本研究は,記憶に障害を持つ高次脳機能障害者が生活の場において現在(いま)をどのように生きているのかをフィールドワークによって明らかにしようと試みたものである。ある作業所に通う,記憶に障害を持つ高次脳機能障害者 3 人の行為から記憶のありようを見ていくことにより,生活の場において記憶障害がどのように現れるのかを分析した。これを通して,高次脳機能障害者が自分の記憶障害をどのように経験しているのか,そして周りの人々と共にどのような生活世界を作り上げ生きているのかの検討を行なった。メンバーの記憶障害の特徴は,過去のある時間の記憶がなくなること,記憶を想起できてもその一部が欠落してしまうこと,行為に必要な記憶をタイミングよくまとまりのあるものとして想起できないこと,記憶を想起できるまでに時間がかかることなどである。しかし,これはいつもではなく,「時折」であった。また,作業所では,メンバーとスタッフが作り出した「システム」によって記憶障害が見えにくくされていた。高次脳機能障害は,外見から障害がわかりにくいという意味で「見えない障害」と言われてきたが,当事者とそれを援助する人との関係によっても「見えない
障害」になることが考察された。
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