警察庁資料によれば,日本における交通事故の発生件数は6年連続で減少傾向にあるが,その中で自転車が関連した事故の割合は漸増傾向にあり,平成22年では交通事故全体の2割を自転車関連事故が占めている.また,自転車関連事故の8割以上は「対自動車事故」とされており,今後,自転車対自動車の事故鑑定の重要性が高まるものと考えられる.
自転車事故鑑定において最も重要な点の一つとして,衝突相手である自動車の衝突速度の推定が挙げられ,その算出精度の向上は重要な課題である.しかしながら,自動車のABS(Antilock Brake System)の普及に伴い,路面に残されたタイヤ痕を基に衝突速度を算出する従来の手法が適用困難となる場合が多い.一方,自動車の衝突速度を衝突後の自転車乗員や自転車の移動距離から算出する方法もあるが,速度を算出するための基礎となる自転車の衝突事故再現実験の例は非常に少ないのが現状である.さらには,歩行者事故の解析に関する報告によれば,車両の前面形状の違いが衝突後の歩行者の移動距離に影響する可能性が指摘されており,自転車事故においても同様の影響が考えられる.
このような現状から,本稿では,前面形状が異なる3種類の自動車と自転車との衝突実験を行なうことにより,衝突後の自転車乗員および自転車の挙動や移動距離の違いを比較,検討し,自転車乗員および自転車の移動距離に基づいて自動車の衝突速度を算出する場合の精度と自動車前面形状の影響について考察した.
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