質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
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  • 職場における活躍と伸び悩みに着眼して
    鈴木 智之, 池尻 良平, 池田 めぐみ, 山内 祐平
    2021 年 20 巻 1 号 p. 7-31
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
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    本研究は,職場での若年労働者のパーソナリティを通した人物理解という社会課題に立脚し,広範なパーソナ リティに関するビッグファイブ研究の理論的蓄積を踏まえて,職場での活躍と伸び悩みというコンテキストにお ける若年労働者のパーソナリティ特性表現を探索するものである。具体的には,以下の二つのリサーチクエスチョ ンへの検討を目的にした。第一に,若年労働者において,5 因子の構造が得られるか,というものであり,これ を共通性の確認とした。第二に,若年労働者のパーソナリティ特性を記述する上で,5 因子に追加すべき項目は 何か,というもので,これを独自性の探索とした。方法として,日本国内大手民間企業 6 社に所属する 22 名への インタビューを行った。結果として,249 個のパーソナリティ特性表現を抽出した。代表的な尺度と比較を行っ た結果,TIPI– J に 104 個,主要 5 因子性格検査に 139 個,FFPQ– 50 に 119 個,BFS に 144 個,日本版 NEO–PI–Rに 151 個該当し,5 因子全てへの該当が見られ,共通性が確認された。それらの既存尺度には含まれないパーソナリティ特性表現が 69 個見られ,独自性が存在することが確認された。以上から,上述のコンテキストにおける 若年労働者のパーソナリティ理解について,ビッグファイブの既存尺度だけでなく,独自性を含めた概念が必要 であることを示唆した。
  • 「抱っこ」の判断を巡る専門性に着目して
    加藤 望
    2021 年 20 巻 1 号 p. 32-48
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    一時的または断続的に利用される一時預かり事業では,子どもは不慣れな保育環境や親しみが浅い保育者,流動 的な友人関係の中で過ごすため,情緒が安定しない場合もある。そのため一時預かり担当保育者には,子どもの 情緒を早期に安定へ導く専門性が必要となる。本研究では,一時預かり担当保育者が,保育の中で情緒が安定し ない子どもを「抱っこ」する際の判断と,その背景にある専門性の一端を明らかにする。研究方法では,トービ ン(1988, 1989)の Video– cued Multivocal Ethnography を使用した。一時預かり事業で行われる保育を動画撮影し, 後日,それを視聴しながら保育者へのインタビューを実施した。収集したインタビューデータについては,質的 データ分析の手法である Steps for Coding and Theorization(SCAT)を使用して分析した。その結果,一時預かり 担当保育者は子どもの情緒を安定に導くために,①子どもの家庭文化に保育方法を合わせること,②子どもの選 択による緩やかな担当制をとっていること,③子ども理解と自らの保育の意図を言語化し,同僚に伝えながら保 育を営んでいることが明らかとなった。
  • Kさんのライフヒストリーから
    日高 直保
    2021 年 20 巻 1 号 p. 51-62
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    近年日本では,AYA世代のがんサバイバーに対する注目が高まっている。AYA 世代のがんサバイバーは,医療的問題だけでなく教育や就労など社会的問題にも直面しており,がんサバイバーの視点をふまえた問題理解が望まれている。そこで本研究では,AYA 世代のがんサバイバーである K さんを対象としたインタビューを行い,個別性を尊重した情報を得ることを目指した。具体的には,インタビューを通じて得られたデータをライフヒストリー法によって再構成し,Kさんの経験を記述した。また,記述した経験をもとに,K さんのレジリエンスについて考察した。分析を通じ,入院生活を送る中で生命や自立性を脅かされる状況に直面し,恐怖や葛藤を感じながら,他者と関係する中で自立を目指す K さんの姿が描き出された。また,K さんのレジリエンスとして,家族や看護師,友人といった周囲の人々からの関わり,経験に肯定的な意味を見出す力,そして出来事に潜む肯定的な可能性を具現化する力の存在が挙げられた。
  • 辻本 昌弘
    2021 年 20 巻 1 号 p. 63-81
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本稿は社会科学における生活史研究の意義と方法を明らかにするものである。生活史とは,インタビューや文書 史料などをもとに,ひとりの人物の来歴をくわしく記録したものである。本稿では,生活史研究におけるインタ ビューと解釈の特徴について検討したうえで,以下の 2 点を指摘した。①生活史研究の意義は,既成の通念を揺 さぶり新たな解釈を生みだす手がかりを提供することにある。②生活史研究の意義を実現するためには,イン タビューにおいて出来事を具体的に描写する口述─出来事の写生─を語り手から引きだすことが必要となる。 以上を踏まえて,生活史研究における聞き手のインタビュー技術をめぐる諸問題,さらにインタビューで口述さ れた内容を編集して生活史を執筆するうえでの諸問題を論じた。最後に,生活史研究は,語り手・聞き手・読み 手の言語コミュニケーションをつうじて新たな解釈を豊かに生みだすものであることを指摘した。
  • 活動を休止した設立者の語りの分析から
    橋本 あかね
    2021 年 20 巻 1 号 p. 82-99
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    日本のフリースクールは,不登校の子どもにとっての居場所として位置付けられてきた。先行研究では,フリー スクールを近代学校制度に対する批判から生まれ,それが有する問題点を乗り越えようとするものとして肯定的 に捉えてきた。しかし,多くのフリースクールは 10 年ほどで閉じられてしまう。そこで,本稿はフリースクール の活動を休止した事例の分析を通して,フリースクールと称される実践の構造的問題について検討することを目 的とする。フリースクールを 10 年以上運営し,その後活動を休止した 2 名の設立者の語りを複線径路等至性モデ リング(TEM)を用いて分析した。その結果,フリースクールにおいては目の前の子どもの現実や社会状況に向 き合うことと大人が掲げる理念を貫くことが常にせめぎ合いを続けながら実践が展開されるという構造的な問題 が存在しており,それゆえ設立者が掲げる理念がフリースクールの設立運営にプラスに作用する反面,理念と現 実とのずれにより,理念が実現できる新たな実践を求めて活動の休止へと作用する場合もあるという理念の両義 性が明らかになった。
  • 今井 多樹子, 高瀬 美由紀
    2021 年 20 巻 1 号 p. 100-113
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    継続学習を推進させる行動は,看護実践能力の一つの重要な要素といえ,臨床看護師は看護実践能力向上のために,日々何らかの学習行動を展開している。本研究の目的は,看護実践能力向上に不可欠な臨床看護師の学習行動を明らかにすることであった。臨床看護師 522 名に無記名の自記式質問紙を配布し,記述文で回答を求めた。253 名の回答者から臨床経験が 5 年以上の中堅・熟練看護師 227 名を抽出し,テキストマイニングで分析した。その結果,言及頻度が高かった主要語(キーワード)は,名詞では『自分』『研修』『先輩看護師』『実践』『勉強会』『経験』『カ ンファレンス』などであった。動詞では『行動する』『振り返る』『知る』『聞く』『調べる』などであった。看護実践能力向上に不可欠な看護師の学習行動は,主成分分析とクラスター分析による類型化から【患者看護の実践を通した学習】【調べる・聞く行為を通した学習】【知識・技術・コミュニケーションを通した学習】【積極的な事前学習】【上司・先輩看護師が放つ職場環境下での学習】【失敗を通した学習】であった。看護実践能力向上に不可欠な看護師の学習行動には,実務経験の最中に展開できる能動的な行動力が求められた。なかでも特に,【調べる・聞く行為を通した学習】は,看護実践能力向上に不可欠な看護師の学習行動を考える上で最も特徴的で重要と考えられた。
  • 旧成員との関係継続と新成員との関係生成
    桃枝 智子
    2021 年 20 巻 1 号 p. 114-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,クラス替えを伴い進級したことによって,旧クラス集団の解体と新クラス集団への加入を経験した幼 稚園年中児の仲間関係の変容を検討し,子どもにとってのクラス替えの意味を捉えることを目的とした。年中児 1 名を対象に,年中進級から一年間,仲間関係を中心に観察した。その結果,対象児はクラス替え後,新しいク ラスへの所属意識を持ちながらも,クラス替えによって隣クラスに所属した旧クラス出身児との関係を一年を通 し継続させた。一方で,新しいクラスにおいても,旧クラス出身児との関係を継続しながら,別クラス出身児・ 新入園児との関係も新たに生成した。11 月以降になると,対象児は所属や出身が混合したメンバーと遊ぶ姿も確 認された。クラス替え後,新クラス集団での新たな仲間関係の生成,クラス替え前の仲間関係の継続と変容,所 属クラス集団を超えた仲間関係の生成といった多様な仲間関係の動きが起きたことが明らかとなった。この背景 には,クラス替え後も継続して遊びたいという子どもの希望と,クラス集団の境界を緩やかに捉える保育者の考 え方が相互に影響し合い,子ども達が互いのクラスを行き来し関わり合う,年中 2 クラス独自の仲間文化が生成 したことが考えられた。子どもにとってクラス替えは,能動的に仲間関係を広げる体験となる可能性が示唆された。
  • 手放されない移行対象に焦点をあてて
    岩﨑 美奈子, 井原 成男
    2021 年 20 巻 1 号 p. 133-148
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は移行対象とのかかわりにおける青年期女性 10 名の語りをグラウンデッド・セオリー・アプローチを用 いて質的に分析することで,量的研究では焦点づけて議論されていなかった移行対象の心理的役割を検討したもの である。分析の結果,移行対象の心理的役割は幼少期から青年期へと変遷をたどることが示唆された。その変遷は, 「移行対象によって自己感を強め個体化を促すプロセス」として一つの中心となるカテゴリーに集約された。移行 対象は,従来の移行対象研究で論じられてきた母親の代わりとしての心理的役割だけではなく,「情動調整の手段」 や「唯一無二の存在」として扱われることを通して所有者の「自己効力感の獲得」に寄与し,「自己感の強化」に 貢献することが示唆された。また,青年期においては子どもから大人への自立を促す役割を担うことが示唆され, 移行対象は必ずしも手放されて文化的活動へ拡散していかなければならないものではなく,発達段階に応じた心理 的役割が存在することが明らかとなった。
  • 眞崎 光司
    2021 年 20 巻 1 号 p. 149-167
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,輪読実践に参加することによる大学生の批判的思考態度の形成がどのような実践の特徴によって支 えられているのかについて解明するとともに,そのことに批判的思考の表出の問題がどう関わっているのかを解 明する。そのため,大学生が正課外に行っている輪読実践に注目し,エスノグラフィによって記述した。先行研 究によると,輪読は大学生の批判的思考態度の形成に有用であると考えられるからである。その結果,輪読実践 への参加によって,既存研究において確認されていなかった「証拠の重視」をはじめとした批判的思考態度の形 成が確認された。それらの態度は,責任や信頼を伴う継続的な学習者同士の関係性や正課外学習活動の目標や行 動の自由度の高さによって生まれる古参者の社会的クリティカルシンキングによって支えられていた。これらの 結果は,尺度を用いた自己評価による測定を基にした既存の批判的思考態度の研究に対して,エスノグラフィと いう研究方法の有用性を示すとともに,学習者同士の継続的な関係性に焦点を当てることの重要性を示した。ま た同時に批判的思考態度の形成を目指す教育実践における正課外学習活動の有用性を示した。
  • 歌うことによる人生のかたちづくり
    山下 世史佳, 虫明 眞砂子, 松本 健義
    2021 年 20 巻 1 号 p. 168-186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究では,現在活躍しているアマチュア声楽家のライフストーリーから,歌うことによる人生のかたちづくり を明らかにすることを試みた。高齢でもなお生き生きとしている 3 名の歌とともにある生き方を,「サクセスフ ル・エイジング」の事例として検討した。また,3 名のライフストーリーを比較することで,それぞれの生き方, 考え方,音楽への向き合い方などを掘り下げ,共通の新たな知見を見出した。その結果,3 名の人生における歌 うこととの関わり方には異なりがあったが,幼少期や思春期からの歌好き,向上心,向学心の高さ,歌に関する 目標を有するなど 7 点の共通点が明らかになった。また,3 名の歌うこととの関わりの語りから,歌の活動によっ て未来を志向する精神的変容がもたらされるという共通の視点が見出された。これらは,歌によって導かれたサ クセスフル・エイジングであり,あらゆる世代にとって人生のかたちづくりの指標となると考える。
  • サウンド・エデュケーションの発展的実践事例「きくこと日記」の教育的意義
    神林 哲平
    2021 年 20 巻 1 号 p. 187-206
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究の目的は,サウンド・エデュケーションにおける音日記を発展させた活動である「きくこと日記」の具体 的事例から,小学生の日常的なきく経験について探究し,その教育的意義を考察することである。現場での問題 意識と先行研究から,①人の話と音楽といったように区別して捉えられがちなきく対象について共通性を見いだ すために,どのような原理に基づいて分類すればよいのか,②小学生の日常的なきく経験をより包括的に捉える ために,どのような教育実践の工夫ができるか,という検討課題を導出した。①については,現象学的知見に基 づき,「実在性」「言語性」「音楽性」「指向性」といった視座を設けた。②については,名称変更と例示を記載し ないワークシートを作成した。検討を踏まえた上できく対象の分類を行った結果,16 通りの諸様相が見られた。 そして,具体的事例とアイディによる現象学的知見とを照らし合わせ,四つの視座の相違によって多様なきく経 験がなされることが示された。最後に,本研究で得られた知見がさらなる教育実践に与える示唆について考察した。
  • 園児はどのように自分の食事量を盛り付けるようになるのか
    小野 友紀
    2021 年 20 巻 1 号 p. 207-223
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    バイキング方式による食事提供を行っているサクラ保育園(仮名)において,対象児アカネが自分の食事量を盛 り付けるようになる過程をエスノグラフィーの手法を用いて縦断的に観察し,配膳(盛り付け)活動に着目して 検討した。分析枠組みには,ロゴフの「導かれた参加」の概念を借用し,文化的道具の使用と意味の橋渡しに注 目して分析した。その結果,社会文化的集団としてのサクラ保育園における固有の食事提供方法と,そこで展開 されたアカネと保育者の相互作用の過程が明らかになった。具体的には,文化的道具としての「食器」は単なる 器というだけでなく,盛り付けられる「料理」そのものを示すこともあれば,盛り付け分量の目安を「測る容器」 や,保育者との「意思疎通の道具」にもなっていたことが窺われた。配膳(盛り付け)活動における保育者や他 児との相互作用では,アカネは「食べたい分量を盛り付ければよい」というメッセージを受け取っていたと考え られ,この点で「意味の橋渡し」が行われていたと考えられた。
  • 大災害の当日生まれの青年の苦しみと回復過程
    舩木 伸江, 矢守 克也, 中村 翼
    2021 年 20 巻 1 号 p. 224-236
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,阪神・淡路大震災当日生まれの青年の「苦しみ」とそこからの回復プロセスについて考察したもので ある。震災の発生当日に生まれた青年に直接的な被災体験はない。しかし,本来喜ばしい日である自身の「誕生日」 が多くの人の「命日」であることを知った青年は,独特の苦しみを抱える。誕生日の話題を避け,誕生日が近づ くのを恐れたのである。一般的に,被災者が災後ストレスから回復するプロセスでは被災体験を語ることが重要 な役割を果たすが,この青年の場合,誕生日を語れないことが最大の苦しみであり,特に,遺族の前で話題にす ることをタブーと考える点が特徴的であった。その青年が,現在,震災遺族も所属する語り部団体で活動をして いる。「誕生日」が,「語ってはいけない日,話題にしてはいけないらしい日」から「誇らしい日」に変わるまで の変化を促したものは何か。それは,青年の両親,および,被災者(特に,遺族)との交流を通して徐々に獲得 された,この青年なりの「表現活動」であった。本論文では,青年の苦しみ(ストレス)とそこからの回復過程 をパーソナルヒストリーとして描き,分析する。
  • 手作りの科学としての夢研究をめざして
    渡辺 恒夫
    2021 年 20 巻 1 号 p. 237-255
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    非専門家,「素人」でもできる手作りの科学としての夢研究法をめざし,夢の物語論的現象学分析を構想する。「実 践基礎編」では,夢日記のウェブサイト上の作成から始まり,ユングに基づく夢の物語構造分析,ポップカルチャー に示唆を得た夢の異世界分析,「夢世界の原理」に基づく現象学的分析の三段階を経て夢の意味に到達するという 物語論的現象学分析が,手作りの科学に相応しい分析法として提唱され,著者自身の夢日記からの事例の一つに ついて実践された。「理論編」では,現象学的夢分析の源流を,ジオルジの記述現象学と,フッサール志向性分析 に基づく渡辺の夢の現象学の試みに求め,さらにレイコフのメタファー論を援用することで,「夢世界の原理」の 成り立ちを明らかできることが示された。「実践応用編」では,実践基礎編の続きとして 3 事例から成る夢シリー ズに物語論的現象学分析を適用し,夢の意味すなわち深層のテクストに到達することを試みた。「考察と結論」で は,本稿で用いた夢の現象学的分析と夢の神経認知説とが,相互補完的関係にあることが論じられた。最後に, AI 支配の世界の到来にあたって手作りの科学という新しい科学の形を構想することの意義が,改めて述べられた。
  • 濱谷 雅子, 島田 恵, 岡本 有子, 河原 加代子
    2021 年 20 巻 1 号 p. 256-277
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究の目的は,訪問看護師が療養者とどのように関わり足病変のケアを行っているのか,そのプロセスを明 らかにすることである。訪問看護経験 5 年以上の看護師 17 名にインタビューを行い,修正版グラウンデッド・ セオリー・アプローチ(M–GTA)を用いて分析した。看護師は療養者に安心感の保障をした上で,ケアを慎重に 試みることで,足病変をケアできる関係を療養者と築いている。そして専門家としてのサポートをしながら,療 養者の継続できるやり方への変換および,治したい気持ちの発掘・強化をすることで,足病変のケアを療養者の 生活に位置づけている。ケアを慎重に試みるプロセスの中核には「拒否感予防の一時退避」がある。この概念は, 他人に見せることを躊躇しやすい足に着目したが故に抽出されたと考える。また,専門家としてのサポートは,「任 せて見守る」と「改善/悪化を防ぐアクション」のバランスを保つことで成り立っており,看護師は療養者の個 性が見えてくるまで,さらにその後も,そのサポートを継続することが重要である。病態悪化のリスクを見極め ながら,療養者に任せて見守ることは,看護師だからこそできる重要なケアである。このように,足病変のケア を目的に訪問した看護師は,一見遠回りに見えるプロセスを辿りながらも,焦らずじっくり向き合う姿勢で,足 病変をケアできる関係を療養者と築き,そのケアを療養者の生活に位置づけている。
  • 看護師が設立した保育園のフィールドワークから
    東村 知子, 鮫島 輝美
    2021 年 20 巻 1 号 p. 278-297
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,看護師が設立した保育園のフィールドワークにもとづき,医療的ケアを必要とする子ども(医療的ケア 児)の保育を可能にする「分けない」実践について,その実践を支える仕組みと道具,および医療的ケアへの保育 士の関与の二つの側面から明らかにするものである。医療的ケア児が退院後の地域での生活で直面する課題の一つに,保育の受け皿の少なさがある。本論文では,小規模保育園など四つの施設を経営する NPO 法人 Z を設立した 看護師とスタッフ,保護者へのインタビューと参与観察を行い,その「分けない」実践が,医療的ケア児の保育を 可能にする上で重要な役割を果たしていることを見出した。この「分けない」という特徴には,病気や障がいのあ る子どもと他の子どもたちを分けない,園で働くスタッフを職種や働き方によって区別しない,自分たちの業務を 限定しない,という三つの側面があった。また,そのような実践は,異なる施設の経営などの仕組みや,一人ひと りに必要なケアやスタッフの業務を可視化する道具によって支えられていた。保育士が行う行為としての医療的ケ アは限定的なものであるが,医療的ケア児と他の子どもたちが一緒に生活し,そこにすべてのスタッフが関わるこ とで,保育士が看護師の実践に周辺的に参加し,医療的ケアに不可欠な役割を担うことが可能になっていた。
  • 初級日本語の一斉授業における相互行為分析
    佐野 真弓
    2021 年 20 巻 1 号 p. 298-314
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    第二言語教室談話研究では,多くの研究が教師の視点からの相互行為に注目してきたのに対して,学習者の私的 な発話や学習者同士で行われる相互行為は,周辺的なものとして扱われてきた傾向がある。本稿は,そのような 学習者間の相互行為の中でも,特に,教師に指名を受けた学習者と他の学習者との間で,教師の発問に対処する ために展開される相互行為に焦点を当て,それが教師を中心としたやり取りの中でどのようにして起こり,実際 に何をしているのかを明らかにする。分析に会話分析の手法を用いて,発話だけではなく視線方向や身体的動作 といった非言語的リソースも含めることで,その場その時の状況に応じて多様に変化する相互行為を教室の参加 者の視点に基づき検討した。その結果,教師の発問に対処するための学習者間の相互行為は,学習者らが教師に よって開始された IRE 連鎖に注意を払いつつ,その連鎖に「侵入」しないようにして行われていたことがわかった。
  • 対人援助職を目指す大学院生のグループから
    山下 朋美
    2021 年 20 巻 1 号 p. 315-333
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/12
    ジャーナル 認証あり
    本研究は,文章作品を読んだ後,ファシリテーターおよび他の参加者との対話を行う構造を持つ Interactive Biblio/ Poetry therapy(対話的ビブリオセラピー)を日本で初めて実施し,参加当事者の視点からの語りを通じて,参加 者の体験過程を明らかにし,対話的ビブリオセラピーの治療的構造と各要素の役割を説明する理論を生成するこ とを目的とした。計 5 名の対人援助職者を目指す大学院生に計 5 回の対話的ビブリオセラピーのセッションを行 い,計 2 回の半構造化面接を実施した後,内容を M–GTA によって分析した。結果,対話的ビブリオセラピーの 体験過程として計 31 個の概念と計 5 個のサブカテゴリー,計 9 個のカテゴリーが生成された。対話的ビブリオセ ラピーの体験における中心的解釈として「3 つの内と外との往還を繰り返しながら多面的な気づきが進展する過 程」が明らかになった。総合考察では【対話的ビブリオセラピーの構造】として 3 つの内と外の世界の往還と多 面的な気づき,対話的ビブリオセラピーについてのナラティブ,外部の人の侵入の捉えられ方について論じ,【対 話的ビブリオセラピーの各要素】として読む機能,メタファー,書く機能,対話の機能,グループポエムの機能 を検討した。本研究では,今後,日本で対話的ビブリオセラピーを導入することの意義を明確化し,多様な実用 の可能性を提示する一助を担った。
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