三陸海岸の気仙沼沖の水深2,353mから採取された1本のピストンコア(KH94-3,LM-8)について,浮遊性有孔虫の温暖種の産出頻度,底生および浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比(
18O/
16O),有機炭素含有量を測定した.その結果,浮遊性有孔虫の温暖種の産出は,間氷期(酸素同位体比ステージ5
1とステージ1)に多く,氷期(ステージ4,ステージ3,ステージ2)に少なく,三陸沖では黒潮の暖水塊の影響がステージ5
1とステージ1で強く,ステージ4~2で弱かったことが判明した.LM-8コアの底生有孔虫殻のδ
18Oカーブは,外洋域の標準的なカーブとよく一致したが,浮遊性有孔虫殻のδ
18Oカーブは外洋域のそれとは多少異なり,気仙沼沖の海洋表層の環境が過去9万年間に変動していたことが示唆された.また,有機炭素沈積量はステージ5
1,ステージ1およびステージ2で大きく,これらの時代に海洋表層の生物生産量が増加したことが推定された.さらに,鹿島灘沖(CH84-04)・三陸沖(LM-8)・襟裳岬西方(CH84-14)の3本の海底コアについて,浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比から古水温を算出したところ,鹿島灘沖と三陸沖では最終氷期最寒期に,表層付近の水温が7.6℃と4.4℃も低下したと推定された.このような著しい水温低下は,最終氷期最寒期(Last Glacial Maximum, LGM)に三陸沖から鹿島灘沖にかけて,混合水塊や親潮の南下が著しかったことによって引き起こされたと考えられる.
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