第四紀研究
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48 巻, 5 号
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論説
  • 野村 律夫, 河野 重範, 矢島 啓
    2009 年 48 巻 5 号 p. 305-320
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    近年の海面水位変動が汽水域の生態系に及ぼした影響を検証するために,湖山池から柱状堆積物を採取した.有殻質根足虫類(thecamoebians)の産出および堆積物の化学的特徴を考慮することにより,過去約60年の塩分の変化過程を明らかにすることができた.1種よりなるDifflugiaは,1950年以前はわずかしか産出しなかったが,1960年代になると多くなる.そして,最近の30年間は大きく変動しながら産出していた.1960年代の多産は,海面水位の低下期と湖の塩分が低下したことと一致しており,この時はまた,湖山池と海岸をつなぐ湖山川の水門が沿岸海水の逆流を止めていた.1950年代や1970年代の低い産出は,日本列島沿岸域の海面水位の上昇期と一致しており,Difflugiaの産出は海面水位の変動と呼応していたことが明らかとなった.一方で,1980年代以降に海面水位が上昇したにもかかわらず湖内の塩分が低下し,Difflugiaが多産傾向にあるのは,水門によって湖山池が効果的に塩分調整されているためである.
  • 野村 律夫, ローザー バリー
    2009 年 48 巻 5 号 p. 321-338
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    島根県北東部にある神西湖の有孔虫群集について,過去60年間の海面水位変動と洪水による影響について検討を行った.日本の沿岸で認められている1950年代と1970年代の中頃の海面水位の上昇期には,汽水性のAmmonia “beccarii”の産出個体数が増えていた.しかし,1990年代以降の海面水位の上昇とは調和的な増加はみられなかった.1980年代以降のCOD(化学的酸素要求量)の経年変動と比較すると,有孔虫の産出はよく似た変化を示すことから,湖内の有機物量が規制要因になっている.
    また,洪水事件に対して,(1)A. “beccarii”が増加したあとでElphidium excavatumが増える,(2)A. “beccarii”のみ増える,(3)ともに増加する,の3つのパターンが確認された.洪水堆積物には有機物量の付加が認められないが,全体としては個体数の増加がみられる.このことから,有孔虫は洪水によって生産性を高めていることが明らかとなった.
  • 丹羽 雄一, 須貝 俊彦, 大上 隆史, 田力 正好, 安江 健一, 齋藤 龍郎, 藤原 治
    2009 年 48 巻 5 号 p. 339-349
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    濃尾平野で掘削された3本のオールコア(YM, OYD, KZN)を対象に,岩相記載,粒度分析,電気伝導度(EC)測定,AMS 14C年代測定を行い,濃尾平野西縁を画する養老断層系の活動に伴う地震性沈降の履歴を検出した.約1,200年前の堆積物において,KZNコアの陸成層では一時的にEC値が高まり,YMコアとOYDコアのデルタフロント堆積物では急激な細粒化が認められた.これらは急激な海面上昇により,河口付近では陸地が海面下に沈み,デルタフロントでは水深の増加と河口の後退により,粗粒物質の供給が激減した可能性を示す.急激な海面上昇は養老断層系の活動による地震性沈降に起因すると考えられ,この活動はAD 745年天平地震に対比しうる.また,約500年前にはKZNコアにおいて湿地の水没を示唆する植物遺体の含有量が急減し,YMコアではデルタフロント堆積物の急激な細粒化が認められた.これらの変化も同様に,相対的海面上昇を記録していると考えられ,AD 1586年天正地震による地震性沈降に起因する可能性がある.
  • 北川 陽一郎, 吉川 周作, 高原 光
    2009 年 48 巻 5 号 p. 351-363
    発行日: 2009/10/01
    公開日: 2012/03/27
    ジャーナル フリー
    大阪湾夢洲沖コアを用いた花粉分析に基づいて,完新世の大阪湾集水域における植生変遷を復元した.このコアからは多数の放射性炭素年代が得られており,11,100~9,800 cal BPではコナラ亜属やクマシデ属から構成される冷温帯性落葉広葉樹林が発達していた.9,800~9,000 cal BPでは,エノキ-ムクノキ林が拡大し,冷温帯性落葉広葉樹林はやや衰退した.9,000~5,400 cal BPでは,エノキ-ムクノキ林と冷温帯性落葉広葉樹林がアカガシ亜属やシイ属から構成される照葉樹林と交代した.5,400~2,900 cal BPでは,照葉樹林が最も発達した.2,900~1,200 cal BPでは,温帯性針葉樹林が増加し,照葉樹林がやや衰退した.1,200~300 cal BPでは,二次林であるアカマツ林が拡大し,自然林である温帯性針葉樹林や照葉樹林が徐々に減少した.また,緩やかな森林の減少が推測された.300 cal BP~現在では,自然林が急速に減少し,アカマツの疎林やはげ山が拡大した.
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