日本の歩行中の交通事故を概観すると,15歳以下の子どもが第一当事者となる割合が高く,さらなる交通事故の低減のためには,子どもを対象にした安全対策が重要となる.また,子どもは将来のドライバ候補であり,一旦停止して安全確認するといった基本的な交通行動や安全態度の育成を図るには,幼少期からの継続的な安全教育が必要になる.基本的な交通行動は,危険感受性能力の育成と知覚-運動学習により習得されるものであり,日常からの持続的な訓練が重要である.しかしながら,日本の学校の状況を概観すると,持続的な訓練が困難な場合が多く,これを可能にする枠組みを構築することが課題となっている.
米国では,子どもの道路の横断を保護するCrossing Guardと呼ばれる人たちが,AAA(American Automobile Association)が発行する道路の適切な横断方法に関する資料に基づき,日常からの訓練を実施した事例が見られる.このCrossing Guardによる日常からの訓練により,子どもの横断時の行動が適切に変容することが示されている.また,英国では,ボランティア(主に保護者)が実際の道路上での訓練を実施する取組みが実施されており,子どもの交通事故の低減に寄与している.
以上のような枠組みは,子どもの適切な安全態度や行動の習得だけではなく,訓練を担当するボランティアなどの安全に関する意識を適切に変容させるといった副次的な効果が期待される.すなわち,訓練の場に参加することで,子どもに教えるための知識の習得の機会が増加し,教育を担当することによる自覚の芽生えが,適切な安全意識の醸成に繋がると考えられる.教える体験を通して,教育担当者自身の態度や行動が変容する事例は,高学年が教師役となって低学年に適切な道路の横断方法を教える小学生向けの交通安全教育においても示されている.
本研究では,低学年児童の保護者を対象にして,自らの子どもの横断行動の訓練に参加することで,保護者自身の行動に関する意識が変容するか否かを把握することを目的とした.
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