1982~1983年にかけて,琵琶湖1400 mコアとして掘削された湖底面から基盤までの堆積物(上位よりT層,S層,R層)の編年を再検討した.堆積物に挟まれる火山灰についての既存のフィッション・トラック(FT)年代データでは,800 mの厚みをもつ湖底堆積物は200万年前からのもので,S層に不連続があるとされた.しかし,既報FTデータには,(1)
238Uの自発核分裂壊変定数,(2)熱中性子線量測定,(3)FTの検出効率に関する重要な問題点が含まれている.これらの問題を解決する最近の研究に基づき,8枚の火山灰の既報FT年代値は約40%若く再較正された.深度635.1 mのテフラ試料(B943-3)に最新のFT年代測定を実施し,1.00±0.08 Maの結果を得た.この値は再較正年代と一致する.コアから採取した55層準の試料について,火山灰分析も行った.全鉱物組成,重鉱物組成,火山ガラス形態分類,火山ガラス屈折率,斜方輝石および角閃石屈折率の系統的な記載岩石学的分析に基づき,12層準はテフラでないことが明らかにされ,T層の中に広域テフラ13層準(K-Ah, U-Oki, DSs, AT, SI, DNP, Aso-4, K-Tz, Ata, Ata-Th, Aso-1, Tky-Ng1, Kkt)を含む38試料がテフラと認定された.S層からは今熊IIテフラが見つかり,R層のB943-3は1 Maの猪牟田ピンクテフラに対比された.新しく得たFT年代と広域テフラとの対比から,堆積物の磁気層序が単純に説明できた.堆積物上部469 m厚の正磁極帯はブルネ・クロノゾーン,その下位が604 mと639 m間のハラミヨ・サブクロンを含む松山クロノゾーンに対比される.694 mの正磁極帯はコブマウンテン・サブクロンの可能性がある.再較正されたFT年代値だけでは制約は弱いが,広域テフラや磁気層序境界の年代から,R層,S層およびT層は有意な不連続を伴わず,ほぼ一定の堆積速度で連続的に堆積したものであると示唆される.
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