語が果たす役割
    竹内 一真
    2019 年 19 巻 1 号 p. 214-230
    発行日: 2019年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    近年,伝統的工芸品産業に関しては途絶えていく技術がある一方で,復活を果たす技術もある。復活に際しては 教えを請う先行世代がいないため,直接的に技術やその思想などを学ぶことはできないし,当該伝統的工芸品を 支える実践共同体も失われてしまっている。このような状況において復活を志す当事者は,いかにしてかつての 実践共同体を再構成し,当該技術を受け継ぐ後継者として位置づけられるようになるのか。本研究では兵庫県多 可町で漉かれる杉原紙の復活を行った当事者たちに研究協力を依頼し,不在の先行世代との関係性の構築プロセ スを明らかにした。本研究では杉原紙の復活を行った復活第一世代と第一世代から教えを受ける復活第二世代の 二つの世代の当事者に対して,ライフストーリーインタビューを行った。その結果,復活に際しては過去の技術 と現在の技術を結び付けられるような物語を見つけ出し,その物語に基づいて実践共同体の再構成を行うという ことが示された。また,復活に際しては一つの物語だけでなく,複数の物語で結び付けることで不在の先行世代 との関係性をより強固にしていくということが示された。
feedback
Top