アイデンティティの連続性や斉一性は,自己とともに他者による知覚を通して深まり,発達する。自閉スペクト
ラム症(ASD)においては,本人そして身近な家族や他者との相互作用である関係システムからの検討が重要で
ある。本研究では児童青年期にかけてASD をもつ本人が診断説明を受け,自己受容していった3 事例を対象に
支援経過と母親インタビューを通して,縦断的かつ回顧的に本人のアイデンティティの発達危機とこれを支える
共通の関係システムについて検討した。その結果,本人のアイデンティティ発達は,対人相互交流の困難を抱え
る自分に直面し,個人内では溢れかえる苦痛や葛藤を受け止め,伴走していく家族・社会システムの受け皿・他
者機能によって支えられていた。関係システムについては,①親への診断説明前後における親子間の関係性変化,
②個人的な過去の語り(自伝)と親子双方におけるアイデンティティ模索,③学校との連携・ネットワーク形成
─親以外の大人との心理的安全基地,④特定の同輩友人との関係形成─ “こだわり” を介した関心・情緒の
共有と孤独感の和らぎ,⑤児童青年期における本人を捉える親側の視点転換,の5 つの視点が見出された。加えて,
本人の発達危機の乗り越えを支える,親側から時系列でみた関係システムには3 段階の変容過程(①親子間の良
好な関係性変化,②受け皿機能の高まりと再考,③親側の視点転換)があることが考察された。
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