質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
特集号: 質的心理学研究
20 巻, Special 号
20号発刊記念臨時特集企画「現場研究報告」
選択された号の論文の34件中1~34を表示しています
  • 東村 知子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/25
    ジャーナル フリー
  • 修復的対話という視点から
    綾城 初穂
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S2-S8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/10/01
    ジャーナル フリー
    児童生徒の主体的な問題解決が求められる生徒指導において,修復的実践は有用な方法となり得る。しかし,現場では修復的な対応が行われている一方で,修復的実践という観点から実践事例が検討されることはほとんどなかった。そこで本研究では,学校現場で行われた対立解決の話し合いを修復的実践の観点から検討することを目的とした。小学生児童2 名の間の対立解決の話し合い過程を,ナラティヴセラピーの視点に基づいて作られた修復的実践である修復的対話の枠組みから検討した結果,個人を問題視せず関係に焦点を当て,各児童のストーリーを尊重し,その主体性を重視する,主として問いかけを用いた学級担任の働きかけが,関係修復をもたらしていたことが示唆された。加えて,本実践には,児童が問題解決できる範囲を見極める担任の教師としての専門性と,個人を問題視しない学校側のチーム体制の姿勢も寄与していたことが推察された。本稿が示すように,現場の実践を意味づける研究は,見えにくい有益なスキルを広く利用可能なものとする上で役に立つと考えられる。
  • 石田 喜美
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S9-S15
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー
    本稿では,変化しつつある現代日本の図書館と,司書・図書館関係者の姿について現場報告を行う。本稿では特に, アナログからデジタルへとその重点を移行させつつある世界的動向の中,図書館界において注目されている2つのキーワード─「ネットワーク」と「創造性」─に着目し,日本のローカリティにおけるこれらの現れを描出することをねらいとした。はじめに,日本十進分類法擬人化普及委員会や「としょけっと」を例に,公的なネットワークとは異なる場で生起しつつある,新たな草の根的ネットワークの存在を示した。次に,未知なる状況を創り出す「ゲーム」という媒体に着目し,それを調査ツールとして用いた実践での司書・図書館関係者のゲームプレイ上の会話の記述から,そこに見られる創造性の姿を記述した。最後に,司書・図書館関係者が彼らの草の根的ネットワークの中で行う創作活動とゲームプレイ中に見られた創造性とがグラデュエーション状に位置すること,そのどちらもが既存のリソースや環境への応答として生み出されていることを指摘した。その上で,エンゲストロームが提起した「菌根」の概念を援用し,司書・図書館関係者のネットワークや創造性が図書館内外に繁殖する「菌根」に根ざしたものであると考察した。
  • コロナ禍におけるリモート防災実践の現場から
    矢守 克也, 舟橋 宗毅, 岡田x 夏美, 原 夕紀子, 中野 元太
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S16-S21
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー
    コロナ禍で,研究者が現場に物理的に身体を運べないことは,現場研究(フィールドワーク)にとって,一見したところ,明確なマイナス材料で,致命的にすら見える。しかし,現場研究の危機は,現場研究について根底から再考するための好機でもある。実際,コロナ禍を「逆手にとった」現場研究を模索しようとする動きがある。現場研究の困難を,リモートではできなかったこと(ステージ0),リモートでもできたこと(ステージ1),リモートだからこそ新たにできたこと(ステージ2),以上三つの段階をステップアップすることを通して,その進化・革新へとつなげようという姿勢である。本論文では,防災・減災の領域を事例として,リモートだからこそ生まれた新境地(ステージ2)と位置づけうるような現場研究について報告する。第一は,掲示・放送・手紙といったリモート・メディアを使って,外国人居住者や高齢者の避難訓練への参加率を向上させた事例である。第二は,地理情報システムのオフセットモードを利用して,高齢者の避難行動について離れた場所で実地検証し,その結果を防災と健康づくりを一体化させた取り組みとして提案しようとしている事例である。いずれも,リモートに よるリアルの補完ではなく,リモートならではの新たな手法を提案した事例である。
  • 中村 聖子, 上田 敏丈
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S22-S28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,保育の記録に,医療・福祉領域で活用実績のある項目形式の経過記録法「F–SOAIP」を援用し,保育記録への有用性を検討した。本研究により,保育の記録にF–SOAIP を援用する有用性として,①項目による書きやすさ・教えやすさ,②実践の変化につながる「保育の循環的な過程」の意識化,③意図や願いを共有するという記録の意義の再認識,の3 点が明らかになった。F–SOAIP の援用は,スモールステップによる書きやすさや視覚的なわかりやすさにより,保育者の負担感を軽減していた。さらに,保育記録が,保育の循環的な過程を生成することへの保育者の理解を助け,実践への意識と行動の変容につながっていた。さらに保育者がお互いに意図や願いを理解したり尊重したりするためにも記録に意義があると認識するようになり,同僚性や職員全体の組織としての専門性を高めることへの貢献が期待できた。
  • 小松 智子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S29-S34
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,高等教育機関における発達障害学生の就職支援プロセスをソーシャル・サポート機能に基づき分析し,発達障害学生が就職するプロセスにソーシャル・サポートが与える効果を検討することを目的とした。課題を整理し,今後を見立てる段階では,道具的なサポートが重要な役割を果たしていた。就職に向けた取り組みを進めていく段階では,就労移行支援事業所による作業遂行力の向上支援や面接同行など,問題解決に一緒に取り組むサポートが行われていた。なかでも,就労移行支援事業所は,職場の開拓や面接同行を行い,就職に結びつくサポートを提供していた。これらから,本事例では,就職活動の段階においてそれぞれの支援機関と家族が各役割に応じたサポートを提供しながらソーシャル・サポートネットワークを形成しており,就労移行支援事業所がネットワーク間の調整機能を担ったことが,就職に結びつく上で効果的な役割を果たしたと考えられた。
  • 曽山 いづみ, 大西 真美, 杉本 美穂, 大瀧 玲子, 山田 哲子, 福丸 由佳
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S35-S42
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/16
    ジャーナル フリー
    本研究では,離婚を経験した家族に対する心理教育であるFAIT プログラムのオンライン試行実践を行い,オンライン実践における課題を検討した。協力者はFAIT プログラムをよく知っている4 名(別居父3 名,同居母1 名)であった。実践は2 日間に分けて行い,その後アンケート調査とインタビュー調査を行った。オンライン実践では慣れた場所から安心して参加できる・画面越しゆえの安心感があるなどのメリットが大きく,通信環境が安定していればプログラムの内容を伝えるには充分オンラインが活用できると考えられた。オンラインで離婚という傷つきや葛藤の強い話題を扱うには,事前の準備を丁寧に行い「安心して話せる場」を整え,徐々に日常に戻れるよう「終わり方」を工夫する必要があると示された。参加人数の上限やファシリテーターから発言を振っていくことも必要で,遊びの要素を取り入れることも意味があった。適切な工夫により,オンラインでも安全に心理教育を行える可能性が示唆された。
  • 横山 愛
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S43-S50
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー
    本研究は,一斉授業で,指名されていない児童の発話に教師がどのような対応をしているのか,また,教師の対 応によって授業展開にどのような影響が及ぶのかを検討する。小学校2 年生の算数授業の記録を対象に,指名さ れていない児童の発話への教師の対応に関するカテゴリー分析,授業計画と実際の授業展開の比較を通した事例 の分類と考察を行った。その結果,以下の3 点が明らかになった。第一に,教師は指名されていない児童の発話 を授業に活かし,児童の学習に繋げようとしていた。第二に,指名されていない児童の発話への教師の対応がきっ かけとなり,授業計画に変更が生じていた。第三に,指名されていない児童の発話に対して,教師が学習を深め る意図を持つ対応をすることで,授業計画が変更され,児童に合わせた話し合いがなされていた。具体的には, 指名されていない児童の発話を授業計画に関連づけて扱う場合には,〈追究〉し,指導内容に近づけていた。また, 指名されていない児童の発話を授業の問いとして扱う場合には,〈繰り返し〉によって,疑問を共有し,話し合い に繋げていた。以上の事例分析から,教師が指名されていない児童の発話に受容的に対応し,柔軟に計画を変更 して児童の疑問について話し合う授業過程が示された。指名されていない児童の発話への対応をきっかけに計画 とは異なる展開となった場合にも,学習の深まりに繋げられる可能性が示唆された。
  • 松原 悠, 矢守 克也
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S51-S58
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー
    筆者らは,愛知県において行政機関や企業の関係者らとともに,南海トラフ地震発生時の復旧戦略の事前検討を 行ってきた。大規模災害の発生から72 時間は救急救命活動にとって非常に重要な時期として知られている。一方, 72 時間以降に関しては,いつごろ・どのような活動を実施すべきかという「発災からのタイムライン」について の社会的な合意が存在していない。この相違はあるべき復旧戦略についての見解の相違としてあらわれ,実際に 災害が発生した場合に深刻なコンフリクトにつながる可能性を有する。災害が発生する事前の段階で「発災から のタイムライン」に関するコンフリクトをマネジメントできる「タイムライン・メディエーション」の手法が求 められる。筆者らは,他者の視点への気づきを促す災害ワークショップ手法である「クロスロード」を原型とし つつ,試行を通じた改善を実施することで有効な手法(手法名:タイムラインズ)を開発した。本手法の活用に より,大規模災害からの復旧戦略に関する事前検討プロセスの改善を実現することが可能である。
  • 「自分」が語り出される,まさにその時に着目して
    木谷 岐子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S59-S65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー
    自閉スペクトラム症の女性当事者が,似た体験を持つ他者と関わり合い,対話することには,具体的にどのよう な効用があるのか。この問いを明らかにすることが本研究の目的である。本研究の調査対象は,知的な遅れを伴 わない,自閉スペクトラム症の女性当事者が集う,ピアサポートグループ26 回分の対話データである。分析方法 として,まず,対話データを文字化し,やりとりされる対話を繰り返し観察した。次に,「自分」が語り出される, まさにその時と捉えられる対話が生じているデータに着目し,会話分析の手法を用いて検証を行った。分析の結 果,ピアサポートグループの対話には,“なぞる”,“ずれを感じる”,“なぞりを呼び込む”,“ずらす” という4 つ の対話の要素が含まれていることが示された。4 つの対話の要素の中でも,特に,“なぞりを呼び込む”と,“ずらす” やりとりは,対話する相手の心身態勢に積極的な交渉をもちかける能動的なやりとりであると考察した。
  • Aさんのライフヒストリーを通じた考察
    日高 直保
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S66-S73
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/29
    ジャーナル フリー
    本研究は,対話が乳がんサバイバーにどのような変化をもたらしうるか明らかにすることを目的とした。個別性 を損なわず事象を理解するべく,本研究では一事例分析を行った。具体的には,50 歳代で乳がんに罹患し,対 話カフェに参加していたがんサバイバー1 名にインタビューを行い,ライフヒストリー法を用いてその経験を記 述した。インタビューからは,がんに罹患したことで生活における危機に直面し,自らの生き方を再考すること を余儀なくされながらも,対話を通じ自身の考えや行為の幅を広げ,新しい人生を歩み始めたがんサバイバーの 姿が描き出された。ライフヒストリーをふまえた考察では,対話を行うことが,参加した乳がんサバイバーに考 えや行為の広がり,および自分自身やがんによって生じた変化への『ゆるし』をもたらすことを指摘した。また, 対話カフェをはじめとする対話の場が,乳がんサバイバーが新しい生き方を模索し,実現していく一助となる可 能性も示唆された。
  • 村上 幸史
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S74-S81
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/05
    ジャーナル フリー
    「運が減った」や「運の量は決まっている」のように,運が資源のように語られる,いわゆる「運資源物語」は 現在の日本では地域や世代に限定されず,広く普及している。本研究では過去に移民した日本人が持ち込んだ「運 資源物語」が現在でも移住先で語られている可能性を探るために,南米4 か国に住む日系人および日本人24 名を 対象にした聞き取り調査を行い,その傾向を検討した。調査時期は2013 年から2018 年である。その結果,「運資 源物語」に関して,他者から聞いたり,そのような記述を見たりしたことがあるという経験を持つ者は10 名ほど であり,語られる状況の内容自体は宝くじや人間関係など,日本で語られる状況と類似していた。しかしながら, その頻度や状況などを吟味すると,現在の日本と同様に「運資源物語」が日系社会で語られているという傾向は 見られないと推測された。この理由について,日常生活における日本語自体の使用頻度などから考察された。
  • 模擬授業実践における学部新卒学生との経験差に着目して
    園部 友里恵
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S82-S89
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/05
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,教職大学院の現職教員学生が「評価者」や「助言者」ではなく「学習者になること」を意識して 模擬授業検討会に参加したとき,彼ら・彼女らを「学習者になること」から妨げるものは何かを明らかにするこ とである。本稿では,「対話型模擬授業検討会」と呼ばれるモデルを参照した模擬授業検討会を実施し,そこに参 加した現職教員学生6 名にインタビュー調査を行った。質的データ分析の結果,【「教師」目線の染みつき】【専門 教科での「教師」目線の強まり】【「先輩教員」という立場】という3 つのカテゴリーが構築された。以上を通して, 現職教員学生は,模擬授業実践初期においては自身の専門外の校種や教科の模擬授業実践への参加によって「教 師」目線を回避し「学習者になること」の感覚を取り戻すことができると考察した。また,「学習者」目線を重視 した模擬授業検討会では,学部新卒学生のみならず現職教員学生のプレッシャーや萎縮も軽減させる可能性があ ることが示唆された。
  • 防災アクションリサーチの多声的・多角的現実の表現
    中野 元太, 矢守 克也
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S90-S96
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本研究はアクションリサーチに関与する共同当事者らの「羅生門的現実」を可視化し,それに対応して多声的で 多角的なベターメントを表現する手法として,チェーンド・ビジュアル・エスノグラフィを提案する。具体的に は,メキシコでの防災活動のアクションリサーチを事例として,まず,研究者自身が撮影・編集したビジュアル・ エスノグラフィ(VE)を制作した。次に,研究者から見た現実表現としてのVE を複数の共同当事者らと視聴し, VE に対する共同当事者らのフィードバックをコメントビデオ(CV)としてまとめた。VE と複数のCV として 表現された「羅生門的現実」を,「時間的前提」「空間的前提」「関係的前提」「活動への評価」の視点から整理し, 一つの防災実践に対して多声的で多角的な現実が併存することを可視化し,VE とCV を並置したウェブサイトを 構築した。これにより,共同当事者は,「羅生門的現実」を踏まえて,多声的で多角的な視点をもってその後のベ ターメントにあたることができる。さらに,その成果がまた新たなVE とCV を生むこと(チェーンド・ビジュ アル・エスノグラフィ)を通して,アクションリサーチのさらなる展開を支えることができる。
  • サッカー競技にみられる「テンポ」と「リズム」に着目して
    酒井 晴香, 栗原 翔吾, 齋藤 有史, 原仲 碧
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S97-S104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,スポーツ・コーチングの中でコーチが選手に対して用いることばを主な研究対象とし,普段は注意 が向けられない言語使用の実態と,その語をめぐる解釈および身体感覚について記述することを目的とする。具 体的には,サッカー競技に焦点を当て,個人に内在する時間感覚に関わる「リズム」と「テンポ」の2 語につい て,指導時の発話データを基にしたテキストマイニング分析と半構造化インタビューデータを基にした質的分析 を行った。前者の分析からは,2 語が一つの発話で用いられること,コーチが主指導対象選手群に加え副指導対 象選手群までを自身の視野に含めていること,テンポは評価の発話にも用いられることが明らかになった。また, 後者の分析からは,リズムやテンポなどの時間感覚が選手-コーチ間で異なる可能性を理解していることが示さ れ,さらにインタビューの過程でコーチ自身が2 語の解釈を創出していることが示された。本研究の知見は,ス ポーツ・コーチング分野における研究と実践の融合に向けて,具体的な研究方法の一助となることが期待される。
  • 「未来へのメモワール」の実践活動を例に
    杉山 高志, 矢守 克也
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S105-S110
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,まだ起こっていない災害現象を,もう起こったこととして捉えるDays–After の概念を用いて,高知県 黒潮町の住民に対する半構造的なインタビュー調査を行った。Days–After とは,災害の発生を確率として捉える のではなく,将来必ず起こるものとして捉えて語る視点である。この視点は,災害の発生が不可避だととらえる ものであり,時として災害に対する諦めを引き起こしかねない視点である。一見してパラドキシカルな試みのよ うに思えるが,本研究では,災害の発生を確実なものとして捉えるDays–After を用いて,防災に対する前向きな 姿勢を導こうと試みた。具体的には,災害が起こってしまった後,あなたは何を残したいですかという質問を使 いインタビュー調査を行った。その結果,Days–After を用いた質問によって,住民は日常生活を振り返り,その 日常を守るための防災行動を考えるようになった。例えば,被災生活では直接的に役立たないため,非常持出袋 に入れる必要はないと住民たちが考えていた写真や文集などを,非常持出袋などに備蓄するようになった。つまり, “ついに” を考えることによって“ふだん” の大切さが活性化され,“ふだん” の大切さに気が付くことで“ついに” に対する備えが引き出されていたといえる。
  • “久夫の独り言”の意義と可能性
    宮本 匠, 石塚 直樹
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S111-S117
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,「久夫の独り言」と名づけられた短文形式で,被災者自身が復興をふりかえり,経験を伝承することの 意義と可能性について,予備的な考察を行うことを目的としている。「久夫の独り言」は,東日本大震災の経験 を被災者の視点からふりかえり,伝承していくことを狙いとして研究会の中で開発された。「久夫の独り言」は, 短文形式であるため,手記や防災教育教材の作成に比べて,作成者にとっても,読み手にとっても容易であるし, 負担が少ない。また,解釈の余地を残すことができるため,当事者が言語化しづらいような,価値観が対立する 出来事についても言語化できることなどの利点をもっている。また,物語や教訓へと抽象化される手前にある個 人的な経験の断片を知ることで,読み手は作成者の人となりを深く知ることができる。「久夫の独り言」は,被災 後の経験を短文にまとめて話しあうという,一見何ら特別の工夫のない,ありふれた実践のように見えて,これ までの復興のふりかえりや災害伝承の試みにない意義と可能性を秘めている。
  • 坂井田 瑠衣, 坊農 真弓
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S118-S124
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本論文では,盲ろう者が指点字通訳を介して相互行為に参加する場面において,いかにして指点字通訳者が盲ろ う者に対話相手の発するマルチモーダルな情報を伝えているかを報告する。指点字とは,盲ろう者が他者と対話 するために用いられるコミュニケーション方法の一つである。指点字通訳者は,視聴覚的な資源にアクセスでき ない盲ろう者に対して,対話相手の発話内容だけでなく,対話相手やコミュニケーション状況に関するさまざま な情報を伝えている。本論文では,対話相手の相槌,頷き,笑い,指さしといったマルチモーダルなふるまいか ら発せられる情報が,いつどのように指点字通訳者によって盲ろう者に伝えられるのかを,盲ろう者の福島智氏 が参加した相互行為の微視的な観察によって報告する。指点字通訳者は,対話相手の発するマルチモーダルなふ るまいを盲ろう者の手に集約して伝えることで,盲ろう者が対話相手の発話や反応を理解することに貢献してい ることが示唆される。
  • A文化センターでの演劇ワークショップを事例に
    中山 博晶, 長津 結一郎
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S125-S131
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/13
    ジャーナル フリー
    本稿は,障害者の芸術表現における社会的意義の考察を行ったものである。これまでの研究では,障害者の芸術 表現のプロセスに「障害/健常」といった非対称なカテゴリーを問い直す契機が潜在することが指摘されてきた。 なかでも,芸術表現のプロセスに生起する障害者と芸術家の関係性は,主体間の差異を表す「共犯性」という概 念によって捉えることが提起されている。本稿では,こうした先行研究の視点を共有しながら,A 文化センター での演劇ワークショップでフィールドワークを行った。そこでは「参加者」と「ファシリテーター」の関係性が 時に一元化し,時に多元化するような芸術表現のプロセスが生まれていた。ここから,演劇ワークショップに関 わる障害当事者とアーティストの間に「共同性」と「共犯性」が入れ子のように生起していることを指摘し,障 害者の芸術表現において「障害/健常」を問い直す力学が,その入れ子関係のなかで生まれていることを示唆した。
  • 記号論的領野に着目した身体的実践へのアプローチ
    山本 敦, 門田 圭祐, 牧野 遼作, 古山 宣洋
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S132-S139
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー
    指導においてその焦点となる対象を示すことは不可欠だが,身体的実践では焦点が動きや知覚内容といった言語 的には容易に示しがたいものであることも多く,時として困難を伴うことが知られている。本稿ではピアノレッ スンで観察された指導の焦点を指し示す演奏音へのポインティングが,その不可視性への対処と楽曲上の位置お よび表現上の特徴の特定という困難をいかに解決しているかを分析した。分析の観点として,相互行為分析の中 でもグッドウィンの文脈的統合態概念を用い,記号論的領野間の相互関係を分析した。その結果,身体志向の枠 組みや行為連鎖上の位置,発話を通して,鍵盤や手と演奏音との隣接性が際立たせられることで,鍵盤や手が演 奏音を指標するものとしてポインティングジェスチャの指標対象となるという二重の指標関係によって,不可視 性は対処されていた。また演奏はポインティングジェスチャと共起する際に,時間的進行や演奏姿勢の一部が操 作され誇張されることで,特定の楽曲上の位置や表現上の特徴が,視覚的にも聴覚的にも際立たされていた。こ の誇張された演奏状態の一部分を選択的に指さすことで,ポインティングによる指導の焦点の特定は可能になっ ていた。これらの結果は,身体的技能の指導における知識の言語化の観点から議論された。
  • 妹尾 麻美, 三品 拓人, 安田 裕子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S140-S147
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,予期せぬ妊娠を経験した女性が子どもを「産む」と決めた事例を,キャロル・ギリガンの議論から示唆を受けたケアの倫理を用いて,分析・考察する。これまでの研究は女性の「産まない」決定に焦点を当ててきたが,「産む」決定について十分には論じてこなかった。そこで,いばらきコホート調査による妊娠女性 48人への聞き取り調査のうち,「産む」決定について語られた 1 人の女性に焦点を当てる。女性は不安や苦悩を抱えながらも,身近な他者と話しあい,ときに拒絶もありつつ交渉し「産む」ことを決める。このプロセスのなかで, 女性は自分のこと,周囲の他者のことを考え,自他に配慮しながら責任を引き受けていた。それに対し,周囲の他者も女性の声に応答・配慮しており,ここにはケアの応酬が見られた。本研究では,女性とその周囲のケアの実践によって「産む」ことに対する不安を解消し,それを引き受けていくプロセスを示した。この結論から,互いへの配慮を基盤とする場の形成を促す必要が示唆される。
  • 「ザ・ベクデルテスト」との出会いをめぐる相互インタビューから
    直井 玲子, 園部 友里恵
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S148-S155
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,インプロ(即興演劇)実践研究者である私たちがなぜ「インプロとジェンダー」の実践研究をし なければならなくなったのかを,上演形式「ザ・ベクデルテスト」との出会いに着目して明らかにすることである。 「女性とインプロ」に関心のあった第一著者は,2017 年8 月に渡米し「ザ・ベクデルテスト」を学び,同年11 月 に日本初上演を手がけた。第二著者はその出演者の一人であったが,「インプロとジェンダー」に関心があったわ けではなかった。しかし,2020 年夏,第二著者は第一著者に日本で継続的に「ザ・ベクデルテスト」を学び上演 するためのプロジェクトを立ち上げることを持ちかける。本稿のもとになっているのは,同プロジェクト開始に むけてなされた,私たちの相互インタビューでの語りである。語りを再読し,相手の語りを通して感じたことを 記述し,さらに相手の記述を通して感じたことを重ねることで,2 人のインプロ実践研究者が共鳴しインプロと ジェンダーの実践研究を開始する過程を描き出した。
  • テーマティック・アナリシス法を用いた青年期当事者の語りの分析
    森 弥生, 日髙 友郎, 福島 哲仁
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S156-S162
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/16
    ジャーナル フリー
    本研究は,東北地方の青年期吃音当事者8 名へインタビューを行い,当事者の視点から発達に応じた支援策を見出すことを目的とした。吃音当事者は,発達に応じてさまざまな問題に直面する。過去の実体験から,どのようなことで悩んできたのか,またその悩みはどのような支援,方策があれば軽減することができたと思うのか,半構造化面接により聞き取り,テーマティック・アナリシス法を用い分析した。結果,親を含めた周囲の大人の吃音に対する知識,および精神的なサポートが必要であること,特に当事者の困る場面として最初に認識される学校において,教員の理解を求め,深めてもらうことが重要と考えられた。周囲の大人の精神的なサポートがあれば,発達に応じて,迷いながらも自らの吃音に向き合っていくことができるようになる。さらにセルフヘルプグループである言友会などを通した社会との関わりにより,吃音を持つ自分をどのようにとらえ成長させていけるのかという,多面的かつ能動的な視点が獲得されていく変容のプロセスの存在が示唆された。吃音当事者とその親だけでなく,言語聴覚士やことばの教室の教諭などの専門家もさまざまな悩みや迷いを抱えながらの対応に苦慮していることから,当事者のみが集まるセルフヘルプグループにとどまらず,親や専門家も一緒に吃音を学び理解する場が地域において必要であり有効と考える。
  • IRE連鎖に着目した相互行為分析
    古屋 由美
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S163-S170
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    本論文では,言語聴覚士による失語症患者への言語聴覚療法において, 「発問(Initiation)-応答(Response)-評価(Evaluation)」の IRE 連鎖がどのように組織されるのかに焦点をあてて,相互行為分析を行った。結果,言語聴覚士と失語症患者による呼称訓練課題では,発話や絵カード操作および視線などのマルチモーダルな相互行為を通じて,IRE 連鎖が組織されていた。また,言語聴覚士は,失語症を呈する対象者の応答に合わせて発話の形式を調整して評価することによって,質・量ともにコントロールされた聴覚刺激や視覚刺激を呈示し,低下した言語機能系を賦活させると同時に,対象者もその含意を理解して応答をしていた。以上から言語聴覚療法において,支援・援助されるとみなされる失語症を呈する対象者も,言語訓練の受け手として能動的に参加することにより,言語機能の改善を具体的に成立させる訓練の場が協同的に構築されていることが示唆された。
  • 心理および司法の専門家の協働の試み
    山田 哲子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S171-S179
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,知的障がい者家族 63 名を対象に,心理および司法の専門家が協働して親亡き後に備える心理教育プ ログラムを実践した。プログラムは家族にプランニングの動機付けを高め,将来の準備を促すことをねらいとした。プログラム後に自由記述式の質問紙調査を行い,1プログラムの新しい視点と2将来の準備をしたいか,3その理由を尋ねた。データは KJ 法を援用した質的分析と計量テキスト分析を行った。質的分析の結果,プログラムの新しい視点としては【家族の事例】や【法的な情報】が挙がった。【家族の事例】は将来の準備をしたい理由にも挙がり,参加者への影響力の強さが窺えたが,【法的な情報】は将来の準備をしたい理由からは見出されず, 法制度利用のハードルの高さが窺えた。将来の準備をしたい理由の質的分析では,プログラム内容を直接反映した【紹介された準備への関心】や参加を機に【自分の家庭に必要な準備への気づき】を得たことを見出した。しかし同時に,将来の【準備を実践する難しさ】のカテゴリーも抽出された。計量テキスト分析の結果,“少しずつ” という語が抽出され,将来の準備はスモールステップで進みたいという家族の気持ちの反映が窺えた。今後は福祉分野などの視点も含め,より包括的な心理教育プログラムへ発展させることが求められる。
  • 地域住民参加型「生き活きカフェ」プログラムの開発実践
    坂井 志織, 細野 知子, 小林 道太郎, 榊原 哲也, 福井 里美, 杉林 稔, 菊池 麻由美, 鷹田 佳典
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S180-S187
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/16
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,地域の中で病い経験を語り合う場をつくる社会実験的試みである『生き活きカフェ』プログラムの開発実践について報告し,病い経験の可視化・共有化の可能性とその効果について検討することである。『生き活きカフェ』プログラムは二部構成とした。第一部ではゲストスピーカーによる『私の病い経験』の語りを参加者全員で聞くこと,第二部は参加者が4 ~ 5 名のグループに分かれワールドカフェ形式で病い経験について語り合いながら,病い経験にまつわるフレーズを記載することをメインプログラムとした。これまでに計5 回実施し,各回20 名弱の参加者があった。アンケート自由記載には,意味のある話が聞けた,よい話し合いができた,楽しかったなどの感想が多く含まれていた。聞き語ることを通して病い経験の意味を自身で見出し,参加者を自ずとエンパワーしていたことがわかった。『生き活きカフェ』は他者の多様でリアルな病い経験に触れる場となっており,参加者らにとって意味があると感じられるような仕方で,病い経験の共有が起こる可能性があるイベントとなっていた。また,第二部で得た病い経験のフレーズは,類型化し31 個を厳選し日めくりカレンダーを作成した。地域住民に500 冊以上配布した結果,カレンダーを媒体とした共感が生まれ,見知らぬ人であっても病む者同士という想像上の共同体が形成されることがわかった。
  • 上西 智子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S188-S195
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/16
    ジャーナル フリー
    本稿では大学が実施する東南アジアでの長期海外インターンシップに参加した学生のオンラインコミュニケーションにおける用途と目的の変化を検討した。参加学生2 名を対象としたPAC(Personal Attitude Construct)分析による態度構造を検討した結果,オンラインコミュニケーションの対象者は海外インターンシップ科目参加前の学生・家族から社会人・外国人へと広がり,新しいコミュニティに入るためにその文化へ適応しようと努力をしていた。そしてオンラインコミュニケーションは,主に家族や既存の友人との連絡手段であったものから,共同目標を達成するコミュニケーションへと変化していた。また海外インターンシップ中の学生は,日本のコミュニティとつながり,居場所を確保した上で新しい環境にて挑戦をし,帰国後は大学へスムーズに戻ることができていた。ただし対面コミュニケーションにおいて不安を持つ学生はオンラインにおいても不安を持つため,インターンシップ業務内容の配慮やオンライン上でのビジネスマナーに関する研修の必要性が示唆された。
  • 尾見 康博, 藤根 美穂
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S196-S202
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー
    部活は日本独自の課外活動の仕組みであり独自の慣習も多い。本研究では,野球部員でもある一人の中学生が,部活顧問の指導をはじめとする部活での出来事を原因として不登校になるに至り,高校の途中でようやく登校できるようになったプロセスを記述する。不登校に至るプロセスでは,部活顧問の体罰や罵倒による指導,先輩部員の自死,双子の兄との比較などがあった。この中学生は,一時は起立性調節障害の診断を受けるほどまでに心身が不調になったが,学校外の空手教室の指導者から力の抜き方を学んだりすることにより,積極的に空手教室に通うようになり,心身の状態も少しずつ回復し,高校進学後1 年以上を経て通常通りに通学できるまでになった。学校教師でもある部活顧問のことばを聞き流さずに受け止める子どもがつらい思いをし,ついには学校に通えなくなるほどまで追い詰められることの問題と矛盾を指摘した。また,不登校の外部要因の一つとして教師の指導があることを確認する意義を論じた。
  • 楽しそうな運動活動から身体的リテラシー育成のニーズを探る
    宮原 資英, 増田 貴人
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S203-S210
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究では,発達障害児の療育支援の現場にエスノグラフィーを導入し,環境の一部となって現場を観察することによって,療育における身体的リテラシー育成のためのニーズの探索と分析を試みた。最低限必要な基本的な運動技能を身につけることによって,生涯にわたって運動を享受することを目指す身体的リテラシーの育成には, 学習課題のやりがいと楽しさが鍵となる。そこで,療育支援の現場の外部者が他者として現場に参入し,そこで 運動遊びを楽しむ子どもの自然な発露として現れた豊かな表情とその状況のうち特に印象に残った 3 場面を一人称の印象派モードのナラティブによって断片的に描写し,その記述内容を省察した。次に,療育支援の現場の内部者 2 名による記述の信用性と省察の確証性のクロスチェックが行われた。続いてエスノグラフィーとクロスチェックのデータをリアリストアプローチに基づいて分析し,療育現場などの状況と療育の機序という文脈の中で,なぜ楽しさを醸成できたかを説明するモデルを提示した。本研究の具体的な記述と洞察は,療育や運動活動の現場で学習者のニーズに応じて身体的リテラシーを達成する際の一助になると考えられる。
  • 臨床現場から立ち上がった問いと対峙し続ける教員の語りから
    田中 千尋, サトウ タツヤ, 土元 哲平, 宮下 太陽
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S211-S218
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー
    本研究は看護教員の経験に着目し,力量形成プロセスを明らかにすることを目的とする。教育実践経験 11 年の教員の語りを,複線径路等至性アプローチ(TEA)を用いて分析した。さらに分岐点に着目し,看護教員がイマジネーションの助けを借りてどのように新たな次元を見出しているか可視化した。分岐点では「専門性の混在」がトリガーとなり,様々なせめぎ合いの中で「自身の学生時代のケアリング体験」や「看護学生の可能性」がリソースとして働き,看護教員は看護の価値を考え続けていた。そのプロセスは【看護教員として学問領域を超えて学び臨床に還元する】という展結(transduction)的解として見出された。教員の力量形成プロセスにおける分岐点には,記号の創造とせめぎ合いが存在しており,文化を創造する一人の教員の姿が明らかとなった。
  • 保育を支える陰の努力の解明
    市川 奈緒子, 仲本 美央
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S219-S226
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/13
    ジャーナル フリー
    本研究は,インクルーシブ保育の実現に悩んでいる保育現場の園長が,現状の困難に向き合い,理想とのギャップに葛藤しながらもどのようによりよい保育実践に取り組んでいるのかを描き出す試みである。インクルーシブ保育の実践に先駆的に取り組む保育現場の園長に,理想としているインクルーシブ保育の実現に向けたさまざまな困難の解決に伴う努力とそのことから生み出された新たな保育実践の実際についてインタビューをおこなった。その園長の語りを修正版グラウンテッド・セオリー・アプローチ(M–GTA)で分析した。その結果,理想とするインクルーシブ保育に舵を切った園長は,インクルーシブ保育の実践とそのことによって生じるさまざまな困難への対処とのバランスを取るための陰の努力をしながら,目の前で変化していく子どもや保護者,保育者の姿や新たな保育実践からエンパワメントされ,「よりよい保育」に向けて努力し続けていることが明らかになった。
  • 回復事例に基づく検討
    信重 綾, 澤田 英三
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S227-S234
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー
    ひきこもり当事者は,支援機関を介した回復過程で,前進を望む気持ちを抱く一方で,不安を抱え,揺れや葛藤 が生じる場合がある。本研究では,ひきこもり経験のある当事者 1 名と支援機関の支援者 3 名に半構造化面接を行い,支援機関において揺れ動きながら前進する当事者に対して支援者が果たしている役割や関わり方,その変遷過程について事例を通して検討した。その結果,相談支援・集団適応支援・就労支援・定着支援の各段階に特徴的な働きかけ・姿勢・態度が見出された。また,支援者の関わりは,支援全体を通して共感的に寄り添う支援から後押しする支援へと変化し,その過渡期や当事者に両価的な感情が生じた際には,支援者が役割を分担することで,当事者の揺れや葛藤をチームで支えていた。さらに,次段階に移行後も,前段階の支援者が変わらず受け入れる姿勢を示し,戻ることのできる場を確保しておくことが,当事者の安心と前進するための活力につながることが示唆された。
  • コロナ禍での3歳児クラスの事例から
    西山 萌
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S235-S242
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/16
    ジャーナル フリー
    認定こども園において3 歳児クラス初期には,初めて集団を経験する新入園児(1 号認定児・幼稚園型)と,すでに園生活に馴染んでいる進級児(2 号認定児・保育所型)が混ざり合う。進級児と新入園児のかかわりについて,コロナ禍の保育では丁寧な実践が行われたため新たな発見が得られた。そこで,本研究では,コロナ禍の認定こども園3 歳児クラス初期に着目し,進級児と新入園児のかかわりの特徴と内容についてレイヴとウェンガーの社会的諸関係性から捉えることを試みた。対象は担任保育者が作成した記録物とし,記録された子どもの行為を動詞化して分析を行った。その結果,進級児と新入園児間特有のかかわりとして,互いに気にかける行為があることが明らかになった。また,気にかける行為に関連する行為を調べた結果,3 歳児が年上の子どもに気にかけてもらう行為が見られることが明らかになった。そして,気にかける/気にかけてもらう事例を分析したところ,新入園児は自分が関心を寄せる物事に関する場面で進級児を気にかけていた一方で,進級児は,年上の子どもと同じように,友達の求めに応じて新入園児を気にかける行為をしていたことが示された。
  • ある打楽器奏者の特別支援学級におけるワークショップから
    永杉 理惠, 若鍋 久美子
    2021 年 20 巻 Special 号 p. S243-S249
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/20
    ジャーナル フリー
    障害のある子どもが楽器を演奏する場合,楽譜にとらわれることのない即興による音楽表現は,その子どもの個 性や障害特性に合った演奏スタイルを活かすことができ,主体的な活動を促すのに適していると考えられる。本 研究はある演奏家の実践と語りから,彼女が特別支援学校・特別支援学級において,障害のある子どもの集団を 対象にした即興による音楽表現活動をどのように展開しているのかを分析した。その結果,彼女の即興による音 楽表現の指導は,打楽器奏者としての音への繊細な感覚が色濃く反映されたものであり,音楽や音を聴くことの 学びを促す活動がその軸となって展開していることを見出した。子どもたちが打楽器の音色やその音の響きに気 づき傾聴し,子ども同士がお互いの音による表現を聴き合いながら即興で自由に音のやり取りをする活動の過程 に,音や音楽を聴くことの学びの意義と,音や音楽によるコミュニケーションとしての意義を見出すことができた。
feedback
Top