本稿は,一人の音楽教師による表現教育を主題としたアンサンブルの授業を取り上げ,そこで採られている授業方法とそれを支える授業の原理を統一的に捉えることにより,学校の授業という時空間内で,表現主体としての生徒の「学び」がどのように構築されるかについての,一つのあり方を示そうとするものである。小学校でのアンサンブルの授業を,アイスナーの「教育的鑑識眼と教育批評」(Eisner, 2002/ 1st ed., 1979)の方法によりながら記述・解釈することを通して,教師が近代学校の秩序の及ぶ教室空間内に自律的な表現者共同体をつくり出し,そこに一人の熟達者として参加する形で,「文化的実践への参加」としての学びを実現していること,またそこでは,教師がモデル性を帯びた一人の熟達者として,子ども自身の価値判断を促していることが示され,子どもたちの主体性を喚起しながら音楽性の深化が追求されていることが評価された。このような「学び」を学校において創出する意義は,教師-生徒の垂直的な関係を抜け出し,多様性を重要な原理とすることで力量の差は大きくても対等に対話でき,個々の存在を互いに認めあう関係性がつくられている点に見いだすことができた。
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