サハリン南西部のアルカンザスに分布する後期完新世の黒色埋没腐植土から,高率のツガ属(
Tsuga)花粉が産出した.ツガ属は現在サハリンと北海道には分布しない常緑針葉樹である.しかし,これまでに両島の完新統から花粉の産出は報告されていた.サハリン南東部トウナイチャからのツガ属花粉の母樹は,現在の分布北限地とトウナイチャの気象条件の類似からコメツガ(
Tsuga diversifolia)の可能性が高いとされたが,花粉包含層が陸成層でないことから,二次堆積した可能性も考えられた.これに対し,今回報告するアルカンザスの化石包含層は陸成層である.ツガ属花粉は風により遠距離飛散しないため,母樹が調査地周辺に分布した可能性が高い.さらに今回,化石の花粉形態を検討した結果も,コメツガの特徴を持つことが明らかになった.1,700~630
14C yrs BPのアルカンザスにコメツガが分布したことは,北海道とサハリンにおけるコメツガの変遷史を解明するうえで重要である.
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