一般財団法人日本自動車研究所では,2010年度から2014年度の5か年にかけ,自動車起因の大気汚染物質濃度および道路交通騒音による,心血管系疾患への健康影響を疫学的見地から明らかにする研究を実施している.研究デザインは,東京都葛飾区の65歳以上の高齢者3,000名を対象として質問票調査を実施し,推計した住宅屋外の環境レベル(大気,騒音)と,心血管系疾患の有症率との関連性を統計学的に解析・評価するものである.
この研究では自動車起因の大気汚染物質(NOx,SPM,PM2.5,PM2.5中のEC)の曝露濃度を必要とするが,そのためには葛飾区全域の南北10km~東西5kmの範囲内に居住する対象者の,一人ずつの居住地点における年平均の曝露濃度を推計しなくてはならない.わが国で比較的広範囲の道路沿道を対象とした疫学研究の代表的なものとして,環境省が2005~2010年度に実施した「局地的大気汚染の健康影響に係る疫学研究」(そらプロジェクト)があげられる.このとき大気汚染物質の曝露濃度推計には,環境アセスメントに用いられる正規型プルームモデルと独自に開発した拡散モデル(MCAD)を組合せて推計した気流場と,環境省の排出ガス原単位および交通センサスベースで推計した自動車排出ガス量が主に用いられていた.
しかしながら,MCADのプログラムソース公開は2012年度以降であり,建築物等の詳細な構造データが必要なことなど,データ入手や計算資源の面での制約が大きかった.そのため本研究では,気流場の推計には正規型プルームモデルである産総研-曝露・リスク評価大気拡散モデル(AIST-ADMER)ver.2.5を用いた.自動車排出ガス量の推計にはそらプロジェクトと同様の手法を用い,AIST-ADMERの最小解像度約100m×100mに合わせ構築した.
本報告では,対象地域の自動車排出量データの作成手法とAIST-ADMERによる大気汚染物質濃度推計の手法の詳細と,得られた結果および課題について述べる.
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